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シンクロニシティ

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「上手くいった……わしの……いや……俺の肉体から、同時に死んだ事により、意識だけを解離する事が出来た!! 死にたかった……あの『肉体だけ』を!! シンギュラリティ世界で何度もそれを考察したが、128年も経った『老体』をクローンで生まれ変わっただけでは身動き取れんかった……春日に変わった人間の刈谷の姿を見て、奇跡が起きるこの世、モンストラス世界なら、肉体のチェンジが可能だと思った!! シンギュラリティ世界で問題を起こせば、人間の鈴村がこの世に再び送るのではないかと踏んでな!! 上手くいった!! ハハハハハ!! お前……見た目は刈谷だが、中身はRの鈴村……だろう?」



「か……加藤? そんな」



 鈴村より先に、桜から零れる名前。

 横顔から、真っ直ぐ桜と刈谷の姿へ顔を向ける『鈴村の姿をした加藤』。

 鈴村。それはモンストラス世界の管轄であるR。本体である鈴村に謀反をたくらむ者。その計画をシンギュラリティ世界で『ある者』に聞かされたRである桜。

 言葉を一番失うのは、本体を裏切ったファクターであるRの鈴村であった。



「無言は答えだな!! 鈴村!! お前のお陰だ!! お前がRの刈谷を背中から撃った後、俺は人間の刈谷より貰っていた拳銃で、お前を撃った。そしてお前も老体の俺を撃った。先に撃たれたRの刈谷が、死に絶えるまでのカウントダウンが終わる間際に、うまい具合に俺たち三人は、同時に死んだ!! Rの刈谷、Rの鈴村、そして、クローンとなり、それでも変わらず老体だった、この加藤達哉が!!」



「くそ、加藤達哉……水谷!! 加藤は俺が抑える……春日の姿をしたRの刈谷の確保を優先しろ」



「は、はい! あ……か、管轄!! 春日の姿をした者が……三階の窓に足を!! 飛び降りるかも知れません!!」



 玄関ごしから春日の姿をしたRの刈谷を確認した桜。

 その頃、三階の窓際で自分の意識と戦う春日の姿をしたRの刈谷は、自分に唱えていた。



「ハァ! ハァ! ハァ! この世界を……自分で理解……しろって……事……かぁ!? 加藤さんよ!! ハァ! ハァ!」



 加藤によりこの世の理を聞かされたRの刈谷は、自分自身の姿に捕まる事や、ややこしい尋問に合うことも避け、三階から目で見てしまった自分の姿への世界のあり方の答えを見つけられるような気分で、レミングのように新しい世界へと飛び込もうとしている。そして、つじつまの合わない現象のエクスチェンジが起きたことも知らず、加藤と鈴村と桜のやり取りにより世界がひび割れるような空に舞う共感覚現象を三階で目の当たりにしながら、飛び込んだ。

 一階では鬼気迫る空間。鈴村が桜へ命令を発する余裕を与える前に、加藤が咆哮する。



「俺は自由だ!! 目的は達成した!! デジャヴュは起こさせん!! 死なない程度に相手してやる!! ぐがぁぁぁあああああ!!」



「刈谷が!! 飛び降りた!!」



 黒いノイズを吐きながら、Rの鈴村に向かい突進する加藤。

 鉄柵に向かい飛び降りる刈谷を確認した桜。

 その刹那、無駄に言葉を発しないRの鈴村に『ZONE』世界が発動する。



――加藤の能力……monstrous時代の産物。フェム……聴いた話だけなら、残忍で狂暴。それだけなら、それ以上の暴力で押し潰せる。monstrous時代の記憶情報が本体の鈴村からは少ない。何故モンスターとまで呼ばれる? 人を喰らうのか? だがな、このスローモーション世界となったこの空間では、こっちのフィールドだ!!



 鈴村がZONEであるスローモーション空間の最中考察していると、すでに加藤は最初の地点より、鈴村まで半分の距離まで来ていた。



――速い……異常に筋力が発達するのか? しかし、それだけでは、この空間では無意味だ。今、加藤を殺してしまったとして、もしデジャヴュの戻る時間が、すでに肉体解離後の世界なら、俺の姿のままの加藤を逃がしてしまう。確実に加藤を戦闘不能にし、ここで抑えなければ。加藤が襲いかかってくる体の角度……ここに届くまでの踏み込む足、利き腕……余裕を持って右側に回り込み……足を払い、上から叩き、押さえ込む。



 鈴村が『ZONE』空間の中、加藤の行動全てを想像して、加藤が回避しづらいであろう行動を、長い思考時間で、丁寧に押さえ込む方法を計算し、それを積み重ねることで、加藤の能力がそれほど脅威とは感じなかった。

 つまり、Rの鈴村は知らなかった。monstrous時代の脅威を。

 なぜ、寿命が伸びるのか。

 なぜ、常人では考えられない反射神経があるのか。

 なぜ、意識が無くなるほどの獣な人格となるのか。

 なぜ、人を喰うのか。

 Fortune(幸運)Electro-Magneticwave(電磁波)という、言葉の話を先人より聞いていたFEMフェムとは何か。

 それら全ては、『なぜ』と思ってわかるものでもない。それを体験することで、味わうことで、襲われることで、少なくとも、一度は衝突しないとわからないものだった。そして相手は、老体の加藤ではなく、若い肉体を取り戻した、狡猾な歴史をもつ全盛期のmonstrous(奇怪で恐るべき怪物のような存在)である。

 加藤は鈴村と対称的に、突然床を蹴り、鈴村が回り込む先に、ショートカットするように軌道を合わせる。



――ばかな!! 俺が行動する前に!! こいつの能力……先が読めるのか!?



 軌道を合わされ、すでに目の前にいる鈴村の姿をした加藤。そして加藤は、鈴村の顔で形相を見せる。その顔を目の当たりにする刈谷の姿をした鈴村。鈴村本人であれば、このように思うであろうか。自分にはこのような顔をすることが出来たのかと、自分の元の体に何が起きているのだろうと、毎日鏡を見てきた自分の姿が、今まで見たこともない顔つきで迫ってくるような気持ちであろうか。

 体より顔が、前に前に突出したかのような自分の姿に威嚇されている鈴村。

 鈴村の中では、加藤が走り出してから一分は経過しているのであろうか。加藤からすれば一秒か二秒のことであろうか。数秒、自分の姿に怯え、数秒、加藤の能力の分析に追われ、数秒、これからの攻撃方法を考え、それらを含めて、鈴村は完全に『ZONE』の世界に自分を油断させていた。

 明らかな突出してくる首に、鈴村は加藤の喉を狙い、硬く握った拳を下から突き上げる。しかし、すでに加藤は姿はそこにはない。そして鈴村も、それが当たらないことは長い空間の中、理解していた。

 鈴村が力を込め、叩き込もうとする前の、助走のような行動は、加藤にとって、次の行動へ移れる時間。

 勢いを持って振り上げた拳は、その勢いに体を持っていかれる。それは遠心力のように、どれだけ時間があっても避けられない自分自身の所作。



――駄目だ!! 読まれてる!!



 その固く握って天に突き出した拳を、加藤より大きく軌道から外している間、見えていながら見失いそうな、無駄な動きがなく、当たり前のように、鈴村の懐に入り込んでいる加藤は、腹部に狙いを定め、両手で掴もうとする。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ