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シンクロニシティ

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 すでに館が無くなっている綺麗な芝生の上でたたずみ、甲高く笑うRの鈴村。その目にした出来事や背景を想像しての事か、自身への自負心からか、両手を広く上げ、陶酔な笑みを浮かべながら、予見する未来を語る。



「一つの小さな出来事は! 世界を狂わす!! 蝶の羽ばたき一つで! 世界は壊れる!! CHAOS(混沌)はモンストラス世界だけでなく! シンギュラリティ世界でも起きる事だろう!!」



 叫ぶ鈴村の足元には、ジャケットの背中が破れ、そこを中心に血を滲ませた春日雄二がうつぶせに倒れている。一見すれば生を感じない凄惨な状態であり、なぜここに春日がいるのかも不明な状況。それでもRの鈴村には、それがひとつの導きであるかのように、春日を肩にかつぎ、辺りを見回す。



――奴らが乗ったヘリがあるはずだな……着陸可能な地点は……。



 重いあしどりで進む鈴村。すでに場所が予想出来る事からか、迷いなく確実に進む道。森林の中、微かに道らしき道を進むと、先に見えるのは道の終わりを知らせる光。その向かった先には『LYS』のロゴが入ったヘリコプターがある。それは人間の刈谷と桜が、館に向かう際に使用したものである。



――アナログなタイプならいいが……よし! キーも付いたままだ。



 落ち着いて操作するRの鈴村。エンジンを始動させ、ドームの路線を眺めながら上昇させる。



――予定通り進むか!? 今までの流れは全て危うかった……確実ではなかった。だが、すでに計画は別行動に進んでいる。俺の存在が本体に見つかる前に。いや……見つかるのはいい……目的を果たせればいい。邪魔はさせない。



 シンギュラリティ世界のドームの外は追いかけるような雷雲により雨が降り始めた。都市部に侵入した時点で影響を受けないドーム内、斑まだらな雲の隙間、これから雷雲により見えなくなりそうに漏れる太陽の光、鈴村はその隙間から漏れる光の下、眩しく目を薄めながら、ヘリコプターを一定時間停滞させてつぶやく。



「陽の光……人間の為に造られた世界。この世界よりまだモンストラス世界の方が、生物の生きるべき世界。自然と言う言葉の驚異はどこに……この星はすでに、人間だけのものではない」



 そのつぶやきが終わると同時に、陽の光は暗闇に覆われた。



 13:40 Rの鈴村はLIFE YOUR SAFE本部に到着する。



――ヘリコプターの接近で気付かれたかもな……だが構わない。自然に振る舞えばいい。ここはすでに調査したという情報を『あいつから』聞いた。



 本部の四方八方は別の建造物を認めない孤立した建物。隙の見えない頑丈さを感じられる緊張感の塊。Rの鈴村はヘリコプターを着陸させ、重々しいあしどりで入館する。



「管轄! お疲れ様です!」



「あぁ……治療室へ向かう」



「はい……先ほども患者を搬送していましたが、何かほかにもお手伝いできることは……」



「極秘任務中だ。それが言えればとっくに連絡している」



「は!! あ、失礼致しました!!」



「取り急ぎこいつを診せる。救急治療室に行く。案内しろ」



「わかりました!!」



 警備職員の誘導により鈴村は治療室へ向かう。そこでは人間の鈴村によって運ばれた、もうひとりの患者が治療を受けていた。



「ふぅ……終わったわぁ……桜さん」



 治療室の隣。手術室では手術が終わったばかりの桜が横たわっている。落ち着いた事で息をつく弥生。そのまま桜を個室病床へ運ぶ手続きを取ろうと看護職員に連絡をしようとした時、連絡もなく突然、手術室の扉が開く。



「救急患者だ!!」



「ちょっとお! 突然入室は……か、管轄……また、ですか?」



 弥生にとっては、同じように運んできた鈴村の再来。何が起こっているのか確認したいところではあったが、鈴村に対しては余計な質問をしない通例があり、それでも弥生には気にせずにはいられなかった。それは鈴村が患者を運んできたこと以外でも、患者が本来助かる見込みが少ない状態で命を取り留められた驚きでもある。鈴村に訪ねたい点は多々ある弥生ではあるが、静かに看護職員への入室を要請するボタンを押し、鈴村が運んできた春日を寝かせる手術台へ誘導する。



「こちらに寝かせて頂けますでしょうか」



「ああ、それと、先に連れてきた者の容態は?」



「水谷桜さんは、手術成功です!」



「そ、そうか……成功だな」



 口ごもりながらも手術の成功にオウム返しをするRの鈴村。連絡を受けて入室してきた看護職員によって、桜は個室病床へ運ばれていく。Rの鈴村は、人の気配がするたびに警戒するように目に触れる人間の顔を確認し、大胆に本部へ侵入していることが人間の鈴村へどのように映るのか試しているようでもある。



 まだRの鈴村が本部へ侵入していることに気づいていない人間の鈴村は、桜を救急治療室に運んだあと、モンストラス世界の状況をエンジニアと会議室で協議をしていた。モンストラス世界を半年間進めること、新プログラム『シンクロ』の完成。モンストラス世界で死者を出さない自動更新デジャヴュの安全性などを綿密に話し合い、安全性を確認したところで管轄室へ向かう。それは手術室からRの鈴村が退室した頃と同じころであった。



     ◆◆◆



 14:10 人間の鈴村は、管轄室より専用エレベーターを利用してモンストラス管理室に入る。

 薄暗く、無数のライトで照らされた物体。そこには楕円形の巨大な物体が三つ。その内の一つは、機械的な轟音を響かせながら、物体を安定しようとしている何重にも機械に包まれた惑星。惑星と呼ぶには小さすぎる世界。



---*---

 ブラックホールの全てを引き込む引力のしくみを利用して、重力を惑星の中心核として配置し、その引力を永遠とするためにも環境に合わせて計算された水素とヘリウムをモンストラス世界の周りに送り込み、モンストラス世界を飲み込ませないためにも、海や山より中心核へ通じる入気口を無数に作られていた。遠心力を利用して、強制的に惑星を自転させ、宇宙に放り出されても機能させるための準備としてオゾン層を生成している。

---*---



 モンストラス世界のソフトな部分であるRや更新を繊細に管理しているANY。その他ハードな部分を管理しているのは、ANYの一部の機能を有した『リトルANY』である。



「リトルANY モンストラス管理に問題はないか!」



<EARTH-1-生物生息可能惑星-未確認>

<異常なし>

<EARTH-2-生物生息可能惑星-未確認>

<異常なし>

<EARTH-3-生物生息可能天体-確認済>

<EARTH-3-確認済名称 -モンストラス>

<異常なし>

<全惑星-問題-見付かりません>


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ