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シンクロニシティ

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 箱の中にいても『あちらから』逃げることができる『四次元空間の五次元時空』で行動出来る桜。自分の未知なる力に興奮する者。その力は、誰かを対象に試される。

---*---



 運転席から乗り込もうとする職員。車のロックが解除されるのを待つ三人。

 職員の頭部に近づく影。三次元空間には見えない四次元空間。車のドアを開けた時、影の手は両手で斑の頭をつかんだ。



「ぅぐあぁ!!」



「どうした!!」



 ドアを開けた車体の上部に頭部を打ちつけられた職員。それを真後ろで見ていた田村。一瞬の出来事だが、田村は違和感を拭えない。



 職員本人の意思を感じられなかった出来事は、目覚めた思考は柔軟に『なにか』を感じた。



「何かいるぞ!! 警戒しろ!!」



 田村の声に左右を素早く振り向く職員。別の車に乗り込もうとした職員も田村の声に反応して走って近づいてくる。



「頭を!! つかまれました!! ぁあ! ああぁ!!」



「職員!! この車を囲め!! 目覚めを理解させてやる!!」



 気絶までには至らず、真後ろにいた田村を疑わずに痛みに叫ぶ職員。車を囲む職員達。中途半端な職員への攻撃をしてしまったことに苦い顔をする桜。四次元の世界で桜が今感じられる五感は聴覚と視覚。それ以外をまだ開発できていない桜には力加減がわからなかった。

 次第に桜の表情が変わった。それは桜にとってひとつの目的を果たすため芽生えた殺意。もしも、全力で力を込めるイメージをしたらどうなるか。加減が無限ならどうなるか。Rを人と感じられなくなった桜。その野望は本人も想像できないほど膨らんでいた。



――こんな奴らはどうでもいい! 私が運命の保有者となるわ!



 桜の視野が移動する。桜の野望の優先順位が変わった。その目線は再び収容所へ移り、鈴村と咲に接近する。

 その時鈴村は一室の前。すでに刈谷と鈴村が接触していた。



「さっき言った通り、肩書を気にせず話をしたい。手荒な事をした。悪かったな。あの場を収めるためだった」



「あ、あの、いやぁ……謝らないで下さい! それは頭冷えて理解してます……えと、どんな御用ですか?」



「町田との会話をボイスレコーダーで聴いた。お前は正直どう思う? この世界」



「あのぉ……自分は取り調べと所長に話した通りですがぁ……強いて言うならぁ……まるで造られた世界ですか? という印象です」



「そうか、お前はどうしたい。もしこの世がお前の言う、造られた世界であったなら、抜け出したいか?」



「難しい質問ですねぇ……けど、今自分が不自由しているのは……自分の『身元』であって、それ以外は都合悪くありませんがぁ」



 ゆっくりと語りかける鈴村。直前に無理やり拘束したことを詫び、役職を外した会話を求める鈴村。その低い腰に気を取り戻す刈谷。桜のような野望を持たない刈谷は自分の存在を求めた。自分自身が刈谷でありたいことを、それだけ戻ればこの世界で困ることはないと。



「そうか。会わせたい人がいる」



 鈴村のうなずきに気づき、廊下の角から現れた咲。そして真後ろには、影の姿で咲の後ろから歩くRの桜。

 今から聞ける情報より、まずは鈴村の行動を制限させたかった。それが自分の安心感に繋がると桜は本気で感じた。



「私は……春日雄二の婚約者です」



「春日の!! どおりで! 俺の記憶じゃ春日は婚約指輪をしてた! じゃあ!」



「あなたも春日雄二らしいですね」



「私の担当は春日でした……何度も自殺を止められて、彼の真っ直ぐな心に惹かれ、彼も私を愛してくれてました。」



 春日に惹かれ、愛し合った咲。ひきこもった心と生活は、春日の無念を伝えたい気持ちが高まり、咲を刈谷の前にまで足を動かした。



「ですが、半年前から異変が起きました。私と彼の写真が……全てあなたとの思い出になってるんです!」



 恐怖だった。咲が自分の知らないところで想像もつかない事態が起きて、自分はきっと巻き込まれているかもしれないと。普段から感じるデジャヴュに自分も死ねない恐怖に、苦しんで、泣き崩れて、絶望していた。



「私はあなたを知らない!! 周りも私の知っている春日雄二の存在を知らない!」



 誰の記憶にも存在しなくなった春日。咲自身、半年前までの記憶と存在が嘘でないという真実が欲しかった。それを証明できるのは、この世で春日と呼ばれている刈谷ひとり。それは咲にとって勇気となった。心の強さを取り戻せる要素でもあった。



---*---

 咲だけでなく、咲の言葉に、自分の存在が間違いないと、自分を取り戻せる刈谷でもあった。味方は誰もいないと思った。

 隣の収容室で何度も違う世界と感じ、何度も自殺を図った下村。ひとり、またひとりと、自分の存在理由を見つけるため、抜け出すために一歩を踏み込んだ。

 咲は世間的に見られると、自殺志願者。その行動と言葉に、精神を疑う世間の評価では、刈谷の存在証明を確かなものにしないかもしれない。刈谷の認識が春日になった事で、交際相手のひいき目だと、先入観にとらわれた色眼鏡に目を曇らせる者もいるかもしれない。それでも組織のトップである鈴村からの後押しと、確実に増える違和感の世界を感じる者。それはこの世界しか知らない者達の救いと存在意義となった。

---*---



 期待する刈谷と、刈谷に伝えたい咲と、その先にファクターの正体を知ることができる鈴村。四次元空間の、この場にいるRの桜の存在は、咲の首元に忍び寄る影の手は、誰にも、温もりも感じられなかった。



「これはいったい……な………ん……な……あ……あ……たす……けて……きゃぁ……りぃ……ぁあ……さ」



 締め付けられる首。自分で首に手を当てても、何も触れない首回り。異変に気付く鈴村と刈谷。誰の目に見ても、『ひとりで苦しんでいる』ようにしか見えない。四次元の目を持つ者には、おぞましくも、後ろから首を締める桜の影。邪魔する相手もなく、影へ触れられる存在もなく、桜の思うがままに、首は締まっていく。



 深い話を聞く前に、ファクター全ての名前が鈴村へ聞かれる前に、狂気の神となった背信の桜。影である桜の両手の指が、根本まで絡み合ったとき、ここまでの出来事を全てふりだしへ戻した。

作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ