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シンクロニシティ

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「か、管轄……な、何をおっしゃってるのか私には」



「お前がこの世界を理解しているのはわかっている!! だが……誰の誘導で動いてる!」



 更に力が入る鈴村。顔が歪む桜。桜は確信する。この男はモンストラス世界のRの鈴村ではなく、本物の鈴村だと。



「言わないと……消えるぞ?」



     ◆◆◆



 17:28 シンギュラリティ世界。本部病室。

 桜は本部で起きている事態が気になる一方、モンストラス世界にいるのかどうかわからない、そばから離れた刈谷の安否の不安がよぎる。



――恭介は今どうしてるの? 私は殺す標的を言い切れなかった……もし違うRを殺した場合はどうなるの? 知っているのは……管轄! 寝てる場合じゃないわ! 行かなきゃ! くぅ!!



 無理矢理起き上がる桜。地に足を付けた時、ドアをノックする音がする



「は! はい!」



 条件反射のように声を上げた桜。その声を確認したように入室してきた男。それはRの鈴村である。



「水谷……もう起きれるのか?」



「か、管轄! あの、今ちょうど管轄に会いに行こうと」



「刈谷の件か?」



「はい! あれからどうなりました? どのくらい時間が経ちました? 無事ですか!?」



 執拗に質問する桜。言葉を整理させようと質問にすぐ答えずに間を空けるRの鈴村。



「水谷……まず落ち着くんだ」



「はい……すみません。あの、助けていただき、ありがとうございました」



「それはいい、俺から聞きたい事がある……ちゃんと任務は果たしたか?」



「いえ、私はZOMBIEに殺されたと思いました……目を覚ました恭介にも、殺す相手を伝えきれませんでした」



「そうだろうな……だからモンストラス世界では、本体の刈谷の存在があいまいだ」



「ど!? どういう事ですか!?」



「それを整理したい。そしてモンストラス世界はすでに半年経っている」



     ◆◆◆



 17:30 モンストラス世界。支所裏口。

 首を抑えられて硬直するRの桜。生唾を飲み込む感触が本体の鈴村の手に伝わる。



「水谷……全てを言え!! そしてお前の狙いや期待はなんだ! シンギュラリティ世界とモンストラス世界全てを仕切っている俺に話して協力するのが、今のお前にとって得だと思わないか?」



 目線を下げる桜。それは抵抗する様子もなく、いいわけを返すわけでもなく、鈴村の放った言葉に全て頭に入れた結果、理解して、観念した様子。その様子を見て首から手を離す鈴村。桜の体から圧力が無くなったと同時に、桜は静かに話し出す。



「私は……この世界で生まれ、育ち、自分の世界が全てであることを疑わなかった……そうしたら何!? シンギュラリティ世界!? あっちが本物でこっちが偽物!? 私は何故わたし……知らなきゃよかった……私の望みは、あの世界で人間として生きること!! そのためには……本体の私が邪魔だった!!」



 桜は自分の目的を語り、下を向いたまま、立ちながら、両膝を両手でつかみながら告白する。



「いいだろう」



「え!?」



「Rのままだとシンギュラリティ世界では定期的に強制消滅するようになっている。クローンに意識を入れてやろう。人間としてシンギュラリティ世界で暮らすことができる」



「本当ですか!?」



「あぁ……ただし、別の人間として生きてもらうぞ」



「別の人間? なぜですか?」



「水谷桜……本体は生きている」



「ど! どう……して……本体はZOMBIEが」



「確かに、俺も見た時は、致命傷のはずだった。しかし、俺が体に触れた時に鼓動を感じた。シンギュラリティ世界に戻り、救急治療により、おそらくは生き延びたはずだ」



「じゃあ……私は! 私はどうしたら……」



 頭を抱え、うなだれ、腰を落とす桜。その姿を見た鈴村は、優しさのつもりでもなく、希望と理解を求めて、真実と期待となる言葉をこぼした。



「お前らはシンギュラリティ世界を新天地と考えたのだろうが……逆だ」



「逆?」



「シンギュラリティ世界はもう、もたない……俺は新天地として、新しい惑星、モンストラス世界を創造した。人として生きたいのなら、しばらくはこの世界で様子を見る事だ」



「じゃあ! このRとしての肉体は!?」



「今起きている事態が収拾された時、どちらにしろ人間の肉体を与えよう。その為にもまず! ファクターは誰だ!! 教えるんだ」



 その鈴村の問に対する答えは早かった。選択肢の無くなった桜は顔を上げ、抵抗なく口を開き告げる。



「Rの管轄が……仲間よ」



「やはりそうか!! あいつが黒幕か?」



「違う……わね。おそらくは……シンギュラリティ世界に飛んだ時……全てを教えてくれたのは……春日雄二よ」



     ◆◆◆



 17:40 シンギュラリティ世界。林道。

 咲を車に乗せ、走り続ける春日雄二。それは本部への方向へ進む道。本部に向かうわけではない春日の考えている答えはまだ決まっていなかった。



「雄二……どこに行くの?」



「どこでもいいんだよ……本当は」



「え、どうしたの? なんか変よ?」



「安心して……きっと、すぐだから」



 質問をはぐらかす春日に咲は不安がありながらも、目に止まった光景に、不安は思い出と変わる。



「クスッ……ねぇ、雄二……覚えてる?」



「覚えてるって……何?」



「あの擬似森林だけど、あの林の先にある崖であなたと遭ったわね」



「あぁ……そうだね」



「可笑しかったぁ~。アハハ! 私が崖で風を感じたくて立っていたら突然現れた雄二が……『君は何がしたい! 人間は貴重だ! まだ駄目だ! またにしよう!』って! アハハァ! 雄二、あなたどこにいたのぉ? だって突然だったんだもん! 驚いて落ちるとこだったわょ!」



「そっかぁ……そうだったね……場所が決まったよ」



「え?」



 目的が決まりハンドルをきる春日。動揺する咲を気にしない素振りで走る先。春日は目に映った出来事に、それまで余裕を持っていた表情から、その日初めて顔つきを変える。



「雄二……何?」



     ◆◆◆



 17:43 モンストラス世界。支所裏口



「そうか……春日か」



「管轄! 春日は本当は何者ですか!?」



 鈴村はその問いには返そうとしない。そして桜自身も元々見知っていた春日とは全く違う性格を感じる別人のような春日の正体も理解したかった。そして、それを分析できるのは、実際に春日と語った自分しかいないと感じたのか、出来事を語りだした。



「私は、春日の姿をした人間の刈谷から、葉巻に入ったカプセルを奪ってシンギュラリティ世界に飛んだわ。見回すとおそらく加藤達哉の館の周辺だった。けれど館の形跡はなく、私に近付いて来たのは春日。その時に私は、自分の部下に接するように話し掛けたわ」


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ