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シンクロニシティ

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 Rの桜はいまだに正体不明な春日との会話を思い出すように語りだす。その第一声は、すでに上司である桜に話し出す言葉には聴こえなかった。



     ◆◆◆



 半年前のシンギュラリティ世界。加藤達哉の館跡。

 葉巻のカプセルを利用してシンギュラリティ世界にリンクした桜が見回した光景は、一見すると見慣れない森林の中。館がすでに消失してはいたが、ひらけた芝生が広がる空間は、ここに館があったのではないかと連想した。状況がわからないままたたずんでいると、いつ現れたのか目線を動かした瞬間に春日の姿を目に止めた。その春日はそれまで知っていた者と違う静かさを感じる雰囲気を持ったまま、次元の違う言葉を発してきた。



「お前は、モンストラス世界の水谷桜だね」



「か!? 春日? お前……どういうことだ! ここは何!?」



「落ち着くんだ……ここは人間の世界……シンギュラリティ世界だよ」



 Rの桜にとって初めて耳にする世界の話。鼻で笑うこともできた。激怒して叱咤することもできた。けれどしなかった。それは春日の後ろに見えるものが、都市を囲むドームの滑車が空を駆けていたからだった。



「な、ここは……くっ! シンギュラリティ世界? 何のつもりだ! 説明しろ!」



「百聞は一見に如かず……か。見せてあげるね」



 桜の肩に触れる春日。桜の見ていた景色はぼやけ、目まぐるしく変化し、目を疑う景色にとまどう。春日の馴れ馴れしい接近に腹を立てればいいのか、役職者としてのプライドが掻き立てられるか。様々な感情に桜は戸惑う。



「何を!? ふ!! はぁ……こ、ここは」



 ビルの屋上に現れる春日と桜。空を見上げれば直前までの中途半端なドームと違い、そこから見える光景は未来的な景色であり、電子的な文字が空を走るドームに完全に包まれた世界であり、桜は興味の絶えない鳥肌が立つような魅力を感じる。



「ここはシンギュラリティ世界中心都市、お前が担当している地区本来の姿なんだ」



「この……世界は」



「お前は……人間ではないよ。この世界が創り上げたモンストラスという世界の住人なんだ。モンストラス世界で起きる出来事は全てこの世界で管理されているよ。お前は……偽物」



「私が……偽物?」



「うん、お前の本体はこの世界で、幸せな顔で、お前と同じ仕事と地位を持ち、刈谷恭介との結婚生活を送っているんだ」



 何を言っているのか、ひと時理解が出来なかった。それは願っている事と願ってもいない事が混じるような内容。少なくとも、Rの桜には、幸せそうな地位を持つ『本当の自分』に対して、嫉妬した。



「有り得ない……刈谷と? ふぅ……まさか」



「この世界は平和だ。ANYという人工知能の機械が人間以上の知恵と、人間以上の正しい判断力で、犯罪も少なく、安心に包まれ、そして泡のようにブクブク膨れて飽和ほうわする人間。お前らは、研究の為のモルモットなんだよ。あっちの世界は、人が、ぁあごめん。モルモットが死ねない世界をつくった。そのうちモンストラス世界のモルモットはこの世界を求め、混沌と破滅の第二の『monstrous』時代な世界となるだろうね。そこでね……先に、俺が渡してやろうかなと思って……ここへの市民権を」



 話の途中までは怒りどころを探していた桜。けれど、この都市の住人となれる自分をすぐに想像した。じわじわと高ぶる感情は、目を見開かせ、震わせながら笑みを浮かべる様子となる桜。その様子を見るだけで春日には桜の答えはわかった。



「どうすれば……この世界へ」



「お前は運がいい。あ、目覚めてここに来れた事の意味ね。面倒が省けたよ。お前の本体は、複製した感情のないZOMBIEと呼ばれるRによって、モンストラス世界で始末させたよ」



「え? もう、死んでるの!? Rってなに?」



「あぁ、きっと死んでいる。普通ならね。あ、Rって、亜流ありゅうっていう言葉が変化した俗語だよ。簡単に言えばレプリカだね。まぁそれはいいよ。それに、まだ本体の刈谷が残っているから。あいつは、俺たちが世界を一つにする活動を暴き、鳥かごの世界を安定させるべく送り込まれたスパイなんだよ」



「スパイ? 俺達? 他に仲間がいるの!?」



「モンストラス世界の管轄……Rの鈴村和明だよ」



「管轄が!?」



「仲間に不足ないでしょ? お前に求める仕事は、春日の姿をした本体の刈谷を殺すこと。本体はRよりも先に死んだら生き返る事が出来ないんだ。そしてRの鈴村をスパイの代役に。これが条件だよ。後の流れはRの鈴村から聞くんだね。また来てよ。ここにRの鈴村呼んどくから」



「えっ、どうやって」



 その話の直後、デジャヴュによりモンストラス世界へRの桜は修正されるように戻された。そして、何度も葉巻を春日の姿をした刈谷から奪っていた。Rの鈴村と別の世界で密会するために。



     ◆◆◆



 17:44 シンギュラリティ世界。本部病室。

 本体の桜に会いに来たRの鈴村。すでにモンストラス世界が半年経ったことを告げて、言葉を待つ。



「本当……ですか? もう半年?」



「ああ、モンストラス世界の時系列はシンギュラリティ世界で全て制御している。ANYに命令して、数時間ですでにモンストラス世界は半年後の世界だ」



 桜はまばたきを繰り返し、人間の鈴村が伝えてきた任務を思い出しながら頭を整理する。



「だから、簡単に大それた任務を実行したんですね」



 そして、目の前にいるのが、それらの計画を伝えてきた鈴村と信じて尋ねるように返す。



「ああ、お前はその大それた任務の犠牲者になるところだった」



「すいません! 管轄、それは私が選んだ行動ですので……で、でも、恭介の存在があいまいなのはどうして?」



「刈谷は、殺す相手を間違えたな」



 本来はRの春日と桜を殺害する任務だった。けれど、本体の刈谷はRの春日と刈谷を爆発させていた。



「殺す相手……では、私でなく、自分のRを!?」



「まあ、そうだな……そして、それをきっかけにお前のRは暴走した」



「え、どういう意味ですか?」



「お前のRはモンストラス世界の神にでもなるつもりだぞ?」



 神。それはRの桜にも伝えていなかった能力である『シンクロ』。それをRの桜へインストールしたRの鈴村自身の口から伝えられる悪い出来事という口ぶり。



「え? 神?」



「神として……お前のRには特殊な力を備わった」



「私のR……私のRは私の記憶が入ってるはず!!」



「入ってない!!」



「え! どうして……そんな」



 全ての予定が狂っていると感じる桜。けれど、そのように心を誘導している目の前にいる鈴村は他人事のように言葉を返す。



「俺がモンストラス世界にいる間に、隙を見て、『俺のR』が仕組んだんだろう」



「か、管轄を、Rが裏切ったという事ですか!?」



「そういうことだ。お前はこの星が故郷で在りたいか!?」


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ