シンクロニシティ
ツーブロックが似合うしっかりした顔立ちに、遊ばせた前髪は風に揺れても髪に触れる必要がない程度の短髪な男。桜より頭の等身ひとつ高い長身でXLのサイズに余裕がないほど体格が良く、桜と同じ素材の生地で出来た更に動きにゆとりあるツータックスラックス。ノータイで光沢あるグレーのスーツをまとい、軽い笑みを浮かべた顔で近づきながら言葉を掛ける。
「『町田(まちだ)』所長……私は業務を遂行するまでです!」
「ハッハッハ。まぁ間違ってないからいいんだけどね! まぁ……しかし、さっきの彼も、おかしな事言ってたな」
「はい」
町田は笑顔を沈め桜を真っ直ぐ見て尋ねる。
「今年の自殺防止は全支所で何件?」
「2683件です」
「じゃあ……自殺者の人数は?」
「『0』件です」
「おかしいと思わない?」
「それは! 私達が!」
「おっとと?! それは勿論君ら職員の迅速な対応の結果だよ! けれど……さっきの彼がバックしなかったら、墜ちるのは防げなかったはずだな」
町田は地面に残る硬化した土がえぐれたタイヤの跡を見ながら話す。その跡はくっきりと、そしてその場から急遽後ろに下がる必要を感じさせるように。
「何をおっしゃりたいんです?」
「自殺未遂者の調書……直前に何度も雷に撃たれた、それが晴れた日に。地割れが起きた、なぜかビルの屋上で。今度は崖で車が降ってきた? みんな普通に支障なく仕事して生活してる民間人だぞ?」
「私は体験主義者ですよ? そんな自殺志願者の心理などわかりません!」
「ああ、そして共通する事は……何・も・起・き・て・い・な・い事だ! 自殺者もな」
「結構な事じゃないですか! 130年前に比べて人口が七割も減ったこの世の中! 先人の過ちを教訓にして! 少ない人口でお互い護りあって!」
「オッケー! オッケー! その通りだな! じゃあ帰還して通常業務宜しく! 確か、三時か四時くらいに判断悩む契約希望者の約束あったからたまには接客してくれ!」
「はい……先に戻ります! 失礼致します!」
桜はヘリコプターに乗り込み上昇を始める。
町田は右手を目の上に挙げ、眩しそうに空を眺めている。
「空から車……ねぇ」