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シンクロニシティ

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【PERFORM】 心臓の太鼓が教える抹殺への罪悪感



 18:07 モンストラス世界。支所裏口。



「馬鹿な!!」



「か、管轄。どういたしました? 何が起こったんでしょうか」



 鈴村と桜の二人しかいない支所裏口。桜が目を落とした腕時計は一時間近くモンストラス世界はさかのぼっていた。原因の張本人である桜。鈴村に悟られまいと、何が起きたかわからない雰囲気で接する。



---*---

 鈴村にとって、絶対的な原因が特定できない状況。収容室の前で突然苦しんだ咲。それは刈谷に助けを求めた最後。なぜ咲が突然苦しんだのか。何か発作を患っていたのか。誰かが自殺をして時間が戻っただけか。可能性を考えた。その中でも、モンストラス世界でおきる可能性を熟知している鈴村は、桜に備わった、覚えたてのシンクロの可能性も頭に浮かんだ。もしかして、裏切ったのではないかと。それならなぜ裏切ったのか。

 桜は咲から暴かれるファクターの正体を知りたかった。だが、鈴村には知られたくなかった。鈴村の知らないところで、咲から聞き出すためにも、口を封じるためにも、桜は鈴村と咲を引き離したかった。



 そもそも鈴村が恐れるファクター。それは移住する予定のモンストラス世界を操作される恐れや壊される恐れ。大気が安定した世界を護りたかった。その不安なファクター達を、主に誰が仕切っているのか。春日か、Rの鈴村か。Rの桜は春日から誘われた。それを鈴村は肉体を与える条件でRの桜を寝返らせた。そしてRの鈴村の行方。

 咲が刈谷に伝えようとした人物は誰か。この世しか知らない咲。その咲から、春日の事がファクターのリーダーだという言葉が出るとは考えられない。昔の恋人だったRの鈴村とも思えなかった。刈谷の存在を確認して、その後伝えようとした人物は誰だったのか。

---*---



「水谷……今すぐ俺を咲のところに飛ばすんだ!」



 予想していた桜。この場で再びシンクロを使う事は、まだ確認できていない咲の精神状態の不確かな危険性。万が一、首を絞めた感触や雰囲気が、桜のイメージで固められていた場合、それを鈴村に知られた時、自分にとってどんな不利益を受けるかと桜は心配になった。今、鈴村を咲に合わす事は出来ない。自分の証拠さえ見当たらなければ、しばらくは大丈夫だと。



「管轄……すいません……試してみましたが、体力が戻ってないようです」



「水谷……場所はわかるだろう。どこだ」



 直接咲の自宅に向かおうと考えた鈴村。

 表情から感情を読まれたくない桜。下手に息継ぎをすれば芝居と思われるかもしれない。目を泳がせても、直視しすぎても疑われそうな今、冷や汗のひとつでも掻く前に、自然な言葉を探した。



「管轄、それでは今、所内より地図を持ってきますが、お待ちいただけますか?」



「わかった。車も貸してくれ」



 少しでも時間を稼ぎ、これからの計画を立てたい桜。それは鈴村を遠ざける方法。そして、今だ待ち続けている『指示』。



---*---

 最後に電話で話したRの鈴村との内容は、刈谷を精神病棟へ隔離することによって、Rの桜が出来る全てのことは達成された。精神病棟へ隔離することは桜にとっても待ち続けていた出来事。保護期間の終了までの半年待った今日。180日経った今日。Rの桜は何かを期待せずにはいられなかった。本体の鈴村が今日突然現れたことは、シンギュラリティ世界でその何かが起こる前触れとも感じていた。

---*---



 地図と車の鍵を取りに行くため、支所内の共同職員室に向かう最中、ひとつの大義名分な理由が見つかる。その職員室の途中、聞こえてくる先ほど聞いた声。想像通りに熱気高く、数十人の職員に語る田村。先ほどの駐車場での出来事もあり、屋上での出来事もあり、鈴村に対して言い訳をつくるには具合がよかった。



「職員諸君! 私に続いて数人の職員は目覚めた! この不死現象を裏付ける確かな証拠だ! まだ疑う者もいるだろう……だが疑う者に尋ねたい! 不死現象を説明出来るか!! いないだろう……それは我々は! この世のカラクリに仕組まれているからだ!!」



「田村専任! カラクリとはどんなものですか?」



「ハハハ! 専任と呼ぶにはまだ早いが、間もなくだ! そして俺はそのうちチーフとなる人間! 壊れた春日さんより、俺の方が適任だろう」



「はい! 田村さんは自分の葬式の話を所長に話したりしませんので! きっと隔離されてた下村にも刈谷さん病がうつったんでしょう!!」



「ハハハハハハ!!」



 刈谷が町田に語った話題に、笑いが飛び交う研修室。町田が刈谷を緊急的に拘束した理由は、春日の葬式話が決定的だった。収容室に連行した新人職員も混ざり、重症患者となった下村の出来事も話題に上がっていた。



「同じ職員ならあいつがどんなに嘘を言わない人間か、知ってるだろう……目覚めていない職員には信じがたいだろう。だが、お前達は見たはずだ!! 俺の死体を!!」



 田村が熱弁を奮う職員の研修室前。鈴村と支所の裏口で別れたRの桜は、聞こうとしなくても聴こえてくるその大きく太い声の響く研修室のドアの外で静かにたたずみ、様子を耳で感じていた。



――きっとデジャヴュ前の駐車場での一件を含めて、この世界の違和感をわかる者だけで分かち合っているのね。わからない者には田村と目覚めた職員の神秘に惹かれているほどの熱……仲間に引き込むには危なっかすぎるわ。けれどどうする? 粛清したくても、死なない世界。何度も時間が戻るのは鈴村にまた会わなければならない気まずさもあるわ。Rの鈴村はどうしてるの? このまま本体の鈴村の味方をしているのも、もう、もたないわ。





「この世界は違う! お前らの家族に違和感はないか! 我々は今世界に騙されている! 騙されるな!」



「そうだ!」



「俺は騙されねえ!」



「俺もさっき目覚めた!」



「この世界から抜け出すには自分をこの世から消す事だけだ! 何度か目を覚ました時! お前らは本当の世界で目覚める! 俺についてこい! 今は本部で不死現象会議が始まっている! 今が! その時だ!!」



「田村。あなた……なにしてるの?」



「チーフ……いや、私は……この仕事への団結力を上げようと皆を導いて」



――考えている時間はないわ。少しでも時間を稼いで、もしもRの鈴村が何もアクションを起こしてこないなら……次に本体の鈴村を見た瞬間、人間である鈴村の息の根を止めるわ。簡単よ。今の私なら! 怖がることはないわ! 今の鈴村は無力! シンクロの能力はきっとRの鈴村がそのために私へ備わせた能力! この馬鹿どもの大将を気取っている田村にも、力の差をわからせておいてやる!



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作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ