シンクロニシティ
<記憶の種類を選んで下さい>
モニターに表示された記憶インストールの一覧。カデゴリと検索により選択可能な記憶。 Rの鈴村は丁寧に冠婚葬祭のカテゴリより選択し、情景を選ぶ。その情景やカテゴリに合わせて、モンストラス世界では瞬時にRである春日雄二、つまりRである刈谷恭介へインストールされる。
<入力完了-記憶インストール-開始>
――こんなことで記憶が塗り替えられるのか……人間の鈴村の思うがままだな。「鈴村はどこだ」
<鈴村和明-現在-管轄室>
「シンギュラリティ世界の鈴村和明だ」
<シンギュラリティ-鈴村和明 -モンストラス-強制リンク-EMP放射-実行完了済>
「ハハハハハハハー! いいぞ! 進んだな!!」
<advance(進行)-全惑星-準備完了>
<advance-命令待機>
<advance-命令待機>
Rの鈴村の言葉に反応するANY。些細な言葉の語尾に、現在関係性のある言葉を見つけ、伝える。それはRの鈴村にとっても、次に尋ねる内容だったため、その進行を尋ねる言葉に、目的の言葉を付け加える。
「ああ……全惑星……500億年……advance(進行)だ」
<全惑星-500億年-advance-了解-6時間以内-準備完了後-更新予定>
【next-selections(慎重に選択して下さい)】-
【強制記憶インストール-強制EMP-強制advance(進行)】-
【命令が3種類重複しました】-
【ANYの自動環境保全に不安がある場合、『自動更新環境』を解除し、その都度、『命令更新環境』に、しますか? しませんか?】
「それは、Rは死ぬのか?」
【命令更新環境の場合、Rが死亡した時、命令があるまでRは復元されません】
「命令更新環境だ」
<命令更新環境-了解-データメモリ最適化-120分以内-完了予定>
「もう一つ、Rの水谷桜の意識に『シンクロ』をインストールさせろ」
<モンストラス-水谷桜-シンクロ-範囲-指定待機>
<モンストラス-水谷桜-シンクロ-範囲-指定待機>
「モンストラス世界の意識を全てだ」
【モンストラス-水谷桜。新システム-シンクロ。意識。世界の全てが対象。了解です。水谷桜の意識を監視致します。必然性に合わせてリンク致します】
「いいぞ! 思った以上だ! 神の気分ってやつだな! ハハハハハハハハー!!」
甲高く笑う鈴村。笑い声とは比例しない違和感のある目。次にはその目に比例する言葉を発する。
「ここで……全ての歴史が造られていた訳だ! 『monstrous』時代の元凶! 正に神をも恐れぬ技! 悲惨な歴史! 何故……何故! 何故俺を……知らなくていい事がある! これが正にそうだ!!」
固く握った拳を真横の壁にたたき付ける鈴村。うつむいた表情は、歯を食いしばり、自分の存在を愁い、見上げる表情は、決意の再確認が完了したと思わせる。しかし、それでもまだ迷い、戸惑い、最後の可能性も視野に入れる。
「我が故郷……さよならだ! 全てを過去に!! 本来の地球に!! く……おい!! ANY!! 今日のEMPは解除出来るか!?」
【next-selections(慎重に選択して下さい)】-
【定期EMP-解除には、世界各国承認必要です。承認通知しますか? しませんか?】
「EMPが制限時間……承認……不要だ……ハハハ……ハハハハハハハ!! なんでもいい!! 音楽を鳴らせ!!」
ゆっくりと、耳障りにならない管弦楽による交響曲が流れる管轄室。両手を広げ、開き直ったかのように足元を中心に回りだすRの鈴村。手を羽ばたかせ、舞うように、合奏の指揮者のように揺らがせる両手。鈴村の言葉ひとつで世界の環境を変化させるANY。それはシンギュラリティ世界だけでなく、言葉ひとつ、指ひとつで世界の様相が変化してしまうCHAOS(混沌)。
事態の見えていないシンギュラリティ世界とモンストラス世界の、それぞれの最善で行動する人格たち。神の定義は世界の掌握か、崇められる存在か。それとも、自分が神と思うことでも、誰かには事実となるのかもしれない。