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シンクロニシティ

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 風で窓が開いた。入口に背を向けて防護服に着替えている二人の背中側の玄関を狙い、ダイナマイトを投げた。



――ぅあああああー!! 「桜ぁ……」



 桜の名を呼びながら、Rの桜を眺めた瞬間、二人の真後ろで爆発したダイナマイトの勢いに、玄関に仕掛けた爆薬にも誘発引火した。その瞬間、振り返った桜と三階の刈谷は目が合う。その目は、いつも花のような笑顔の桜ではなく、邪険にしている人物が二人もいることに驚いたような瞼の見開き。春日の姿をした刈谷の、桜に対する切なさは、この一瞬の館のように、落としたガラスが砕け散るかの如く、激しく吹き飛んだ。事実も同時に。



「は!? 俺は……生きて……る?」



 刈谷はしばらく放心する。自分が館の三階で、爆発はまるで何もなかったかのように。

 左手に力強く握るダイナマイト。床には使うことが無くなったと思っていた携帯電話。出来事の理解が出来なかった。けれど、考える目線の下には、その状況を整理できる情報のひとつである腕時計に目が止まる。



――なんで、俺は……変わってない!? 時間は……11:50……戻ってる? ……加藤は!? 【……加藤さん……居るか?】



【君 か どうやら 不死の 始まりだ と、言いたいが 君は 今が初めて 時間が 戻ったと 感じたの だろう。だがな わしは既に 数十回は 時間のさかのぼりを 感じておる ZOMBIEは 最初の 爆発で消えた ようだ。 君のR とも 11回ほど出会って いる が 自分を春日と 名乗っておった】



【ばかな!! 何が変わった!! ちょっと待ってくれ……かけ直す】



 刈谷は携帯電話を下げ、それほどの躊躇もなく、外の様子を見る。そこにはRの桜が一人だけで館の前で様子を見る姿。

 三階で覗く刈谷にとって、先ほどまでの状況と変わり、刈谷が桜と一緒にいないことに、どのように驚いていいのかもわからなくなる。



――桜一人?



 同じ頃、館の裏口の桜の木の下でたたずむ男がいた。その男の目に映るものは、まるで眠っているように静かな木漏れ日の中で、おそらく傾いた体が地に寝そべる姿となった桜を眺める男。



「水谷……やり遂げたな」



 生死不明であり、少し見る角度を変えて見れば、顔と背中に戦いの壮絶さを理解出来る様子の桜を見ながら、シンギュラリティ世界より再度現れた鈴村が立っている。



「不死現象は始まった。お前のおかげだ。刈谷の帰還した時のために、お前のクローンを創っておくべきだな」



 桜を抱える鈴村。その静寂な森林の中であることからか、桜を抱えたことで、鈴村は人一人の重量の負荷により、自分の心拍数が上がったものかと勘違いしてしまいそうになった。その鼓動は丁寧に吟味すれば、自分の鼓動ではない。鈴村は桜の生命を感じる。



――鼓動……生きている? 弱いが……この致命傷で……とにかく戻るぞ。



 その頃、三階の刈谷は、現状を理解するために、用心をしながらも、窓から様子をうかがう。

 腕時計は12:05となっていた。本来なら10分以上あとから到着する社用の四駆車であった。そして車から降りてくる者は春日のはずだった。



――現れた!! ……俺が。春日は……まてよ……それは……この俺……か。数があっている。もうひとり……殺す必要があるのか!?



 館の外に春日の姿がないことで、いま生きている春日の姿をした自分が、この世の歯車になったのではないかと瞬時に浮かんだ。刈谷は、桜がやろうとしたことを達成して、この世に溶け込むために春日としての自分がいるのではないかと考えを巡らせた。そして、そのように信じ込もうとも考えていたところだった。しかし、それでは加藤の言葉と何か違う気がした。

 三階の刈谷が何度もまばたきをしながら壁に背中を合わしているとき、Rである外にたたずむ二人。ほとんど聞こえない声の中で、爆発前にも聴こえた声はあった。それは桜が怒鳴っている声。



「お前が今日から専任の『春日』だな!! 仕事ナメんじゃないわよ!!」



 三階から眺める春日の姿である刈谷は困惑する。その理由は窓から流れてきた認識が不明となった刈谷の姿を春日と呼ぶ桜の言葉である。

 加藤が言った言葉の裏付けが刈谷の耳に刺さってきたことにより、何を基準に、誰をどのように見てよいのかがわからなくなってきた。

 外の自分はどのような態度を取るのか、頭を下げるのか、それが普通なのか。その様子を確認するためにも、思考しながら窓の外を眺めようとする。



――春日と呼んだ!? 加藤の言ったとおり認識が変わっている!? どうなっている。あいつは俺じゃないか? じゃあ俺はどうなんだ!? 俺は春日の姿で刈谷と呼ばれるのかぁ!? 駄目だ……つじつまが合わない。どうする……まずは、加藤の言う通りなら……数十回失敗しているはずだ。あ!! まずい、ここにいる俺に気付いたのか!? あいつら、館に急いでいる。くそ!!



 見た目は刈谷と、桜のRが、少し急いだ雰囲気で館に侵入しようとする。

 考えを整理したい春日の姿をした刈谷。すでに左手にはダイナマイトではなく、携帯電話を握り締める刈谷。



――真っ先にここに来るか? 会えばおかしな話になりそうだ。【加藤さん……俺に会ったんだよな】



【……あぁ 君のRが わしとの 話が終わり 外に出た時 君が 館ごと爆破しておる】



【なら……桜を殺す事が正解って事か!?】



【わしには わからん。だが 春日という者の認識が 今の君の体に 戻るの なら 外にいる刈谷の姿には 誰が 入るんだ? 君かい?】



【さっぱりだ……わからない。俺は元々人間の刈谷なのに、今は見た目は春日で、おそらくこの世界の名前は刈谷……じゃないかな。なんでそもそも俺はこの体になっている!!】



【君は 今初めて 死を 繰り返した事で 意識が 目覚めた。目覚めなければ自分に違和感は なかっただ ろう。もし 違う意識に したいので あれば……今度は……全員『同時』に 死ぬ事を 提案したい】



【……同時?】



【死ぬ タイミングが ずれなければ きっと 違う結果が。そして、また 君のRが来たら 話を 引き延ばしておく。君は 地下まで来て わしを含めて 爆破 するんだ】



【……わかった】



【……あと あの 桜 だったかな。彼女は 恐らく 生きて おる】



【本当か!?】



【彼女の 生きる 意思によるが な。わしは 最後の最後で 間違いを犯した。だが 能力の弱まった わしの力……monstrous時代のような 戦争には……複数には 感染しない。単体の 能力 だろう……そして わしのもつ 能力全てが 備わらない 可能性もある。君が 自分の世界に 戻る事が あれば 彼女を 危険な目に あわさない 事だ】



【感染? 能力全て? とにかく桜を護ればいいって事だな? あんたみたいに暴走させないように。加藤さん。望みをありがとうょ……連絡は以上だ】


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ