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シンクロニシティ

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【X CHANGE】 漂流する肉体と意識の解離



 桜は自分の立場と都合の位置状況を整理する。だが、いつも刈谷が到着している時間より遅れていた。もしかして、刈谷は来ないのではないかと想像した矢先、桜へ近づく車の気配がする。それは少し遅れて来たと感じる12:12。

 考えを巡らせる桜にとっては思考を整理するのに都合が良かったが、その反面、到着が遅れることによる、それまでのデジャヴュとの違いを考えたかった。しかし、それほどの時間の余裕はなかった。



――来たわね。



 社用の車から開くドアの音と勢いは、気持ち、ゆっくりな空気感であり、そのドアの下から見える足は、落ち着いて地に足をつけた砂利の音だった。フロントガラスは反射により車内をしっかり確認することは出来なかったが、車から出て来たのは想像通りの刈谷である。

 Rである刈谷であるはずの人物は、特に焦るようでも罪悪感を滲ませるでもなく、桜に近づく。



――何度同じ芝居をしたことか「お前は今日から専任の春日だな!! 仕事ナメんじゃないわよ!!」



 桜の想像では、この瞬間、Rの刈谷が春日呼ばわりされて、とまどうはずであった。

 その刈谷の姿は、予想外の言葉を零す。



「どうやらお互い……いや、俺の方かもしれないが、上手く行かなかったようだな……水谷」



 その言葉の雰囲気は、Rの桜を知っている者でなければ口に出せないような表現。それでいて、失敗を口に出していても、慌てない口ぶりは、性格や気質によるのかも知れない。その言葉のトーンから想像できる刈谷の姿をした者からの少しだけの言葉の内容に、Rの桜は自分の仲間である者と察し、ごまかすことなく、それに合った返答が自然と口から出た。



「そ、そんな!! じゃあ……三階にいる春日の肉体は今……Rの刈谷!?」



 Rの桜が三階からの合図を待っていた仲間が、刈谷の姿で車で現れた事に、愕然し戸惑い始める。それは桜自身、何かミスをしたのではないかと考えればいいのか、それとも、仲間が口に出したように、仲間が何かミスをする事態があったのかとも感じながら、次の言葉を待つ。



「俺がここにいると言うことは、もしかするとそうかもしれないな……春日の姿をした人間である刈谷の始末に、抜かりないか?」



「ない……ないわ!! あの鉄柵に刺さって……あ……窓から見てるわ!!」



 桜は、仲間がRの刈谷を始末したと思われるデジャヴュの寸前、自分が春日の姿をした人間の刈谷を間違いなく抹殺したと思いながらも、すでに誰もいない鉄柵に向かって勢いよく振り返り、想像通り誰もいない凛とした鉄柵を見た瞬間、その視界の上の、三階の窓に不自然な揺らめきをするカーテンの気配を感じる。

 その桜の挙動を背中で眺める刈谷の姿をした桜の仲間は、三階の気配を察し、桜へ静かに命令する。



「見るな。さっきまでと同じ動きをしろ」



 その一言に、なるべく自然に体の向きを変えて振り返ろうとする桜。ひと時の戸惑いは、『桜よりも判断を優先できる仲間』の言葉に従うことの方が間違いないと感じる主従関係。

 その仲間は、予定通りに行くことを最優先するように、桜の混乱を防ぐためにも、再確認をするように目的を話し出す。



「防護服に着替えるんだ。予定通り俺が、ANYのバグを利用して、潜入する人間の刈谷に変わり、何事もなく半年間偽装潜入する事が目的だ。今度は俺が奴と『同時に』死ななければならない」



「わかりました」



 今にも頭を下げて了解の意を表現しそうなほど命令に従う桜。その言葉通り、二人は防護服に着替え始め、三階から監視されている事を意識しながら、鉄柵に近づかないように、なるべく自然に、警戒されないように、春日の姿をしていると思われるRの刈谷を目的に建物に向かう。

 横に並んでゆっくり歩く二人は、口元を大きく開かずに、これからの展開を話し出す。



「水谷、俺はまず加藤達哉の動きを封じる。また、邪魔をされないためにも」



「また? とは」



「あぁ……Rの刈谷を背中から撃ったあと、加藤は隠し持っていた拳銃で、俺と撃ち合った。今までは、お前がシンギュラリティ世界を理解するために、俺からRには直接手出しをしなかったが、お前もこの世界を理解して、人間の刈谷の存在も確認したお前が抹殺した今、加藤の存在も邪魔でしかない。だから邪魔が入らないように、地下の扉を上から塞ぎ、春日の姿をした者がいる三階に上がる」



「私は何をすれば?」



「お前は玄関ごしで、三階の窓から春日の姿をしたRの刈谷が降りないか監視してろ」



「わかりました」



 二人は館の玄関に触れられる距離まで近づき、桜は刈谷の姿をした者を護衛するかのように、ホルスターの拳銃を握りながら後ろを振り返り、三階の窓に目を光らせながら、次の言葉を待つ。



「お前がシンギュラリティ世界で人間として存在するために、刈谷のZOMBIEを使って『お前の本体を襲撃』させた。そして俺もこのままRとして、『本体の指示』を中心に生きていくつもりはない。『俺たちの神となるあの者』の言葉の元、俺達の利害は一致した」



「はい、その通りです。そして万一、人間の刈谷が生きていた場合、直ぐに始末致します」



 Rの二人は、自分たちが望む形と世界を手に入れるため、存在を手に入れるため、館の玄関でお互いの計画を語り、行動しようとする。

 桜は静かに玄関のドアを開きながら、監視体制をとる瞬間、開ききったドアの先、二人の目の前には、想像もしていなかった存在がいた。

 油断が出来ない存在に、その存在から響く笑い声と一緒に、ノイズ(共感覚)が色めく景色に、刈谷と桜のRは同時に拳銃を構え、警戒体制をとる。

 その空間で最初に言葉を放ったのは、桜の横に並ぶ、一番驚嘆したと思われる仲間である。



「だれだ!? 『俺の肉体』に……誰の意識が入った!? まさか……」



「は、は……ハハハハハハー!! ハハ……ハ……ハハ……アハハハハハー!!」



 高い声で笑うたびに、黒い色が矢のように鋭く広がり、散っていく。止まらない色の主は、二人の目の前で跪いており、階段の脇で、やや階段の影に入りながら、体を横に向けているシルエット。膝をついていても、稀に見るような高い身長を思わせる身形、何度も両手の拳を握り、体の機能を確認するように、まるで自分の目的を完遂した賛美のように、階段の影で高く笑う『鈴村の姿』が在った。

 黒くにじむノイズにより、更にかすむ表情。それでも、誰にでも認識できる笑みを浮かべながら、『Rの鈴村の肉体』を持った人格は、玄関で拳銃を構えるRの桜と、隣に並ぶ『Rの刈谷の肉体』に入っている鈴村へ、横顔のまま、聴こえるように語る。


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ