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シンクロニシティ

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 桜は自分と咲が鈴村のそばにいるようなイメージをつくり、慎重に行くべき位置を決める。自分と咲を認識色の世界で見る。同時に鈴村の位置を確認する。咲の部屋から自分の咲の認識色を駒を配置するように移動させる。けれど実際の世界はまだ移動していない。少しずつRと認識色の違いを理解しながら、同時に何か感じるものがある。



――何か音がする……ジッポ? 「叫ばないでね……『シンクロ』」



     ◆◆◆



 18:19 シンギュラリティ世界。管轄室



「シンギュラリティ世界を乗っ取る? モンストラス世界をどうするつもりなんですか!?」



---*---

 自分が本体の鈴村と思わせるRの鈴村。

 本体の桜の前にいるRの鈴村は春日と手を組み、本体の鈴村からすればファクターと呼ばれる不安因子。モンストラス世界の管轄として君臨していたが、春日のささやきにより、本体に背く行動に走り、本当の世界の住民であることを願い、支所の幹部であるRの桜を取り込み、「世界を一つ」にするという目的で動いている。

 不可解な行動が続くRの鈴村。加藤達哉の館跡で見つけた負傷の春日雄二を治療させた理由。管轄室を乗っ取り、モンストラス世界の成長を500億年進ませる事で待ち受けることは、惑星が完全に寿命を終わらせる事ができる年数を眺めることができる。その後に待つものは惑星の死。EMP放射によりRの鈴村自身、長くはいられないシンギュラリティ世界。加えて、Rの桜に与えた『シンクロ』。目に浮かぶ混乱と破滅の数時間後までに本体の桜をモンストラス世界の刈谷と接触させる不可解な狙い。

 人間の鈴村の本来の目的。

 ANYにより制御されたこの世界。人の住める世界は、惑星を包むようにオゾン層が存在する。

 酸素の原子が三つ結合することによってできる分子。それは酸素より軽く、上空に舞い上がり、生物を太陽光線から守る。



 すでにシンギュラリティ世界は温暖化、人口増加により、人間が優先されて住みやすく作られてきた。しかし、必ずしも生物の生きられる世界になっているわけではなかった。

 人間が陸で生活できる世界より昔。その頃はオゾン層が薄かった。しかし海の生物は紫外線から保護された。次第にオゾン層は厚みを増し、陸に生物が生息できるほどに時間を掛けて作られた惑星。

 シンギュラリティ世界は、惑星が誕生して四十六億年。今まさにオゾン層に隙間が空き、ドームで世界をおおう限界が迫り、人類以外の動物、植物、全てが危険にさらされていた。

 そして、モンストラス世界は、シンギュラリティ世界の技術により、オゾン層が一番厚い世界に成長させられた一万年ほど若く新しい地球。データの記憶をコントロールし、進化させた世界。

 人類があふれたシンギュラリティ世界の住民をモンストラス世界に移す。それがシンギュラリティ世界人類を護る責任が課せられた鈴村の最重要任務であった。

---*---



「モンストラス世界という惑星は、元々この世界から移住する新天地として作られた環境のいい世界だ。あっちの鈴村は何も知らず、この世界の機能を支配するつもりだ。だから、刈谷の現在のデータ更新のため、お前との記憶を呼び戻すために、刈谷に自害をされる前に、お前が刈谷を撃つんだ」



「Rの鈴村がファクターね。わかったわ。すぐにモンストラス世界に行かせて下さい。私は、恭介を救います!」



「よし、水谷。そのリンクルームに入るんだ。刈谷のすぐそばに転送する」



 Rである鈴村の言葉に納得した桜は、管轄室に設置されたモンストラス世界へのリンクルームに素直に入り、拳銃の有無を確認し、目をつむる。



「ANY! リンクルームから転送だ! モンストラス世界! 春日雄二のそばへ飛ばせ!」



<リンクルーム-モンストラス-目標-春日雄二-目標-ロック-転送開始>



     ◆◆◆



 18:23 モンストラス世界。支所裏口。

 本体の鈴村がひとりたたずみ、ゆっくりまばたきをした瞬間、Rの桜のシンクロにより鈴村の前に現れるRの咲。その一瞬の出来事に咲はとまどい、辺りを見回す。葉巻を吸いながらその場で待っていた鈴村。影もぼやけてくるほど薄暗くなってきた時間。それでも裏口の蛍光灯により人相の確認ができる。桜の様子に、咲への問いかけよりも桜の体調を確認したくなる様子だった。



「大丈夫か、水谷」



「ハァ……ハァ……管轄、風間咲です」



「え! 何!? どうなってるの!? え……和明!!」



「和明? 咲さん、あなた……管轄を知っているの?」



 咲が目を泳がせ、目の前に立った鈴村を直視した時、咲に湧き上がった感情は、初対面では表現できない憎しみであった。



「なんのつもり!? もう関わらないって言ってたでしょ!!」



「風間咲さん……私に会ったことがあるようですね」



「会ったことがある!? 私を捨てて!! 私は!! 私は…………自殺したのよ」



 咲の告白にその背景を察する鈴村と桜。Rの鈴村との間にあった関係。払拭する必要のある誤解と説明。シンギュラリティ世界の春日との繋がりがないかヒントが欲しい鈴村。意を決して慎重に話し出す。



「わかりました。風間さん……混乱するかもしれませんが、私は、あなたと違う世界で生きている人間です」



「何を言ってるの!?」



「風間さん。あなたは、春日の行方不明とこの世界の違和感に、悩まされていませんか? そして、私があなたの知っている鈴村と……同じに見えますか?」



 鈴村の落ち着いた口調に、咲は表情を見定め、隣に立つ桜の軽いうなずきと、この場にシンクロによって突然飛ばされた不可思議に、咲にとって計り知れない出来事が起きていると察する。そして感情的な言葉を抑え、鈴村に質問をする。



「あなたは……何者ですか?」



「春日と、もう一人の私の事以外、全てのことを知る者です。あなたに何があったか教えていただけますか?」



 咲は語る。Rの鈴村との関係。偽物呼ばわりされ、突然の破局。

 Rの鈴村との別れにより自殺を図った事。それを助けたRの春日。支えられた心。

 突然の破局による強引な振り方に、Rの春日も、Rの鈴村を憎んだ。しかし天地の差がある役職に、面と向かって文句のひとつも言えなかった春日。

 ちょうど半年前、Rの春日から咲に電話があった。その日から連絡が途絶えたRの春日。

 最後に電話があった時間。加藤達哉の館に向かった 12:08 そして咲に伝えた電話の内容。



「刈谷という人物の存在を抹消する事が始まりだと言ってました」



     ◆◆◆



 18:28 シンギュラリティ世界。林道。



「どうしちゃったの……雄二」



 咲は思う。咲の心配する表情が、自分に向けられた感情と読み取ることが出来ていないと思えるほど素朴な印象を受ける春日の表情。



---*---
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ