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シンクロニシティ

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「春日は……シンギュラリティ世界で私を瞬間移動させたわ! どうして向こうでそれが出来るの?」



「おそらく、リンクを利用したんだろう。この世の物体をモンストラス世界に移動する時に使う技術。奴はANYの権限が強い」



「リンク? ……そんな難しい様には……では春日には管轄も敵わないのでは」



「春日の正体も、接触が可能なら見極める事も可能だ」



「それは、どうやって」



「それもお前の技が磨ければ……だな」



 鈴村の告白するこの世の『仕組み』を理解せずにはいられない桜は、薄暗い空を眺め、右手で頭を抱えながら壁にもたれる。神と言われる実感のない自分。その説明を自分から聴く気分にもなれない非現実。それでも、信じられなくても、鈴村の判断に委ねたい気分でもあった。



「管轄……私にどうしろと」



「先ずは『シンクロ』を使いこなしてもらう。そして精神病棟に留置されているRの刈谷に、シンギュラリティ世界への道の選択をさせるんだ」



「選択?」



「すでに渦中であるRの刈谷を放っては置けない。シンギュラリティ世界への道をチラつかせたあと、お前と同じ肉体を持つか、Rとして生きるか選ばせよう。混乱を覚悟で、Rの刈谷に対して、あえて人間として語り……この世界の真実を伝えろ」



「真実……それはシンギュラリティ世界を語るという事ですか?」



「そうだ。あえて人間であると思わせて、シンギュラリティ世界に向かう意思があるか探れ」



「それは……突然言われるそんな突拍子もない事なら、普通は確かめずにはいられないと思います。そんな時、連れていけと言われても……私には手段が」



「刈谷以外の『人間』が必要だとでも言え。それは、つまり俺の事だ」



「管轄に誘導すればいいのですね。けれどそれなら最初から管轄が会えば……」



「先にな、刈谷に正常な判断が出来るように、刈谷の訴えが真実だという根拠がいる。今は刈谷自身、頭がどうかなったかと混乱しているかもしれない。その疑念を払拭するための証言が必要だ」



「証言?」



「それをお前に捜してもらう。『シンクロ』を活用してもらうぞ」



 繰り返して言葉を返すたびに突き当たる『シンクロ』という技。桜にとって神という言葉が馴染まない響きの技。まだ理解しようとも理解したいとも思わない桜であったが、聞かずにはいられないと思い、素直な気持ちを伝えた。



「どうすれば……私にはそんな力の自覚がありません」



「先ずは……目をつむれ」



 桜はユックリ目を閉じる。闇の視界で立ちくらみそうな気分を支えるように支所の裏口で壁に手をあてて体を支える。



「深呼吸しろ……そして、先ず俺の存在を暗闇の中で認識するんだ」



 鈴村に言われるがまま暗闇の自分だけの空間。深い息をつき、その中で目の前に居る鈴村を認識しようと思考する。そこに見えたものに、初めて何かの可能性を感じた。



「み……見えるわ! 赤く……」



「見えただろう…俺の姿と認識色が」



「はい……ハッキリわかります! ほかにも……青? 青……無数の青い存在が!」



 目をつむる桜に見えている存在。星の如く遠くで無数に散らばる青。中には赤と青が交互に斑まだらする存在。その中でも、目の前に居る鈴村はハッキリと赤に認識出来る



「これは……まさか」



「もうわかるな。今のお前にはおそらく、世界中、全ての者を認識する事が出来る」



「管轄の赤は、もしかして」



「そう、人間の証。青はR。そして斑する者は」



「目覚めた者ね……凄いわ」



「もう、目を開けても認識出来るはずだ」



「ええ、わかるわ……時折滲む色」



「お前は世界中の者を認識し、ここへ呼び寄せる事が出来る。お前が向かうことも。これが神の技だ」



「これがつまり『神隠し』ね……理解したわ!」



 桜はシンギュラリティ世界の光景を観た時のような感動と興奮を覚える。



「無意識にお前は俺を強く想像したはずだ。その結果お前から確認出来る距離まで俺や田村は呼び寄せられた。その力を活用させてもらうぞ」



 神が無意識に念じた事により呼び寄せられた鈴村。神が無意識に念じた事により、期待感から別の世界に羽ばたこうと屋上から踏みだした田村。神が意識的に念じたとき、それを想像したモンストラス世界に今生まれた神は、自分の能力の限界を知りたいことを強く念じる。



「使ってみたいわ! この力を! 自分の意思で!」



 赤と青の星々に囲まれた桜が特別な存在であると実感した気持ちを、素直に声高に思いを鈴村へ伝える歓喜。

 知る事ができた自分の能力。その能力を与えたRの鈴村が望む世界。それは故郷だったモンストラス世界である惑星の未来を願ったことなのか、それとも混乱だけを求めるか。

 それぞれが行動する先に待ち受けるモンストラス世界の未来と自分たちが住む世界の選択。神が自分の意思で、能力を誰のために使うかによって、世界の常識と惑星の環境は一変する。

作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ