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シンクロニシティ

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「こ、これは……私や管轄には影響は! あ!!」



 17:56 モンストラス世界。支所裏口。

 すでに日が暮れていたモンストラス世界は繰り返されるデジャヴュにより夕日が再び目にすることになる。



「自害しなければ、大して影響はないはずだ! 映画を巻き戻されたようなものだ……だが、俺たちみたいに事情をしらない者にとっては、つまり風間咲にとっては精神的ダメージが大きいはずだ!」



「はい……半年前から今日までに、何度同じ体験をしたか……知らなければ、誰にも理解されず、自分の精神を疑う事でしょう」



「すぐに風間咲の元に戻るんだ! 落ち着かせて! そして、ここに連れてこい!」



「わかりました! ハァ……ハァ」



「水谷……体力はあるか?」



「少し……疲れやすくなってます……ハァ……ハァ」



「気をつけろ……体力が低くなると、能力が発揮しづらくなる」



「わかりました……ハァ……『シンクロ』」



 17:58 モンストラス世界。風間咲の自宅。



「ハァ! ハァ! 風間さん! 大丈夫ですか!?」



「あ、あなた……こそ、大丈夫ですか」



「ハァ……ハァ…………」



「キャッ!! チーフさん!? チーフさん!?」



 慣れないシンクロの多用により、倒れこむ桜は気を失う。

 そして咲にとってこの世界の理解者であろう桜の体を支え、優しく横に寝かせると、すぐ濡らしたタオルで顔を拭き、意識が戻るのを待つ。



     ◆◆◆



 18:13 シンギュラリティ世界。林道



「ん……んん……雄……二」



 春日に眠らされた咲は目を覚ます。そして運転席にいない春日に気づき、車の中で辺りを見回す。すると咲は後部座席に気配を感じる。

 支所の服を着た男。車のシートにしがみつきながら咲は男の顔を確認する。



「雄……二。雄二! どうしたの? なんで後ろで寝てるのよ! もう!」



 その男は春日。服を着替えさせた者も春日。咲が眠っている間に、二人の春日が対面と対峙、そして争い。それを理解しているのは、その場にいない春日。

 出来事を知るよしもない咲。目を覚まさない春日にため息をつく咲は、運転席に移動し来た道を戻ろうと車を動かす



「もう! どこに連れて行ってくれるつもりだったの!? 急に眠るなんて!」



 反応がない春日に腹を立てながら、起きていれば聞こえている程度の口調で独り言に似た責め言葉をこぼす。



「珍しくすごくときめく事言ってたのに寝ちゃうの!? 薔薇を用意して永遠の世界とか! 場所が決まったとか! 楽しみにしてたんだからね! ねえ! 聴いてる? 雄……あ」



 言葉責めを繰り返していた最中、バックミラーに起き上がる春日が映り、その様子を察した咲はにこやかな表情を浮かべながら優しく語りだす。



「やっと起きた、寝坊助さん! ねえ! どこに行こうとしてたの? まだ間に合う? もう暗くなってきたけど」



「くらく……なってきた?」



「雄二? 目が開いてないの? 外を見て、外。」



「そと」



 春日同士での出来事にあった形相はなくなり、落ち着いた表情で外を眺める春日。まだ林道の途中、街灯が目に映っては消え映っては消える。

 咲の言葉を真似、力の入っていない目は時折泳がせる。



「どうしたの? どうかした?」



「どう……か、い、いえ、どうしたかと……いえば」



「あはははは! 雄二どうしたの! 面白い言葉の返し方! まるで言葉を忘れた人みたい!」



「ことばを……わすれ……いえ、なんと…なく、ことばはわかり……ます」



 二人の乗った車は突然止まる。そして咲は後部座席に振り向く。

 咲の眼差しに春日は特に挙動を変えず、咲の目をずっと見て、それは言葉を待つ子供のように素朴な印象を受ける春日の顔を凝視しながら話しかける。



「ねえ、雄二? 変だよ。何かあったのかな……私、眠ってたみたいで何があったかわからないんだけど」



「ぼ、ぼくが……いました」



     ◆◆◆



 18:16 モンストラス世界。咲の自宅

 倒れた桜は咲に介抱され、10分ほどで意識を取り戻した。その様子に咲にも笑顔が溢れて、用意していたコップに入れた水を桜に飲ませる。



「もう大丈夫よ……ありがとう。そして、あなたの恋人は、春日……雄二ね」



 意識を取り戻すと、すぐに桜からでてくる春日の名前。その名前を聞いて、まばたきを忘れた咲にとっても春日に関係した理由があってここに現れたと思われるには十分だった。

 咲の見開く目を見る桜にとっても、ここに現れた理由の話が早くなると感じ、一呼吸つき、確信にせまった言葉を話し出す。



「咲さん、あなたはこの世界が、何かおかしい景色に見えたりしませんか? ふと、気づくと同じ時間を何度も繰り返すような」



「先ほどのように……半年くらい前から、何かおかしいんです。恋人だった春日雄二の消息がなくなり、一緒に撮った写真が知らない男性に……私は以前、何度も自分をこの世界から消えてしまいたいと思ってました。けれど雄二に何度も止められて……彼が消えてから! 私はやっぱり見捨てられたと思ったんです! 何度も! 何度も! 私は……やっと死ねたと思ったんです! おかしいですよね! 死んだつもりなのに死ねたと思うなんて……戻るんです。死ぬ前に」



---*---

 桜が加藤達哉の館で、春日と現場にいた時に生じた爆発によるデジャヴュ。それは春日の姿をした人間の刈谷による、予定と異なった者を道連れにした爆発の誤算の結果。同時に死んだ事による肉体と精神が正常に戻らなかったANYのバグ。そんな理由を説明しきれないと考える桜。誤解と説明の放棄をするために思いつくところは、それを上手く説明できる鈴村の存在だった。

---*---



「あなたの気持ちはわかるわ。私も体験してる。それでね、咲さん。私が来た理由は、それを説明してくれる可能性がある方に会ってほしいの。いいかしら」



「え! ホントですか!? お願いします! どうすればいいですか? どこに行けば!」



 躊躇する桜。覚えたてのシンクロでうまく鈴村の元へ飛ぶことが出来るか。不安がありながらも自分の影を咲に近づかせる。けれど、触れればいいのか、抱きしめてみれば良いのか、少し悩みながらも、咲の見つめる目が落ち着いて考えられなくなる。



「えと、その……ちょっと……目をつむってくれるかしら?」



「え? 何するんですか! 怖いことしないで下さい!」



「い、いえ、そういうことではないんですが……わかりました。そのままでいて下さい」



 シンギュラリティ世界では親友だった桜と咲。モンストラス世界では面識もない関係性。

 桜の生きてきた環境の違いからか咲の反応に調子が狂う桜。混乱をなるべく防ごうと、咲にひと時の視界を無くしてもらおうと考えたが、更なる混乱を覚悟して、そのままの状態でシンクロを試そうとする。目をつむり、感じる。自分の存在と、咲の存在と、鈴村の存在。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ