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シンクロニシティ

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【四次元】 次元を超えた殺意は背信の神



 17:53 シンギュラリティ世界。本部病室。

 本体の鈴村と偽るRの鈴村から言われた言葉。それは愛する者からモンストラス世界にいる刈谷へ向ける銃口。



「撃つ? 恭介を? どういう……それに、やっぱりモンストラス世界に恭介はいるんですね!」



「はっきりはしていない。お前が自分の目で確認することだ。見ればお前は自覚するだろう。真実を知るには、モンストラス世界が不死の世界であるうちに、刈谷がお前の想う存在であるかを確認することだ」



「私が想う存在? 不死の世界……では、恭介は撃たれても死なないんですね?」



「ああ、色々な事がおきた。モンストラス世界で刈谷の姿はどうなっていると思う?」



 Rの鈴村の問いにモンストラス世界での計画を思い出す桜。そして自信を持って鈴村へ答える。



「それは……春日の姿です。シンギュラリティ世界の記憶のない」



「春日の肉体は、すでにモンストラス世界では存在しない」



「え!? どういうことですか?」



「モンストラス世界では、刈谷の姿が春日と呼ばれている。そして、刈谷の姿の男は自分が刈谷と言い張っているはずだ。もしかすると、心神喪失扱いにされて精神病棟に収容されている可能性もある」



「そ、そんな! 意味がわかりません! 何が起きたんですか!?」



 モンストラス世界で鈴村と語った計画や予定が全て狂っている現実を受け止めきれない桜は両手で握っていた毛布を強く握り、足元へ叩きつける。



「それを確認するために、お前が刈谷を撃つんだ……それだけでわかることがある。データが更新されることで、モンストラス世界の刈谷のデータを分析することができる」



 深い分析方法など想像もつかない桜。それでも、再び刈谷に会えて、言葉を交わせる事で明るい未来に繋がる事を願い、想像する。



「恭介は……死なないんですよね」



「ああ、まだ大丈夫だ。急いで着替えるんだ。モンストラス世界が不死であるうちに」



     ◆◆◆



 17:58 モンストラス世界。支所裏口。

 新たな能力に目覚めたRの桜。使いきれていない能力の底が見えない可能性に、鈴村からの次なる扱い方を待つ。



「水谷、お前には斑まだらな認識色のある者を見つけてもらいたい」



「斑……その人物は私の知らない者ですか?」



「ああ……名前は『風間 咲かざまさき』という女だ。本来モンストラス世界の任務を与える予定だった。そのために春日の基本的な環境は調べていた。けれど俺も対面した事はない」



「知らない私がどうやってその者を」



「おそらく大丈夫だ。お前にシンクロの意識範囲が全てインストールされているのであれば、モンストラス世界、全てのRはお前に入っている」



「私に、この世界全てのRが、ですか?」



「目をつむり、呼吸を整え、風間咲という名を頭で唱え、ここを中心とした地域を想像しろ。見えてきたら、認識色を教えてくれ」



 鈴村の言葉通りに目をつむり、呼吸を整え、頭の中で風間咲の名を巡らせる桜。その桜の表情は、難しい表情から、顔の力が緩む表情に。何かを見つけたと察することのできる表情に鈴村は、安堵からか一息つけるタイミングを失わないようにジッポで葉巻に火を付け、桜からの言葉を待つ。

 桜は自分の居場所を中心に都市全体を想像する。それはまるで自分の影が浮遊し、ビルとビルの間を鳥のように滑り流れるような縛りのない空間。鈴村の前で立っている自分ではなく、別の空間で実際に人と景色と動きを観察し、一瞬で認識色を判別して、都市全体を一息で包み込むような支配感。鈴村からの命令がなければ、どれだけ自分の影で世界を見渡すことが出来るのかと期待しながらも、今確実に与えられた義務感を忠実に遂行する。



「都市全体でみれば……三人見えるわ……けれど、斑な者は一名。一番近い距離よ」



「それだ。次に、俺をその者のそばに飛ばすんだ」



「すぐそばにですか? その人は、そんなに重要人物なんですか?」



「ああ、シンギュラリティ世界での春日の恋人だ。つまり今回、春日に関わる人物で一番近い存在だ。この世に存在しないRである春日の肉体に、存在しないRである刈谷の認識の影響。その中で風間咲が何も影響を受けていないとは思えない。風間咲が斑な認識色であるならば、説得して、刈谷と対面させ、刈谷の信用を得られ、モンストラス世界を落ち着かせる事に繋がるかもしれない」



「わかりました。やってみます」



 目をつむり、自分の影を先ほど確認した風間咲の認識色を再び影で追う桜。影の目線で空から認識色を確認する。そして近づき、おそらくは風間咲がいる室内。住居が並ぶある一室であり、透き通るように同じ空間に入った桜の影は、すでに目の前で立ち並ぶほどの接近を感じる。



「風間咲に意識を集中し過ぎるな。お前が飛んでしまう。そしてまだ連れてくるのは早い。お前がその場にいる気持ちで俺をすぐ近くへ置くイメージだ」



「わかりまし……あ!」



「水谷!!」



「はあ! はあ! か……管轄!! え……ここは」



「キャアー!!」



 桜が目を開けて見た光景。それは住居空間の部屋。生活感のある家具に電化製品が目に映る。桜が後ずさりしたその手に触れたものはキッチンの冷たいシンク。突然現れた桜に、存在の意味を確認する前に悲鳴となって表現した女性。風間咲。その表情を確認した桜にとっても、その場を取り繕う余裕もなく、逃げる事もできず、声も出せずに混乱する桜は、まだ名前を確認することもできない女性の前で苦い顔をしながらたたずむ。



     ◆◆◆



 18:00 シンギュラリティ世界。林道。

 春日と対峙した形相のまま地に堕ちる男。おそらく事態が把握出来ていない程の一瞬。造林の葉が自然と男に舞い落ちる。春日は近づき、独り言に近い言葉をこぼす。



「どこで能力を得たのかな。お前の発した言葉は、まるで全てが初めて知る言葉のオウム返し……そっか……ジャメヴュ(未視感)かあ。無意識の怪物……不完全な能力……理解したよ! お前の正体! ……きっとRの鈴村が連れてきたんだね。いいだろ! あいつの気まぐれに付き合ってやろう! 咲には『永遠』か『無』か……お前が時間稼ぎしてくれそうだね」



 車通りの見えない林道も都合良しと判断した春日は、男の服を掴み、剥ぎ取り、同時に自分の服を脱ぎ始める。



「治療の跡か……邪魔だなあ」



 手術が終わって数時間しか経っていない男の包帯を解き、男が着ていた『本部』の服を着る春日。そして自分の着ていた『支所』の服を男に着させる。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ