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シンクロニシティ

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【意識のHARD PROBLEM】 私は何故わたし



 館の二階にある倉庫より、持ち運びが可能なガソリンの携行缶けいこうかんを両手に持つ刈谷。ドアの外に出し始め、圧力ホースに繋ぎ、振り撒ける準備をする。

 桜の前でひざまずく加藤の背中を眺めると、加藤の左右から覗ける桜の横顔と、動く気配を無くした桜の両足が見える。口角が下がりそうな気分と、今から予想のつきづらい展開を頭によぎらせたか、目尻から見える倉庫の内部を再確認しながら加藤と桜の元に近づいた。



「加藤さんょ……見慣れないものというか、色んなものあったなあ、倉庫」



「あぁ 昔の 産物 だよ。引火すれば 全て 吹き飛ぶ」



 その言葉を聞いたと同時に、横向きに倒れている桜の安らかな埋葬を考えてか否か、首元と両足を抱きかかえる。



「桜……動かすょ……ん? 葉巻……」



 桜の胸のポケットに、相応しくない葉巻を見つけると、指で簡単に摘み、取り出す。



「桜……吸わないのに……なぜ」



 鈴村がくわえていた事を思い出しながらも、桜が葉巻を持っている答えは解らず、そのほかにも携帯電話と、ホルスターの拳銃を取り出す。



「加藤さん……あんたに渡した携帯、撒き終わった時にトランシーバー機能で連絡するょ。またおかしな奴らが現れた時のためにも、この拳銃も渡しておくから……どこか待避しててくれ」



「わかった」



 桜を抱きかかえ、階段を軋ませながら一階に降りると、裏口より退館し、館から少しだけ離れた、老齢な大木の木陰に横たわらせる。



「桜……すまない……俺の事で巻き込ませてしまって……せめて、まだ咲かないこの桜の木の下で……安らかに」



 桜の手を組ませ、うなだれる刈谷。立ち上がり、何度も振り返りながら、桜が木漏れ日に眠っているかのような安らぎを眺めて、その姿を目に焼き付かせて、館に戻る。



 刈谷はガソリンの入った携行缶を持ち、これから目的の人物が来る情報もなく、一階から二階、三階と、窓から館の届くところ全てに振り撒く。その窓は換気用にも開けたままにして、往復するように三階からガソリンを振りまきながら二階に降りた。

 ちょうど二階に下りきったところに、ジッポが落ちていた。テストに使用する気にもならないほど匂いが充満した空間。静かにポケットにしまい、二階の倉庫の外に出していた昔の産物である引火物の爆薬類に近づき、一度や二度の往復では配置できないほどの量を両手で持てるだけ抱えて階段を下り、玄関の右側に、隠す様子もなく丁寧に置いていく。

 再び二階からガソリンを振りまきながら、一階の、春日と思われる骸が床で眠っている部屋の前でちょうどなくなり、全て撒き終わると、携行缶を部屋の中に放り投げ、一度ドアを閉めたときの癖のようにドアノブに触れないように閉めた。そのまま洗面所にふらりと入り、かぶるように蛇口からの水を頭に流し顔を磨く。



「はぁ……こんなもんかな……連絡して、まず脱出させるかぁ………ん!?」



 洗面所の窓から振動が伝わりそうなほどのヘリコプターの音。隠れるように窓から眺めると、館の上を通る直前に見えたその機体には『LYS』のロゴ。



「やっぱり。来る予定だったんだな」



 ヘリコプターの振動が完全には消えないことと、同じ高さで空中待機していることに、刈谷は着陸の気配でなければ、ラペリング(ロープに安全具を備えて降下する)をすると考え、携帯電話をトランシーバー機能の操作を行いながら、三階の部屋に向かう。



【聞こえるか? 加藤さん……撒き終わった。間もなく職員の誰かがやってくる。待避は済んだかい?】



【わしの 事は 気にするな……やっと 死ねるよ。 君も 逃げる気は ない だろう?】



【あぁ……巻き込んで悪かった……必ず職員は、この館の様子を見て、あんたの自殺を食い止めるつもりで館に入る。倉庫にあった爆薬を貰ったょ。特に入口に固めてある。俺もこの手に一つ持っている……タイミングが難しければ、窓から玄関に投げて、館ごと誘発させる】



【わかった 君に任せる よ】



【加藤さん……連絡は以上だ】



 ダイナマイトを握りしめながら、三階の部屋まで到着した刈谷は、加藤との連絡を止め、桜の残した任務に集中する。

 立ち込めるガソリンの、目に触れそうなほどの匂いに意識を途切れさせないためにも少し窓を開けていたが、窓を閉めようと近づいたとき、窓から目に触れた外の気配に気がついた。



――11:48……現れた!!



 ヘリコプターよりラペリング降下して館の前に現れた人物。それはRである桜と刈谷。二人は館へ簡単に近づこうとした時、立ち込める匂いに気づいたRの刈谷は左手でRの桜の足を止め、危険性を話し始めていた。その声は三階の刈谷にはほとんど聞こえず、腕を組む桜の姿と、頭に手を置きながら考えている刈谷の姿を、窓の端から軽く覗いて、すぐに目を離し、壁に背中をついた。



――春日がいない……桜は、春日と『もう一人』を殺すと言った。春日はどこだ!? それと、もう一人って……俺と桜のRの、どちらの事だ!?



 館を二人に直視されている状態。簡単に窓から何度も覗けない三階の刈谷。それでも入館のタイミングは逃せないことにミリ単位で窓から顔を覗かせ、様子を探る。



――匂いに気付いて俺が誰かに連絡している。どう館に入るか探ってるな。まだ入ってくる様子がない。まず……入れば即、点火の可能性を考える。なら被害最小限にするため……防護服か……一旦戻るか……連絡した誰かが持ってくる。ヘリや車には常備されているはずだ。その役が春日だな……もう少しだ。



 窓の錠を閉めることができなかった刈谷の覗く窓が、風により自然と開閉する。



――マズイ!!  カーテンが揺れると意識がこちらに向く!! 押さえないと。



 カーテンを押さえる刈谷。しかしその揺れ具合が、雑談をしながら外から見るR二人にとっては違和感にもとれる。



 緊張状態で三階の窓のすぐ横で沈黙する刈谷。何分経過したか、玄関のドアが開かれる様子がないか神経を集中している最中、次に感じた気配は車の近づく音だった。砂利を弾かせながら社用の四駆が到着する。車のドアを閉める音に再び窓から様子を探る刈谷。慌てた様子で二人に近づく人物。それは刈谷の目的であるRの春日である。



――12:17……来たか!! 防護服、やっぱり持ってきたか……このままだと三人同時に入る。館に入れば俺のクローンの死体の山。春日の死骸まで……誰にも見られてはならない……ハハハ!! 今がその時か!? 自分の覚悟の時……死ぬ前って言うのはこんな感情なのか?「ハハハ馬鹿らしい!! 大笑いしたい………終わりだ」――桜が車に向かった。俺と春日は、今は入口の前。間違っていたとしても、桜に投げるくらいなら……。



 口に出すことで覚悟も自分に言い聞かせた刈谷は、さきほど二階で拾ったジッポ。加藤が使っていたジッポを使い、着火するかどうかの心配はなく一発でジッポの火は揺らめき、震える左手に見える導火線の一番先端に命の秒読みとなる火を点けた。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ