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シンクロニシティ

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 14:35 シンギュラリティ世界。モンストラス管理室。



「リトルANY!! モンストラス世界以外の惑星を止めろ!!」



【命令された時の声紋が一致しません。認証されません】



「管轄室へのエレベーターを作動させろ!!」



【命令された時の声紋が一致しません。認証されません】



「駄目か!!」



 モンストラス世界からバグを利用して帰還した本体の鈴村は、セキュリティの最も厳重なモンストラスを含む惑星管理室において、『管轄以上と認証された者』の命令をくつがえせず悪戦苦闘する。



――せめて管轄室に行ければ……いや、俺がここに戻ったことがバレない方がいいのかもな。このままだとモンストラス世界に居るのと変わらないな。だが、俺に惑星を停止させる事を防ぐ程度の制限だろう。ならば、「リトルANY!! ZOMBIEの準備だ!! Rソース! 前日のシンギュラリティ世界の鈴村和明!!」



<ZOMBIE-シンギュラリティ-鈴村和明-1日前-了解-更新予定-約60分>

【please pay attention(注意して下さい)】

【ZOMBIEは管理下に置き、非常事態に備える為、最大24時間で自動消去となります】-【それでは更新場所を指定して下さい】



「モンストラス世界!! 本部!! 会議室!!」



<モンストラス-本部-会議室-検索結果>

【複数見つかりました。候補1は第一会議室……】



「地下だ!! 会議会場!! 演説壇上!!」



<地下-会議会場-演説壇上-了解>

【命令できます。そのままZOMBIEにインストールします。どうぞ】



「そこでリンクしろ!! その後モンストラス世界へ戻り、不死現象の演説を実行!!  以上!!」



【完了致しました。命令は、ANYのサーバーからZOMBIEが命令確認後、自動消去いたします】



 自分のZOMBIEを生成した鈴村。モンストラス管理室からのロックを解除できなくても、命令されていない内容への権限は生きていると思い、発した内容。ZOMBIEが作られるまで身動きができない鈴村。邪魔であった本体の鈴村を外に弾こうとした男は、本部の玄関に向かっていた。



     ◆◆◆



 14:46 シンギュラリティ世界本部入口。警備室前。



「お疲れ様です。退館ですか?」



「ああ、そうだよ」



「入館したのは……」



「三日くらい前だね」



「二日以上駐在した記録が……お名前は?」



 名前を訪ねながらトランシーバーに触れる警備職員。その様子が見えていたかどうかの瞬間、警備職員の頭を右手で抑える男。その行動に戸惑い、危険も感じ、払いのけようとするが、大きな体格のその男の腕が払えない。もがく警備職員に、攻撃するわけでもなく、やわらかい口調で、頭を抑えながら語りだす。



「実はね、本体の鈴村は……もうこの世に居ないんだよ」



「は!? どういう……」



「俺か? もし君たちの祖先が昔、尊び、崇高した存在。『神』という存在があるとするならば、人知を超えた存在を『神』と言うならば……そんなに間違いじゃないよ」



「何を!?」



「じっとしていようよ……」



「がぁ!」



 自分を神と比喩する男は、指先から微かに火花を発火させたと感じる程度のエネルギーを流し、外傷なく、男に倒れ込もうとする体を支え、静かに床へ横たわらせる。



「君は運がいい。俺に会えるなんて。きっと天国では、いい存在になるよ」



 警備職員を気絶させ、本来警備職員の開錠により開く入口の扉。開錠操作なく自動に開く扉から退館する男。その足で本部の駐車場に向かう。最初に目についた車の鍵穴に触れると、全てのドアの鍵は解除されエンジンが始動する。



「自己操作か……進化も遅いなあ」



 愚痴をこぼしながら適当に選んだ車に乗り込み、支所の方向へ車を走らせる。そして呟く。



「愛? 優しさ? 人間の感情は理解したよ。どれだけ複雑かと思えば、取るに足らないものかも。もういいだろ。恋愛ごっこは終わりだね。最後に……哀しい別れを、体験してみるかな」



 海沿いの人工的な並木道を軽快に走行する男。途中、目に付いた薔薇の花畑。車を停車させ、薔薇の花畑に仰向けに倒れこみ、空を眺める。



「こんな感じだったのかなあ……これが欲しいのかなあ……こっちよりあっちかなあ……」



 零すような言葉。黄昏には早い時間。空には沢山の情報が流れていた。Rの鈴村が見ていた景色と同じドームの空。室内と変わらない動きのない空気感。寝転がりながらつまむ薔薇の花びらは、人工的に香りを出すように計算された造花。



「退屈だなあ……あっちの世界の方が楽しいかなあ……支所に、突然トラックが突っ込むとか」



 横顔で見ても笑顔がわかるほど無邪気に笑う男。ふいに指を立てる仕草から光の細いラインが飛んでいく。

 土に色を似せた弾力ある板より、刺さった薔薇を一本引き抜くと、鼻のそばに置いて眠り始めた。



     ◆◆◆



 15:36 シンギュラリティ世界。本部治療室。

 本体の鈴村が運んだ桜に続き、Rの鈴村が運んできた男の緊急手術が手術が終わり、再び個室病床へ運ぶために看護職員を呼ぶ弥生。続いた手術のために疲労困憊となったため、すぐにやってきた看護職員に後のことは引き継いだ。



「じゃあ、ちょっと私には横になるわね」



「はい! お疲れ様でした」



 弥生から引き継がれ、患者を安静させるため、病床用の服を着せる。様子をみつつ個室病床の準備をするため治療室から退室する看護職員。

 人の気配がなくなったことを察したのか、いつから起きていたのか、その手術が終わったばかりの男は、ゆっくり起き上がり、周りを見回す。目に触れるものがないのか、慌てる様子もなく、床に足をつけ、扉に近づく。近づいても開かない扉。開かない扉をまさぐり、近くで触れられるもの全てに触れ始め、ふと、低い位置に穴があることに気づき指を入れると本来足を入れることで開く医療用の扉が開き、治療室は無人となった。



     ◆◆◆



 15:44 モンストラス世界。本部会議会場。

 壇上に現れる鈴村。それは本体の鈴村から命令を受けて現れたZOMBIE。そして自分が鈴村のZOMBIEである自覚は生成された時点で備えており、一人になる空間を探すと、緞帳幕どんちょうまくより現れる管轄秘書。鈴村を見つけるなり、笑顔と久しぶりとなる驚きの表情を交互に浮かべ、話しかけてくる。



「あ! お疲れ様です管轄! 今回は長い出張でしたね! 驚きましたよ! 支所の町田から突然調査で姿を消すって聞いて、秘書の意味がないじゃないかと思いました! あ、不死現象会議……今日されるんでしたら、早いうちでしたら手配出来ると思いますので」



「ああ……少し考えさせてくれ」



 デジャヴュしたことで何事もなく話しかけてくる管轄秘書。無駄に会話しない鈴村のZOMBIEは、秘書が少し遠ざかった事を確認して、回りに聴こえない程度に口ずさむ。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ