シンクロニシティ
まるで背中にある目、いや、目で見ても避けられる距離ではない。不可解な能力は、更なるモンストラス世界を匂わす証拠のひとつであった。そして加藤は、そんな鈴村の行動がわかっていたかのように、慌てず、驚かず、背中越しに漏らした言葉は「もう……自分の 意識で は 限界 だ。わし に、栄養 と 希望 を」と。その言葉と共に、浮かんだモンストラス世界の住人はゆっくりと地面に近づき、館の周りの森林に消えていった。
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それまでの展開を想像していた鈴村のたたずまいであったのか、三階の窓を眺めていた鈴村は目線を下げ、館の玄関ドアに触れた。
先に入館した刈谷。地下に降りるにつれ、加藤の心電図の音が一定であることがわかり、安心して加藤の顔を覗き込む。
「もう大丈夫だろ? 加藤さ……あ」
加藤は目を見開き刈谷を凝視する。いつから意識がなかったのか、少なからず記憶があるのか、それは刈谷も加藤も意識の探り合いであったであろう沈黙は、加藤からの言葉で安堵となった。
「君 か……さっきは すまん かった」
「加藤さん、落ち着いたみたいだねぇ」
「この 能力は 危険だ。モンス ト ラス世界に 戻ら ねば ならん」
「まぁ……事態も理解してるみたいだし、でもねぇ……ま、とりあえず、この空間に電話がないみたいだからぁ……俺の社用の携帯電話置いておくよぉ! 地下でも大丈夫! 水ヤガスのように埋め込み式の短波が張り巡らしてるからぁ、しかも他の電子機器に影響しない! 半年は保護義務あるからねぇ」
そのように言いながら、刈谷は加藤の着用している作務衣さむえの腰あたりにある小さいポケットに、刈谷は携帯電話を差し込んだ。その時の加藤の目線は、そのような刈谷の行動に目もくれず、視線は刈谷より後ろにある。
「早く わし は死なな ければ」
刈谷から見れば、多少の自暴自棄により、うつろな目線にしか感じなかったのかもしれない。むしろ刈谷から見れば、元気づける言葉を掛けるべきか、皮肉めいた言葉を掛けるべきかと、すでに高齢という先入観からも考えて自分らしい言葉であっさりと言葉を返した。
「まぁ……俺もどんな危険な能力かは見たから気持ちはわかるけど……言っちゃ悪いけどぉ、この先どれだけ長生き出来るかって、そんな先じゃないと思うけどねぇ」
「能力者 は 自分 の 良い運命に 導く……限界まで 生きるんじゃ カニバ リズム(人喰い)をして でも」
「良くわかんないけどょ、あの……はっ!!!! あぁ……誰……があ!」
微動だにしない加藤の目線の先には鈴村の姿。その姿はまだ刈谷には見えていない。振り返る余力のある刈谷。それは鈴村にとってもわかっていた。すぐに振りかぶった麻酔銃。刈谷の一瞬のうめき声は、意識の飛ぶ瞬間でもあった。
「加藤達哉……願いを叶えてやる」