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シンクロニシティ

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 治療室より抜け出した男は出口を求める。そのあしどりは着実に『本人も理解してない道を迷いなく』進む。

 男が通った道をすぐに横切る本部職員。すぐ近くにいるのにもかかわらず見つけられない男。いるはずだと信じて捜索する職員。十も数えないうちにすれ違う職員同士、捜索の近況を語る。



「そっちは!?」



「いや! 見当たらない!!」



「手術したばかりだ! 遠くには行けないはずだ!!」



 遠い方から消去法に捜索する職員。少しずつ出口に近づく男。その呼吸は痛みか、走り回った肺活量からか、追われる緊張からか。



「ハァッ……ハァッ……ハァッ」



 本部職員は、唯一の脱出方法である出口付近を重点に捜索する。屋上からの可能性は地上からの目視により塞がれ、不審人物があればすぐにトランシーバーを用いて連絡が届く。発見の連絡が届かない。見つからない。



「いない!! 出口を固めろ!! ここを固めれば必ず中にいる!!」



 出口に向かい、走る職員。全ての道を通過する数。必ず誰かに接触する通路に立つ男は、一人の職員と目が合った。



「あ、抜け出したのはあなたですね!? ふぅ!? がぁ! ぐぅっ!」



「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」



 発見された男。近付いてきた職員の口を瞬時に塞ぐ機敏さ。それと同時に意識を飛ばすほどの男の膝は、職員の腹部にめり込む。起き上がる様子を感じない職員。自分の服を眺める男。職員の風貌をよく眺め、自分との違いを確認すると、本部職員用の制服を職員より脱がし、帽子を深く被り、息を殺し、自分が倒れた職員と同じ風貌になったことを確認すると、誘われるように出口へ向かい、集まる職員と混ざる。

 男を発見出来なかった職員が出口に集まり、どこを探そうかと雑談を始める中、本部チーフがやってくる。雑談を止め、チーフの言葉を待つ職員。まだ捜索しきれていない可能性も考え、そして病床よりも上階に行った可能性も考え、再び集まった職員を散らすと、ランダムに職員の肩を叩き、その叩かれた者へ指示を出す。



「お前ら三人は出口に立ってろ!! 動くなよ!!」



「はいチーフ!!」



「はい! チーフ!」



「はい……ちいふ」



 それは簡単な判断だった。下をうつむいた、行動が乏しい者を待機させ、機動力を優先した判断。



「あ、チーフ! さっき管轄を見かけました! 多分管轄室へ向かうところです!」



「なんで伝えない! とにかくわかった」



 鈴村の安否が確認できてホッとする本部チーフ。管轄室に向かって歩き出す。ほかの職員もあとを追うように各階に向かって走り出した。

 玄関で待機する三人。身を隠した男は、ほかの人間の真似をしているだけだった。服も言葉も立ち方も。腕を後ろに組み、足を広げ、一見威圧的に立つ三人。その中で無言が苦手な者が話しかける。



「なんで逃げるかねぇ……お前どこ探した?」



「ぐ……ぅ」



「ん!? お前……口から……血! 動くなぁ!!」



 出口で発見された男。それでもトランシーバーへの報告は確認されない。

 看護職員から報告を受けた弥生も同様に捜索していた。男性職員より少し遅れて出口に到着する弥生は、何かの声に気付く。その声は明らかな叫び声。駆けつける弥生。



「見付かっ!? 何が……起きたの」



 二人の職員は倒れている。一人は玄関から十メートル以上離れた場所に。もう一人は、玄関の前に倒れ、その職員の真上は、天井が上に凹んでいた。まるで天井に叩き付けられたかのように。



     ◆◆◆



 16:43 シンギュラリティ世界。支所敷地内 職員専用ハイツ。

 同じ造りの建物が並ぶ集合住宅エリア。各々が同じ二階建ての造りであり、居住者の個性により特徴的に彩られている。自由に人工簡易ペイントが出来る外壁。今はシンギュラリティ世界に生息しない動物のペイントをふさぐように、車が停車する。ドアのチャイムの反応にすぐに中から開くドア



「やっと来たわね?!」



「ああ、待たせたかな……咲。ほら、これ見付けるの大変だったんだよ」



「嘘!? 薔薇!? 凄い!! どこで見付けたの!?」



 束ねた薔薇。簡単に透明フィルムで包んだ光沢の強い赤や白。



「残念ながら、造花! 薔薇は珍しかったから持ってきたんだ」



「なんだぁ~……でも嬉しい!! 相変わらず優しいんだから! 雄二は!」



「ハハハ! 咲を喜ばせる為なら、本物を見付けて来るよ」



「あはぁ! 本当に捜しそうだから大丈夫よ! ありがとう! でも、最近連絡が出来なかったけど、あれ? 本部からの指令受けてたって言ってた件、今日だった? あ、車乗る? 変えたの?」



 本体の桜と仲良しである受付係の咲。交代制による早い帰宅。会う約束だった今日、交際相手である春日雄二を自宅で待っていた。エスコートするように車へ誘導する春日。助手席を開け、咲が乗り込むと、静かに車のドアを閉める。



「実はそうだったんだ。でも交代したから、もう大丈夫なんだよ。車は借りたんだ。今日は……いつも通り、仲良しの水谷専任と一緒に居たの?」



「ん~……所長から突然指令受けて……えっと……加藤達哉さん? 確か、雄二が補佐してたって聴いてたけど、聞いてない?……チーフの田村さんも見当たらなくて」



「知ってるよ……田村チーフと交代したんだ。もう……全て……終わりにしたくてね」



「雄二?」



「咲……なんだかこの世界、住み心地悪いだろ?」



「どうしたの?」



「永遠な世界に、連れてくよ……咲」



 意味深な言葉を咲に伝える春日。来た道を戻るように走る車。無言となる咲はキョトンとした表情で、軽く笑みを浮かべた春日の横顔を眺めながら、雷雨の去った夕暮れに向かって走る。



     ◆◆◆



 16:47 シンギュラリティ世界。管轄室。



「鈴村だ!」



 再び開く強固な扉。入室するRの鈴村はゆっくりと周りを眺める。響き渡る機械的な声。繰り返される更新情報。最低限鈴村に対して必要な情報を、開錠と共に繰り返される。



<モンストラス-誤差-180日-完了済>

<プログラム-『シンクロ』-使用可能>

<警備室より-内線履歴7件>

<モンストラス-誤差-180日-完了済>

<プログラム-『シンクロ』-使用可能>

<警備室より-内線履歴7件>





「ほぅ……便利なもんだ。『聞いていた』通りだな。ANY! モンストラス世界、刈谷恭介情報!」



<モンストラス-R-刈谷恭介-都市部-存在未確認>

<モンストラス-R-刈谷恭介-最新更新情報>

<モンストラス-R-刈谷恭介-データ消去-バックアップ-春日雄二- データ-58%劣化>



――やはり春日雄二への認識となったか……今のモンストラス世界の刈谷はR。「ANY! モンストラス世界、春日雄二に記憶をインストールしろ! 支所全体で春日雄二の葬式を行った記憶だ!」



<モンストラス-春日雄二-記憶インストール>
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ