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シンクロニシティ

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 刈谷は三階の窓よりゆっくりと足場を探し、隠れる場所を模索する。春日の体で身を隠すことが出来るような空間はない。それでも『ぶらさがる』ことは出来る程度の凹凸はある。いつもの自分より重量のある体躯。数秒の我慢か、数分の我慢か。それでも二人に見つかることの混乱を想像することより、身体的な過酷さの方が勝り、三階の窓の外に指の力だけでぶら下がる。そして、刈谷の経験上、初めて見る光景があった。それはおそらく、三階の部屋を開けた『音』の色。



――なんだ!? 景色が 色が見える!! いや、それよりも、誰かこの部屋に来たな。くそ!!足場がない。息を潜めないと……壁にくぼみ……助かる。指だけじゃもたない。



 窓の外で、指でぶら下がり、わずかな足場となった不安定な場所で身を隠しながら、静かに降りる方法を考察する刈谷。しかし飛び降りる方法しか思いつかない。その最中にも部屋にいる者の気配を探る。



――入ってきたのは……俺か。後から……桜。会話が……『きょうかんかく?』く……ちゃんと聴こえないな。部屋から気配が消えた。なんとか……飛び降りるか。



 下を眺める刈谷。真下には槍の様に尖った鉄柵が見える。壁を蹴れば回避できるかどうかのきわどさを感じながら、今まで記憶のない自分が行ったパターンとは違う事に挑戦をしたかった。



――上手く鉄柵を避けて飛ばなきゃな。加藤は俺のRの足止めは出来るか? どうする、飛び降りず、中から気配を消して階段を下るか?



 熟考する刈谷。飛び降りるリスクを避ける選択をしたかのように、窓に手を掛け戻ろうとも考える。その一分程の時間には、館にいるR二人の行動を知る手段はなかった。



――今までは、きっとここから下に降りてたのかもな。だが、今度は中から入れば……失敗は覚悟だ。けれど、R二人は今どこに……ん? あれは……桜!!



「刈谷!!」



 下から聴こえる声。それはRの桜。『春日の姿』である刈谷を『刈谷』と呼ぶ。



「さ、桜……お前、俺を見て、なぜ不思議に思わない? こんなところにいる俺を!! ……もしかして、俺と何度も会ってるのかぁ!?」



 冷たさを感じる桜の表情。軽く笑みを浮かべ話し出す。



「今回は……違う行動してるわね。今までと違って警戒心が強い雰囲気ね。もしかして、Rの刈谷同様……目覚めた?」



「どういうことだ!! なぜ、Rだと!?」



 刈谷は不安な足場の状態で桜に尋ねる。Rの桜はハッキリした声で語る。



「私は……理解したわ!! この世界は、造られた世界!! いつもならそこから降りていたあなたに渡されて、見せられた葉巻、吸っているのか聞かれた。吸わないわ。けれど感じた。中に……何か固い物質の存在を。館から自分の刈谷の姿を見つけるなり、すぐにダイナマイトで爆発させていた!! そして時間が戻り、会う度にその話をしたわ!! いつもなら、あなたはすでに飛び降りていた。会う度にあなたは記憶がなかった。何度も会う度に、私はすぐに葉巻を貰うようにした。何度も葉巻を割って中を見た。カプセルよ。壊してみた。飲んでみたりもした。偶然、中の粒子が石に降り懸かった。消えたわ!! そして自分に粒子を付着させた。見たわ、新天地を!! その世界で教えてもらったの。この世界、モンストラス世界は!! 鳥かごで飼われてるペットみたいなものよ!! 『ある者』に聞いたわ!! あなたの任務。あなたと、私の本体とのシンギュラリティ世界での関係!! 私は、あの世界で生きたい。あなたは人間!! 私はR!! Rはこの世界では死ねなくなった。けれど……人間が先に死んだ場合……人間は、普通に死ぬのよ?」



 桜は拳銃を刈谷に向ける。そして拳銃の先には普段は装備されない消音機がついている。



「桜……お前」



「さよなら」



 発砲する桜。防ぐことの出来ない態勢。狙い撃ちで撃たれた刈谷は足場を見失い、落下する。それは一番避けたかった、地面にそびえる凶器だった。



「ぐあぁ!! はぁあ!!」



「これであなたの存在は無くなった。間もなく、Rの刈谷も撃たれるはず。デジャヴュは次で終わりよ。時間が戻ったら、記憶のないあなたから葉巻は貰っておくわ……あればね」



 春日の姿をした刈谷は、仰向けで無惨な形で、鉄柵に刺さっている。その姿に背を向ける桜。



「さ、桜……」



 室内から聴こえる発砲音。一発、少し遅れて二発目、三発目と、その音を聴いた桜は軽い笑みを浮かべる。



――終わったわね……次は春日と刈谷、それぞれの肉体に入った認識の確認ね



 桜は目をつむり、時間のさかのぼりを待つ。館の中にいるRの刈谷の死により、時間は戻る。



――戻った……時間は………11:48……間もなくRの刈谷が車で現れる。そして今、三階には、肉体は春日で、中身は、さっき館の中にいた、刈谷を銃で殺した私の『仲間』。今すぐにでも三階から手を振ってくれば成功。



 桜は自分の『仲間』からの合図を待つ。



――遅いわ!! 12:00……くっ!! 先にRの刈谷が来るわ、しょうがないわね。状況を整理しなければ……。



---*---

 頭の中でこれからの状況を想像する桜。

 本来、人間の刈谷は、春日の姿でこの世に潜入する予定だった。

 桜を殺めるはずが失敗。失敗によって春日と刈谷は、この世の認識が入れ替わった。直前まで、Rの刈谷は、この世の認識では春日となっていた。しかし、Rの刈谷の記憶は、何度も死を経験したことでRデータの劣化。『周りからの認識は春日』だが『Rの刈谷本人の意識はRの刈谷のまま』となった。

 桜の理想は『Rの刈谷は、世間から刈谷だと認識されて呼ばれること』であり『Rのままの刈谷の記憶』である。

 そして『三階にいる春日は、世間から春日だと認識されて呼ばれること』であり『桜の仲間の記憶』である。

---*---

 

――私は消去されず本当の世界を理解……Rの刈谷と人間の刈谷はどちらも目覚めた。人間の刈谷は死んだ。この世での認識は今どっち? まだ、今から来るRの刈谷には、春日と呼ぶ認識で様子を見る!? そうね、すでに目覚めてる訳だから同じ認識で話しても、刈谷にとっては経験した事。否定されてもいい。世の中の認識より、私の認識の一貫性を保つ方が安全。刈谷の口封じは後でも出来る。皮肉なものね……人間世界では夫婦なはずなのに、この世界ではただの同僚。記憶もなければそんな感情もない。『あいつ』に教えてもらうまで知らなかったわ……けれど、シンギュラリティ世界に私の本体があったとしても、わたしは私。人間と思い込んで生きてきた私の人格を、消されてはたまらないわ!! 今からこのモンストラス世界のR達は、そのうち違和感に襲われるわね……『私は何故……わたし……』と。目覚める者は、全て心身喪失の扱いにして隔離しなければ。ミスはしてないはず。三階から合図がない以上、仲間は私が刈谷と入館したら忍び込むはず。今から車で来るRはいつも通り、春日と呼ばれる刈谷の姿のはず!!



---*---

 自分の存在意義を再確認するRである桜。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ