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シンクロニシティ

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【LIFE YOUR SAFE】



---*---
チーフ  
顧客を担当し、専任以下の部下に指示を与える

専任   
特定の人物の監視人

専任補佐 
専任に準ずる者であり、専任の補助を行う

職員   
情報収集、伝達、警護を行い、指示を受けて実行する者
---*---

 15:12

「はい。私どもは警察に変わり、委託され、事件が起こる前に未然にお客様の安全を護る為に創られた民間会社です。一人でも多く護るという理念により、お客様のご家族皆様を陰ながら見守る立場にあります。
 常にお客様を監視する形となるため、プライバシーなところを目撃する事は常々あります……ですが我々は民事不介入ですので、刑事事件と疑わしい場合以外は介入致しません」

「でも……全て見られるって……何だか落ち着かないと言うか」

 空間の広い建物の外壁は厚いガラス張り。玄関付近には人工樹木の桜の木。室内は白を基調に洗練されたロビーの待合で、チーフの桜と契約希望者は向かい合い、ソファーに座り会社の説明をする。
 続けて説明をする桜の言葉は落ち着いて無駄のない言葉に見える反面、感情がこもらず、淡々と、威圧感も含まれた空気の中、契約希望者の30代に見える男はパンフレットと桜の表情を目で往復する挙動の落ち着かない様子で指先が小刻みに震えている。
 桜は説明をしながら、希望者の情報を眺め、露骨でない程度に様子をうかがう。

「我々に守秘義務は勿論あります。距離のあるボディーガードと思って頂ければと思います。お客様を護るのは契約に立ち会った私が担当者として、私の指示の元に職員は行動致します。そしてお客様の生活に関わりの可能性が限りなく少ない者を厳選します。

 私どもは絶対護れるとは申しません……ただ私どもが見守る事により犯罪の抑止に繋がり、現在犯罪件数は人口の一番飽和した130年前より、対比的に10%も起きておりません。シェアは保険会社よりも多いです。安全の一部を手にいれらるのです。
 一番オススメなプランはこちらの『ALL TODAY』です。お客様は今年売出中の車のローンと同じ月の費用により賄えます。
 低予算の理由は、お客様の近所の皆様も既にご契約いただいておりますので同じ地域の固まった住宅地域であれば職員一人いれば堂々と眺め、順次連絡がありますので、途絶えれば応援がきます。
 ご契約者様の密集地域により職員の監視の人数が少なくてすみ、それによりご契約者様が同じ地域に増えるほど人件費が掛からず、毎年費用がお安くなります」

「まだ小さい娘の行動も監視出来る訳だし……なら決めようかな」

「但し、こちらにも審査があります。説明は形式的に申し上げましたが……申し訳ございません! 当所ではお断りさせて頂きます」

「え!? ど! どうしてですか! 僕のなにが!」

「審査の詳細を明かす訳にはいきません……あくまで当所の判断ですが、他の支所でも審査は出来ますので、そちらでお願い致します」

「納得いかないぞ! 説明をしろ! 見下しやがって!!」

「本日はご来所頂き有難うございました! こちらは粗品と自宅から想定される交通費となります」

「ふざけんなよ! あんた……何様な! く……くそ、この!」

 通りすがる職員は歩きながらも時折桜と希望者を眺める。
 その周りの様子に希望者は声を張り上げながらもへりくだった雰囲気で自分の感情を表情に現わしたり、なくしたり、手振りで自分の感情を表現するかと思えば手を引込め、心の葛藤が読み取れる程の挙動ぶりを見せる。
 怒鳴る希望者に対し、動揺しない物腰で桜は言葉を続ける。

「異議の申し立てはこちらに記載ある管轄裁判所での判断となります。時間の浪費よりも別の支所をオススメ致します……失礼致します」

「チッ! クソ、馬鹿にしやがって!」

 席を先に立った桜のすぐ後に男も立ち上がり、そのまま去るかと思うと振り返り、目の前にある各種パンフレットを拾い、握り締め支所を後にする。

「ふぅ……こっちの命も重いんだよ」

 ガラスの外から何度も桜を振り返りながら嫌悪を現わす希望者に室内で背を向ける桜は希望者から見えない口元でため息をつきながらつぶやく。
 その桜に近付いて来る足音。それは金属が固い床に接触するような音。
 明らかなその足音に桜は目線を向けようとはせず、話しかけられるのを待つ。

「あれぇ? 『水谷(みずたに)』チーフ! あのお客様はぁ駄目だったんですかぁ?」

「『刈谷(かりや)』……専任はいいのか?」

 水谷桜に話し掛ける刈谷。専任と言われる役職の者。
 特に役職のある男性は大抵体格がよく、見た目だけで威圧感があるが、その男は役職に見合わない細身の体に桜と同じ服装をまとっている。
 桜の目線の高さと同じくらいに目が合う身長であり、端正な顔立ちの髪型はモヒカン風に刈り上げ、長めのトップの髪はうなじに向かって綺麗に流していた。
 気怠そうな言葉の癖がある刈谷。桜に話し掛けるが聞き返される。

「はぃ、今の時間帯はぁ、お客様の一番安全な環境に在りますのでぇ、補佐に任せてます。今日はぁ、俺の調子狂う日みたいで、ちょっとプロテクトで汗をかいてきましたぁ。先ほどのお客様はぁ……支払い能力の問題ですかぁ?」

 支所に設置された各種プロテクトルームは、空手、柔道、合気道、剣道、射撃など、顧客を護るために職員を鍛える施設を支所に設けている。
 全てにおいて有段者の刈谷。
 射撃と合気道では刈谷の上をいく桜。
 靴のかかととつま先に埋め込まれた鉛の安全靴は刈谷の考える非常時における攻撃力を増すひとつの手段であった。
 刈谷の質問に桜は希望者情報を眺めながら息をついて話す。

「ふぅ……まあね。転職を繰り返したり、解雇されたり、自営での借金の金額と借入先が多い人は自殺希望者だったり支払不能による半年無償警護になることが比較的多いのよ。去年までのデータによればね……あとアルコール依存の可能性も見えるわね。私達はお客様を自分より優先して行動する! 護り甲斐のある仕事を部下には与えなければ……また二の舞よ」

「半年前のぉ……専任道連れの件ですね」

「そうよ! だから私はこだわるわ! きっと他の支所なら『WEEK END(ウィークエンド)』プランはイケるわ! うちじゃなくてもいい」

 桜は眉間にしわを寄せ、興奮を隠す様に言い切る。

「またぁ所長にどやされそうですねぇ! 希望者帰らせたな! ってぇ」

 刈谷は少し苦い顔をして通例の様に言葉を返す。
 今までも、希望者に説明はしてきた桜。そして、最後まで説明したのちに判断。
 希望者からの質問を待つまでに、全ての必要な内容を説明して一方的に結論を出す少し強引な審査は時折町田からの警告の対象になっていた。

「ふぅ……いつもの事よ。刈谷! 休んだならしっかりお客様護りに戻りなさいよ!」

「はい! 了解致しましたぁ! 刈谷は現場に戻るであります!」

 桜は振り返るとキレのある歩き方で事務室の方向に向かう。

「専任道連れねぇ……俺・は・生・き・て・ま・す・よぉ」
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ