シンクロニシティ
デジャヴュがモンストラス世界で開始するまでに集めていた自殺者の統計情報により予想された人数は、この2時間ほどで74人だった。その数よりも54人の誤差、予想より大きく上回った合計128回ものデジャヴュ。
各国ごとに更新地域を定めており、デジャヴュによりさかのぼる時間は更新された地区を中心とした一定地域だけだった。その他の地域は微調整させるように時間が緩やかとなり、全ての地域は数分から数十分で時系列を同期させていた。モンストラス世界のRがデジャヴュに違和感を持つには早すぎる短時間。そこに鈴村は違和感を持つ。
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「54? ……モンストラスLIFE YOUR SAFE所属、春日雄二のR生存情報を教えろ」
<モンストラス-LIFE YOUR SAFE-R-春日雄二-行動中-データ-14%劣化>
――劣化の統計が取れていないが、今のところ問題ないだろう。刈谷は春日として潜入が始まったな。問題はその後の誤差の原因だ。「春日雄二のRにプログラム『ZONE』適応だ」
<春日雄二-プログラム『ZONE』-インストール-了解-更新完了>
「新しいプログラムの『シンクロ』は準備できたか?」
<プログラム『シンクロ』-現在-使用不能-可能時間-計算開始>
「計算はあとでいい。予想更新の誤差原因や認識不明Rはいるか?」
<計算停止-モンストラス-R-認識不明-行動不能-肉体基礎-春日雄二>
――何故春日が残る……54回のデジャヴュのバグか? 混乱が起きるとまずいな。「認識不明Rを削除しろ! その後の環境や削除は自動で任せる」
<モンストラス-認識不明R-削除-了解-15分以内-更新予定>
【next-selections(慎重に選択して下さい)】-
【自動更新デジャヴュ-advance(進行)-自動削除(劣化R自動削除)】-
【命令が3種類重複しました】-
【ANYの自動環境保全に不安がある場合、『自動更新環境』を解除し、その都度、『命令更新環境』に、しますか? しませんか?】
モンストラス世界を管理しているANY。ANYの判断よりも、直接の命令が増える場合、ANYの判断に不安がある可能性を考慮して、三種類の命令を受けるたびに命令する者へ確認をするANY。
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その声は、今までの機械的な音声とは違い、人間に対して柔らかく確認する人間らしい声。単純な音声では誤解が生まれる可能性もある。
モンストラス世界を人間が管理するか、ANYが管理するかどうかの選択。それは自動的にデジャヴュを行うかどうかでもある。人間の命令を優先するように作られたゆえの機能ではあるが、鈴村が常にこの管轄室に居るわけにもいかなかった。
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――この確認機能はそのうち無効にするべきだな。不死現象が始まった今、命令更新にするとデジャヴュが起きない。「更新命令は以上だ! 自動更新環境は続行してくれ」
<自動更新環境-続行-了解>
「モンストラス管理室には入室者はあったか?」
<モンストラス-管理室-本日-入室人数-0>
<52時間34分前-1>
「最後の入室者は誰だ」
<モンストラス-管理室-最終入室者-不明>
――やはり、何度確認しても、今から52時間前の認識されない入室者……これを発見したのは俺のR。モンストラス世界で突然現れて、管理室の存在と侵入を俺のRに予告したファクター。俺のRは今どこまで知っている……ファクターはなぜ侵入出来た!? ここに入れるのは、俺だけだ。ZOMBIEを作り出した者は、この星でハッキングでなければ……まさか……「モンストラスR! 鈴村和明情報を出せ」
<モンストラス-LIFE YOUR SAFE-R-鈴村和明-モンストラス-不在>
「なに!? どこにいる」
<R-鈴村和明-シンギュラリティ-63分前-リンク完了>
――どこに居る。「R鈴村和明! 携帯電話位置情報!」
<R-鈴村和明-携帯電話-位置情報-現在-不明》
――これでは居場所がわからない。それより……まずは異常がないかモンストラス管理室を確認するべきだな。「モンストラス管理室に入る! 専用エレベーター」
<モンストラス-管理室-エレベーター-機能開始>
モニターの向かいに面する壁が、一部分、縦横に開き、三人は入れないほど狭く、一人で昇降することを考えられた管理室へのスペースが現れる。そのスペースに侵入して後ろを振り向いた鈴村は、見送りも存在しない管轄室に一言告げる。
「俺以外、入室させるな」
<入室制限-鈴村和明-了解>
エレベーターの扉が閉まると同時に、壁も痕跡なく元に戻る。
鈴村の懸念するファクターの存在。Rの鈴村に対する疑念。モンストラス管理室の安全確認など、多様な不安要素を排除するべく、管理業務を粛々と進める。
Rの鈴村の行動は90分ほど前に始まった。
◆◆◆
12:38 モンストラス世界。
桜との電話を切り、森林の中たたずんでいたRの鈴村は、遠目で桜と刈谷を眺めながらしばらくたたずんでいると、少しずつ響いてくる馬力を感じる音。応援が到着したと感じた鈴村は館より遠ざかり、それと同時に震える携帯電話の着信に耳にあて、誰かともわからない相手と連絡をとっていた。
『管轄!! 間もなく到着致します!! 連絡により、いち早く応援に駆けつけましたので、荷台に職員は数名いますが、このトラックの室内は私ひとりです!! 私のような一職員に、ご命令いただきありがとうございます!! よろしければ直属の上司である田村に、このことを伝達致しようとも考えておりますが』
『それはあとでいい。君の名前は確か……』
『はい!! 職員の田崎健太たさきけんたと申します!!』
『そう、君が先ほど電話に出てくれたのがひとつの縁だ。やはり直前に話した者の方が話しやすいものだ。そして、先ほど話したように、春日という者が現場の事故で心神喪失気味な様子となっているが、それは水谷桜の指示通りに動いてくれ。それと……』
『はい!! しっかり頭に入れました!! 春日に関しては水谷チーフの指示通りにします!! そして別件でのご指示、わたくし田崎健太は!! 確実に『見つけて』確実にお届け致します!!』
モンストラス世界の絶対的存在である鈴村と直接会話が出来ているという感動や興奮からか、復唱を先走る田崎。鈴村が刈谷の存在を確認するために支所へ電話したときに、受付係から取り次いだ職員。
鈴村は桜との電話のあと、すぐに支所へ電話を掛けなおし、少し不器用にも感じる雰囲気と実直な性格に何かの利用価値を感じたか、何かを捜索する命令を下していた。
『そうか、それでは宜しく頼むぞ。君のことは覚えておく。そして、探し物の『二つ』のうち一つは……』
『はい!! それはすぐにお届けします!! そして、もし『死体』があった場合は田村と内々に埋葬することで良いでしょうか?』