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シンクロニシティ

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「はい……けれどそれは刈谷恭介が一緒であるならば……恭介が居ないなら」



「モンストラス世界に行け」



「え?」



「そして刈谷を撃つんだ」



     ◆◆◆



 17:46 モンストラス世界。支所裏口。

 Rの桜が告白した出来事を全て理解した本体の鈴村。



「なるほどな……水谷、お前がシンギュラリティ世界に魅力を感じた気持ちはわかった。自分が本物じゃないと悟った落胆……元々知らなければいい事だな。そして、春日が何者かはまだわからない……そしてお前に『シンクロ』をインストールした理由もな」



「シンクロ? なんですか!? それは」



 桜は理解していない。それがハッキリわかる反応。少し目を桜から離して考える鈴村。伝えなければ、他の誰かであるRの鈴村か春日に利用される恐れ。鈴村にとっては、『この世界の神』として理解させることを優先した。



「『神隠し』はわかるか?」



「神隠し? 昔から伝えられるお伽話のような……突然人が消えては、突拍子もないところで現れる……あれですか?」



「まぁ……そんなとこだ。奴らの目的は不明だが……お前は今、この世界の『神』だ」



 鈴村の現実味のない言葉に桜は苦笑いをする。あまりにも当たり前に、それはシンギュラリティ世界を目にした時よりも突拍子もない話に、真面目な顔をして話す管轄である鈴村に対してもユーモアに返すような笑みを返す。



「ハハ……フフ、管轄、ご冗談を……人間でもなく、本体でもない偽物の私が……『神』!? 何もされてないわ。それでいて実感もないです。フフ、もう少しマシな冗談を……」



「水谷……モンストラス世界では色んな不可思議な現象が伝えられてる。神隠し、ドッペルゲンガー、妖怪、幽霊、輪廻転生、予知夢、地上絵、UFO……死者への礼儀に弔う気持ちで過去の称賛はするが……これらは全て、シンギュラリティ世界では、『言葉すら存在しない現象』だ」



「え!?」



「なぜかわかるか?」



 言葉さえも存在しない現象。受け止め方に悩む桜。自分は今まで世界に騙されていたと考える桜にとって、簡単に思いつく答えを返す。



「全ては……シンギュラリティ世界の……仕業……だからですか?」



「その通りだ」



「じゃ、じゃあ……私達は……それを体験したっていう人は、全て『見せられて』いたんですか!?」



 当たり前に耳にしてきた言葉。それは世界によっては当たり前であり、違う世界では認識のない言葉。



---*---

 目覚めた者。それを繰り返すとRとしてのデータが劣化していき、デジャヴュの瞬間に消えた者。それを幽霊と思う者。データのエラーやバグにより自分と同じ者を見れば、怪奇的な現象と思う者。

 目覚めるとは、何度も死の淵から生還したR。ある瞬間に、突然自害されると、そしてモンストラス世界の平穏を脅かすと思われる事態には、何も無かった様に世界を更新し、そのRの死も無かった事にする。

 Rの死は、更新を繰り返す事によりRが劣化し、その者の更新の瞬間に、データが雑になったRが断片的にデジャヴュで消える者を見る事が出来る。この世では、目覚めた者は霊感が強いとでも言われる現象。全てはモンストラス世界の中でしかおこり得ない事。シンギュラリティ世界を見た者にしか、信じられない真実。

 見せられていたと考える桜。見せるつもりがなくても防ぎきれない瞬間的な出来事。それはシンギュラリティ世界からの悪戯いたずらのようにも受け止められる。

---*---



「ああ……似た様なものだ。例えば、お前と刈谷に備わった『ZONE』空間。これはシンギュラリティ世界では有り得ない」



「『ZONE』?」



「今日、もしかして起こらなかったか? トラックが暴走した時」



「あ、あれが?」



「本人の意識以外全ての時間を緩やかにする技。重要人物とされる者には備わっている」



「では……『シンクロ』というのも」



「このモンストラス世界だけ有効だ」



     ◆◆◆



 17:48 シンギュラリティ世界。林道

 春日の意味深な言葉の返事を待つように春日を横に見つめていた咲。返事を期待できない様子に正面を向こうとする瞬間、春日は突然急ブレーキを踏み、素早く手を咲に伸ばし、左手を咲の頭に軽く触れると、咲は意識を失った。



「雄!? んん……」



「あいつは」



 それは咲には見られない方が良いと判断したこと。けれどそれは目的地の事ではなく、目の前ですれ違う人物を咲に見られてしまう事を避けたかった。

 車を降りる春日。それは無視することの出来ない疑念を感じた。車の20メートル先から気怠く歩いてくる本部職員の制服を着た男へ歩み寄る。本部から逃げ出した男は、前を見るというより、やや下を向き、無駄に目をちらつかせる様子もなく、呼吸だけ整えていた。

 作られた林道に並ぶ樹木から、まるで本物のような軌道ではらりと落ちていく葉っぱ。



「フゥ……フゥ……フゥ……」



 男の頭へ静かにこすりながら落ちていく葉っぱは、口元で荒い呼吸により一瞬浮かぶ。その呼吸が聴こえそうなほど近づく春日は話しかけた。



「なぁ……お前……誰だ?」



 男に声を掛ける春日。その男はゆっくり顔を上げ、そして理解できないものを見たような驚愕の表情で目を見開き、警戒をしつつも、自分が今まで自然と導かれた足どりを見失ったように、その場で立ち止まったまま言葉こぼした。



「なぁ? お前? 誰だ?」



 それは言葉を真似ている様子。更に一歩近付く春日。その一歩は男にとって防衛本能が反応する距離感。考えた事なのか、無意識の事なのか、突然踏み込んだ足は、明らかに攻撃をする意思を感じるような雄叫びを上げた。



「ぐがああぁぁあぁあー!!」



「ほう……あはは、『背景放射』を浴びた者か……じゃあ、ZONE発動……50いや、1/100-MODE」



 あと1秒あれば接触したと考えられる距離感。防御態勢をしない春日。防御の代わりに春日の口ずさみと同時に発動するZONE空間。

 道路沿いにそびえる樹木から、葉っぱが春日の目の前を横切るはずだった。その空間は葉の動きも静止して見える静寂。春日に向かって来る男は固まらせた形相と、春日を掴むか引き裂く為の両手。跳躍力を感じる一歩。お互い同じ動きしか出来ないはずだった。全ては静止しているように見えるはずの空間。その中で、春日は1/100の動きで進む世界で、当たり前のように片手を上げ、空に指を指す。



――墜ちろ。



 細く鋭い雷火。男の肩をすり抜ける。直撃を避けた攻撃。気絶を狙った攻撃。シンギュラリティ世界で発動したZONE。それにまだ気づかない男。春日は一歩横にそれて、男の攻撃目標を見失わせた。



「ZONEは解除するよ」



     ◆◆◆



 17:52 モンストラス世界。支所裏口。

 考え込む桜。ふに落ちない表情で鈴村に質問をする。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ