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シンクロニシティ

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「わかりました! 即対応致します!」



 鈴村が背中を見せると同時に、町田は義務的な業務をこの場で報告するためか、桜が担当した接客による原因の罰則を伝えるために引き止める。



「管轄! 水谷は先程の所内の事で謹慎と減給を申し上げるところでしたが」



 所内の事件。それは支所にトラックが衝突してきた出来事。その資料を本部で受け取っていた鈴村はすぐに桜の立場を考えた。ここで職務を縛ることに、鈴村が知りたい答えは見つからないと。



「あの犯人の動機は確認した……自営の仕事依頼がなく、自殺願望が元々あり、そのキッカケを探すか家族の為に生きるかの瀬戸際に断られた暴挙だ! だが今チーフ不在に何もいい事はない! 俺の判断で不処分とする! 以上だ!」



「はい!」



「はい! ありがとうございます!」



 町田と桜は声を合わし返事をすると鈴村は振り返り、葉巻の甘い匂いを残しその場を去る。その鈴村の堂々とした背中からは想像出来ないほど、鈴村自身は眉間にシワをよせ、拭いきれない疑念を思考する。



――水谷……お前は誰だ? それに、刈谷の姿で認識は春日……春日か……どうやらファクターが見えてきたな。刈谷と水谷に起きた出来事。本体の水谷の記憶をRの水谷にインストールしたはずだが……感じられない。刈谷に対しての慕情。予想と違った54回のクロニック・デジャヴュ。そして俺をモンストラス本部からこの支所に飛ばされた現象は……誰の仕業だ?



 支所の周りを取り囲む高台に移動し、遠目に町田と桜を眺める鈴村。手に持ったボイスレコーダーを聴きながら、支所全体も眺める。



――なるほどな……刈谷はこの世界では存在しない。本来潜入させる本体の刈谷がR春日となり、元々いたRの刈谷は触れずにそのままの予定だったが、手違いのデジャヴュによりRの刈谷に対しての世間からの認識だけが刈谷を春日としたわけか。ならRの水谷は……本体の水谷の記憶がない元から存在した単純なR? 俺に起きたこの瞬間移動は、恐らく、開発したばかりの新プログラムの『シンクロ』。『ZONE』に代わり、モンストラス世界を安全に監視するために作られたプログラム。もしもRが使用すれば神になれる技。ならば、誰かがシンギュラリティ世界でANYに命令したはずだ。……可能性は二人。シンギュラリティ世界にリンクした俺のRか……俺を強制リンクさせた『春日』か! 春日……何者だ! 本体は加藤の館で無惨な姿になったはず!! ん? あの屋上……いつ……あいつらは現れた!?



 考察する鈴村が眺める支所の屋上に職員数名が突然現れる。その職員の中心に歓喜の笑顔で両手を広げる田村。田村の指示によって、職員は屋上の端に立ち並ぶ、集団心理を思わせるその姿に気付いた桜と町田。その狂気な行動を止めようとする二人の様が鈴村に見て取れる。そして、その突然の出現は、あまりにも不自然であり、それはまるで鈴村自身が体験した現象が田村を含める職員たちまで影響を受けたものではないかと想像する。



――シンクロか!?



 田村と桜の様子を凝視する鈴村。新プログラムの影響であるのか、それともタイミングの良い偶然であるのか。その答えはハッキリとした声を聴いていない鈴村にとっては断言できない。けれどわかることは、田村を含める職員が『すでに死ぬ意思がある』ということだった。それは何度か『死への経験値』を感じるものである。



――田村は……すでにRが劣化してるようだな。デジャヴュを意識出来てるようだ



 桜は携帯電話で叫ぶ。町田を横にして声を荒げる桜の真意は、常に逆の意識との戦いである。



【おい! 田村お前何してる!?】――なぜこのタイミングで現れるの!? 確かに私は刈谷の補佐のお前と取り巻きを頭に浮かべた!



「桜! スピーカーにしろ!」



 町田は桜に携帯をスピーカーにして一緒に聴き入る。



【チーフ……私どもは……ここは違うと思うんですよ】



【ここ? どこの事だ!】



【はい……きっと、更に目覚めた時……自分に戻れるはずです……きっと……きっと】



【自分? おい! お前何を言ってるのかわかってるか?】



【はい……自殺者の気持ちわかるんですよ……何かが違うこの世界に】



【わかった! お前の言うことは間違ってないわ!】 ――まずい! ファクターが複数と怪しまれると話が難しい!

【だから! 今は止めろ!】 ――早く墜ちて! デジャヴュが起きれば後で黙らせる事が出来る!

【私がお前達の話をちゃんと聴く!】――何人が目覚めてるの!? きっと今墜ちたら目覚める者も出るかもしれないわね。



【ありがとうございます……目覚めましたら……どこかで】



 口に出す言葉と真意が違う桜の願いが通じたように田村が羽ばたく。

 墜ちる瞬間まで桜の様子を見つめる鈴村。瞬く程度に予想通りの更新デジャヴュを感じる。



――デジャヴュが起きたな……町田は何が起きたかわからないはずだ。水谷はどうだ。



 鈴村が監視する先には何もなかったようにその場を去る町田。そして桜は、何もなかったはずの支所の屋上を眺め、息をつく。それはデジャヴュ前の記憶から屋上の確認をしたかのように。その様子は、鈴村から見ればデジャヴュ前の出来事を知っている者にしか出来ないたたずまいに見える。



――やはり目覚めているな……水谷! お前はこの世界を理解している! そして、持つはずがない力を得ている!



 確信を持って立ち上がる鈴村。支所を囲む高台から駆け下りるように、そして行動に出る。その様子を知らない桜は町田と話した通りにRの刈谷の代わりに専任として田村へ昇格を伝えなければならなかった。



――田村を止めなければ……けれど、どうする? 口を塞ぐにも不死の世界……なら……こっち側に引き込むか。それに、さっきの鈴村は……私の仲間のR? そうでなとしたら、本体? でも、本体が無事にここにいるということは、計画はどうなってるの? 私はシンギュラリティ世界に行けるの?



 田村を押さえ込むために支所の裏口に向かう桜。それは田村の口をふさぐか、利用するために動き出した狂気と策略の心。だが、そのことに集中できないほど、先ほど目の前に現れた鈴村の『中身』が気になる。

 町田が罰則を与える気持ちで鈴村へ進言した事に対しての不処分の決定。それは桜にとって有利で動きやすい形。けれど初めてみせた葉巻をくわえる姿。鈴村がRか本体かどうかによって、桜自身の身の振り方が変わる焦り。



 もくろみと懸念で頭を支配している桜は覚悟を決めて支所に入ろうとする。その間際に感じる気配に気付かないほど、桜には周りが見えなかった。

 突然の腕力は、支所への入口のドアで桜をはさみ、押さえつける。



「ん!? ぐぅ……ぅ……ぅう!!」



「静かにしろ……水谷」



 左手で桜の口を塞ぎ、右手で首を掴む鈴村。壁に押し付け、いつでも首に力を込められる気配がある力加減で桜を押さえ付ける。そして、ゆっくり塞いだ左手を外す



「答えろ!! お前は何をたくらんでいる!」


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ