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シンクロニシティ

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 そして、加藤の死体があるとしても、なるべく第一発見者が刈谷であることを避けていた。発見の報告があり次第、桜自身の目で確認して、生きていた場合、早いうちに言葉を語れない存在とするため、刈谷は現場から遠ざけたかったが、報告が細かい田崎の、都合が悪い報告により、刈谷が先に聞くこととなった。



「職員の田崎から聞いたのですが、加藤達哉の死体が……ありませんでした」



     ◆◆◆



 14:23 モンストラス世界。本部会議会場。



――くっ……モンストラスか!!



 シンギュラリティ世界より強制リンクさせられた鈴村。シンギュラリティ世界ではモンストラス世界を中心とした新惑星管理室であるが、モンストラス世界の同じ場所では重要会議会場として使われている。そこはステージの演台の前。所々で会場の設置をしている職員が目につく。



――葉巻は!?



 鈴村は葉巻を割りカプセルを眺める。それは、いつもは虹色に輝き一粒一粒がANYと繋がったリンク方法ではあったが、その粒は黒く、カプセルの内側全体をくすませていた。手首に近い部分に埋め込まれていた同じリンク機能をもつ最終手段も、反応がなく、完全に機能しなくなっている。



――くそっ! 機能していない! 俺のもつリンク手段は壊されたか!!



 広すぎる会議会場。人目につくことを避け、ステージの裏へ身を隠そうと、緞帳幕どんちょうまくに身を隠し、裏口から外に出ようとしたとき、緞帳幕裏側にある控え室のドアから、簡単なノック音が聞こえる。外開きのドアで誰かがぶつからないためにドアの外に人がいないか気を遣いながらゆっくりドアを開いたとき、裏口のドアの前にいた鈴村に気づき声を掛けてきた。



「あ! お疲れ様です管轄! 今回は長い出張だったんですね! 支所の町田から突然調査で姿を消すって聞いて驚いたんですよ? 秘書の意味がないじゃないですか! 半年ぶりですが、珍しくお早めな出勤ですね!」



 笑顔でユーモアをこぼす爽やかな言葉で久々に顔を合わせたと感じさせるモンストラス世界の管轄秘書が声を掛ける。



「あぁ……今日の会議の主題はなんだ」



「え!? 管轄、面白い事おっしゃいますね。もしかして準備が早すぎましたか? 管轄が半年後にある現象の会議と聞いていたので、きっと話題となっている不死現象の会議かと想像していましたが……」



「不死現象……そうか……モンストラス世界は半年経ったか」



「だ、大丈夫ですか?」



「すまない……」



「え!?」



 秘書に拳銃を向ける鈴村。硬直して動けない秘書。きっと拳銃を構える理由を話し出すはずの期待。当たり前のように秘書は訪ね始める。



「な、何の、冗談です……がぁ!!」



 鳴り響く銃声。理由も告げられない別れ。それは不死現象であるデジャヴュの特性を利用した迷いなき判断。デジャヴュはモンストラス世界の環境を過去に戻す。それはつまり鈴村はこの世界にはいない理屈。過去に存在していない鈴村は、ANYのバグともいえる特性を利用して、本来自分がいた世界へ。



     ◆◆◆



 14:24 シンギュラリティ世界。モンストラス管理室。

 モンストラス世界は過去に戻るが、シンギュラリティ世界ではモンストラス世界の時と変わらない時間。すでに鈴村をモンストラス世界に飛ばした者の気配は感じられず、その空間は先程よりも轟音が鳴り響き、モンストラス世界以外も稼働している様子。再びモンストラス世界に飛ばされないためにも、辺りを警戒し、様子を探る。



――戻れた……危なかった……そして、あいつはどこに行った!!



     ◆◆◆



 14:31 シンギュラリティ世界。本部屋上。

 男の目線には、上昇気流により、少し風を感じる事で深く息をつくRの鈴村の後ろ姿。その姿を眺めながら近づく、本体の鈴村をモンストラス世界に送り込んだ男。一度振り返るRの鈴村は、なんの警戒もなく、再び空を覆うドームを眺め、その外は雨が滴っている様子がわかりつつも、ドームの内側は世界の情報が文字とモニターできらびやかに表示されている。不自然な世界を見飽きたRの鈴村は男に振り返り、警戒なく必然的な対面と感じる笑み。



「元気そうな姿で安心だ。上手く行ったな。モンストラス世界の管轄よ」



「ふっ、管轄か。ああ……お陰様だ。上手くいくかは正直不安だった。Rの桜も俺の言葉に耳を貸す」



「そうか、Rの桜を取り込むことで、モンストラス世界の本部と、主要な支所を掌握させた訳だが、未来はあるか?」



「未来は……宇宙の判断に任せる。この世界を見れば、嫌でも決心がつく」



 冷ややかな眼差しでドームに包まれた世界を眺めるRの鈴村。語りかけた男が本体の鈴村をモンストラス世界へリンクさせること自体が作戦の一部。本体の鈴村からすれば、不安因子であるファクターの密会。それは正義のためだとするものなのか。目的への倫理観やスケールの大きさを感じていた計画に、ここにきて決心を伝えた。



「不死現象……どうだ! 少し体験しただろ?」



「無理があるな、あれは……Rを減らす能力に、Rを殺さない機械との小競り合い。どれだけ倫理を失う。何度も更新を繰り返せば、Rを劣化させ、皆、口を揃えてきっと言う。『目覚めた』と……」



「はっはっはっはっはー!! 『目覚めた』って!! 悟りを開いたと勘違いするようなもんだよ!!」



「お前は、なぜ俺にやらせようと思った? 俺は、お前が来ていれば、お前を殺すつもりだったんだぞ?」



「だろうね。想像はしていた。それを恐れていたわけじゃないが、交代したいという奴がいてね。平和ボケをしたこの世界の中で貴重じゃないか。野望に燃えるって、人間らしくて。おかげで二日以上こもることができた。つまり運命は、まだ俺を必要としているらしい。実際今なら君もこれで良かったと思っているはずだよ。なぜ君を選んだか? 君は一番、過去を知り……やはり人間らしかったからだな。そして本来の地球の姿を渇望する者。『我々』は……地球を支配した人間が、本当に必要か見たかったんだ」



「館に来るのがお前と聞いていて、飛びかかったが、そいつはとんだとばっちりだ。最後は何を望む?」



「君の好きにすればいい。止めるのも君次第だが、今の君が望むような未来への下準備はしておいたよ。失敗、いや、運命に必要とされていないなら、全て『0』だよ。『1』もない」



「わかった。俺はもう少し、風にあたる」



「ああ、俺の仕事はもう、ほとんどないんだ。あとは芽生えた感情の精算か、進化か、次の待ち人と話をしてくるよ。楽しみだ。君も、全ての結果も。俺が迎えに来るときに、また会おう」



 Rの鈴村の方から話は終わったことを告げると、口数の多いその男は、屋上のドアから建物に入り、急ぐこともない足取りで待ち人に向かう。

 計画通りにするために人はもがく。計画通りにしないためにも人はもがく。後者は轟音が響く中で、一心不乱にもがいていた。



     ◆◆◆


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ