小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

シンクロニシティ

INDEX|80ページ/106ページ|

次のページ前のページ
 

 桜にとって、Rの刈谷に知られる事は良い事か。別のファクターの名前が出た場合、それを収容所で知った本体の鈴村とRの刈谷はどう判断するのか。



『刈谷 さん に、全て お話 します』



 18:39 LIFE YOUR SAFE 支所敷地内。精神病棟収容所。

 その建物は二階建ての、窓に鉄格子も見えない建造物。



 外壁は自然と溶け込んだ穏やかなレンガに見立て、中身は鋼鉄をアルミニウムと亜鉛によってサビや耐久性に優れたガルバニウム鋼板を通常の居住建物の三倍以上に重ねて仕上げた収容所。

 見えない収容者の部屋は、地下三階にまで深まる完全隔離の収容施設。

 会話が成立できる程度であり、危険性の少ない隔離者ほど地上に近い階層に収容されていたが、通常初日の隔離は地下二階とされ、様子を眺められていた。そして今日は稀に見るほど自殺未遂者が少なかった。そのため、収容者に頻繁な階層の移動もなく、警備員の数も少なく、二人の警備員で守られた収容所。鈴村と咲が近づくと、門番と言わんばかりに警備員は立ちふさがった。



「今の時間は面会謝絶です!! 約束もない突然の訪問も禁じられています!! 異議申し立てはLIFE YOUR SAFEの本部へご連絡下さいませ!!」



「管轄の鈴村だ。指紋と静脈を照合しろ」



「失礼致しました!!!! こちらに手のひらをかざして下さいませ!! お付添いの方もお願い致します!!」



 生体認証の読み取り機に手を入れる鈴村と咲。すでに保存データに登録されている二人と、鈴村の最高責任者としての実権の有効性により、容易に入館する。

 当直の医師であり、本体であれば本部常駐医をしているが、Rである香山弥生。警備室からの連絡により地下収容所への入口内部で弥生が鈴村と立ち会う。



「春日雄二は、おとなしくしているか?」



「あ、はい。管轄、お久しぶりです。えと、連行した職員によればですね、暴れないにしろ、言葉で自分が刈谷恭介と訴え続けて、あきらめたのか、せめて食事をしっかりした物を出すようにと言っていたようです。自分自身の認識を除けば普通の会話はできると思いますね。今まで黙認されていたくらいですので」



「そうか、突然ですまないが、面会をさせてもらうぞ」



「わかりました。階層毎に守衛がいますので、私から地下二階に連絡しておきます。あ、あと、春日さんの隣にいた収容者が突然、統合失調か記憶喪失とみられる症状が出ました。そのため地下三階に移しましたので、今、地下二階は春日さんだけですね」



 下村の度重なるデジャヴュによりデータが劣化。シンギュラリティ世界から安全対策により復元処理とされたケース。想像しやすい現象に軽くうなずく鈴村は咲と共に、地下二階へ向かう。



「厳重ですね」



「自殺未遂者が増えましたからね」



 初めて入館する咲にとって、外観からは想像できないほどに厳重な収容所。階層の間にも無人でロックされた扉があったが、遠隔操作により開錠される扉。一階、地下一階、地下二階、刈谷の階層までに五回もの扉を開錠されて入室する地下二階。

 守衛からは刈谷の姿は見えないその階層はコの字に廊下が繋がっていた。刈谷が収容されているのは、守衛がいる場所から角を二回曲がる部屋。明らかに叫べば声が響く気密性を知っている守衛は、春日と呼ばれる刈谷が静かにしていることを鈴村に説明した。

 廊下を静かに歩く二人。けれどその視界は三人で眺めていた。



――ここが刈谷のいる収容所……見えるわ。けれど、二人の声が聞こえづらい。もう少し近づかなければ



『ここに いれば、刈谷 さん は 安心 ですね』



『は い、部屋 は プライバシー保護 のため映りま せんが、廊下は監視カメ ラで見られ ています』



『キャッ!!』



『どうか しま したか?』



『今、肩に何か 触れた ような』



 咲の肩に触れた違和感。それは四次元で近づく桜が、二人の前に出ようと狭い廊下で追い抜こうとした時。桜にも予想外の出来事を知ることができた

 

――触れられる!! この世界でも!! なんてすごい世界なの!! 私はやはり神の力を得たのよ! 肩が触れれば相手にも感じられる。けれど私にはなにも感じない。それは……無敵よ。



 支所の裏口の回りに植えられた樹木の陰でシンクロを操る桜。新しい発見の連続に、もっと対象を変えて試したい気分でもあった。その時、裏口より外にでてくる集団を桜は目撃した。それは専任補佐である田村が、自分の率いる職員十名ほどを連れてどこかに向かおうとする姿。



――田村……どこにいくの? ついさっき支所の屋上で飛び降りたばかり……まさか。



「お前ら!! 今管轄は、本部で不死現象会議の真っただ中だ!! この世界のカラクリを示すいいチャンスだ!! 発見者の我々を中心に世界が動くぞ!!」



 Rの桜は鈴村と咲への意識を置きつつ、自分の場所を含めて地図を見るように視野を拡大する。集中して、頭の中でいくつもの目を持つような気持ちで、それぞれの様子が途切れないように監視する。

 駐車場で三つのグループに分かれる集団。田村が率いる三人を眺めると、田村を含めた四名は赤と青が交互に重なった斑に見える。



――目覚めた四人か。他の集団はまだ目覚めてない。公表する気? 政治家や一般人や職員たち数百人の集まる会議の最中に実演……その中で目覚めた有力者からの恩恵を受ける気? させないわ……神は私だけよ。



 支所の駐車場に向かって歩く集団。田村率いる職員三名の四人は、職員所有する車である一台に全員が乗り込もうと近づく。

 桜を中心にモノクロな世界が広がる。最初は見えなかった風景は、慣れた四次元の目によって鮮明に。斑の桜は田村達の周辺を自分の目の前に世界を動かすイメージで、その場に五人で行動しているように、触れないように、離れないように、今できる足止めを考えながら様子を見る。



――私の能力を、開花させてもらうわ。



---*---

 三次元空間には見ることのできない四次元空間。

 次元とは、空間の集まり。

 もしも四つ目の空間を『時間』とするならば、地球上の生物は『三次元空間の四次元時空(時間と空間)』で生きている。

 もしも、『一次元の人類』がいるならば、その次元の者は、『前と後ろ』にしか歩けない。もしも、前と後ろに障害物があるならば、一次元の者は動けない。それを見た『二次元の人類』は言う。『右か左』に逃げればいいと。

 『二次元の人類』がいるならば、一次元に加えて『右と左』にも歩ける。もしも、前後と左右に障害物があるならば、二次元の者は動けない。それを見た『三次元の人類』は言う。『上か下』に逃げればいいと。

 『三次元に生きている人類』は、二次元に加えて『上と下』も認識できる。もしも、前後、左右、上下に障害物があるならば、つまり、『箱の中』にいるならば、三次元の者は動けない。それを見た『四次元の人類』は言う。『あちらから』逃げればいいと。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ