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シンクロニシティ

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「さっきの私は、きっと人間……私はRよ。加藤達哉の館が爆発した時から、私は何度も時間が戻り、目覚め、理解した。意識が目覚めてからシンギュラリティ世界に行ったから」



「なんなんですか? シンギュラリティ世界ってとこは……え、チーフ!!」



 銃声が響く収容所。横から腕を撃たれた桜。その衝撃に、白い天井を見上げながら、刈谷の目の前で倒れこむ。



「あああ!!」



 痛みにのけ反る桜を確認したのか、階層の角より見えてくる影。数人の足音。歩きながら聞こえてくる声は、刈谷もよく知っている者。プロテクトルームで刈谷と一番競り合える有段者でもあり、派閥的な職員をいつも連れて歩く、野心と野望が歩いている存在。そのような人数が守衛室を通って、入ってきた気配を感じなかった刈谷。

 目の前で起きる桜と田村との強い因縁を感じる。



「春日さん……俺もそこんとこ気になるんですよ?」



「田村!? お前……何してる!!」



 田村が腕を上げると、後ろに付いていた三人の職員が桜に駆け寄る。携帯している拳銃と手錠を取り出し、桜の動きを制限できるように囲む。



「くぅ……田村! 私を殺せ!」



「チーーーフ! 近いうちに会えましたね。そんな事したらまた逃がしちゃうだけでしょ~! さぁ! 俺の話をちゃんと聴いてもらえますか~? こ・こ・に導かれた理由も含めて! そして、シンギュラリティ世界~? なんですか~? その興味の絶えない世界は~! そこが俺達の求める世界なんでしょ~? ずるいなぁ~……拘束しろ!!」



---*---

 研修室で桜の自殺により拘束が出来なかった田村。すでに手加減も容赦もない行動。時間を戻せるという周知の事実は、桜からの情報を入手後、桜の命を絶つことで怪我も証拠もなくなるという計算。

---*---



 職員が桜を取り押さえ、自殺を計らないように、後ろ手に手錠と、口に猿ぐつわをする。無理やり立ち上がらせ、場所を変えて尋問をたくらむ雰囲気で、入口に向かい、田村が刈谷との会話を終わられるのを聞ける歩幅で足を進める。



「春日さん。あんたも拘束したいが……あんたはあなどれない。ちょっと厄介だ。しばらく留置されててよ! 用があるときに来るからさ?! ハハハハハ!!」



「チーフ!! てめえ田村ー! かかってこいよ!!」



「耳付いてんのかい? カ・リ・ヤ・さん! ハハハハハ! 壊れたあんたから聞いても役立たないでしょ! 撤収するぞ! ん? なんだ?」



 刈谷に向いている田村は、職員の反応のない違和感に振り返る。先ほどと違い、甘い葉巻の匂いは漂っていなかった。

 手の自由がない桜は、そこに現れた男の行動に、一人の職員へ向いた暴力の反動で倒れこみ、横になりながら行動を眺める。



「がぁ!」



「ぎゃ!!」



「おい! 職員! 誰だ~? あんた!」



 18:41 桜を連行しようとした三人のうち、一人は壁に背中をつけ、蹴られたのであろう鼻からは血を滲ませながら倒れこみ、もう一人は、掴まれた胸倉から引き寄せられ、頭突きを食らい意識を失う。もう一人の職員は、その顔を見ただけで、面識があるのか、立ちすくみ、何も出来ない状態にあった。



「鈴村管轄!!」



「か! 管轄!?」



 鈴村に倒される二人の職員を見て、刈谷は鈴村の名前を口にする。その名前を聴いた田村は冷や汗をかき立ちすくむ。



---*---

 モンストラス世界の絶対的立場である鈴村。田村はその鈴村が主催する不死現象会議に招かれず参加し、自分の見つけた現実を発表し、脚光を浴びようとも考えていた矢先に現れた中心人物であった。

 一旦はたじろいだ田村。しかし、強味があった。全ての痕跡を残さないデジャヴュ現象。目の前に倒れている別世界への答えを握る桜。その次元を超えた興味に比べれば、一人の存在は小さく感じた。

---*---



「か、管轄~? は! なんでこんなタイミングで……俺は騙されねえよ! 今日の全体業務は確認してる! 管轄は本部の不死現象会議の真っ只中だ!」



「あぁ……出席してるさ……俺が」



---*---

 低く、張りがないような声。それはまるで、会話の慣れが少ない者のようにも感じられる。それは先ほど刈谷が対面した時と同じ声質にも感じられず、突然の出来事に気分や憤りで調子が変わったのかと思うほどに。

 その鈴村の口元から、何か漏れるような色が流れる。それは薄黒く、こもった状態で、この場にいる目覚めたといわれる者にはその様子が目に移った。

 初めて感じる者には戸惑いが、何度か体験した者には違いが見えてくるものなのか。

 初めて感じた者は、色々な情報と混乱の中、ひとつの野心の道へ走り出した。

---*---



「は!? 馬鹿な……ん……俺は目がおかしいのか!? 色が……とりあえず、もう上下関係なんてどうでもいい! あんたも倒れときなあ!」



――共感覚



 田村にとって初めて見る共感覚的な色。刈谷にとってもまだ不可解な現象。ただ、現れる日に、平和な日はなかった。

 鈴村に襲い掛かる田村。鈴村に向かい、走りながら、躊躇なく田村は拳銃を握り発砲した。

 専任補佐が、容易に拳銃を所持できる世界。田村の倫理観とは別の解釈で拳銃の所持は自然な事だった。



---*---

 monstrous時代以降、銃刀法の規制が緩くなった世界。平穏を保ちながら、民衆は各々で職を探していた。奪い合う仕事。それぞれが希望する職業に就けるわけではなかった。仕事に就けた者が平穏でもなかった。いつ自分の仕事が奪われるか、自分を護るために武器の所持が許される世界は、自分を護るだけではなく、奪うための武器にもなった。その中で、護られる安心感がお金で得られるなら、自分の仕事に集中しながら護られるなら、そんな気持ちがLIFE YOUR SAFEの組織の需要になった。



 組織の最高責任者、鈴村和明に謀反する田村。死なない世界を利用してのことか、力量を計るためか。だが、発砲は威嚇ではなかった。急所を外した気持ちではいたが、当てる気で発砲した。そして、その弾道が外れるとは思わなかった。その動きは、まるで弾道がわかるかのような動き。鈴村はなにを見極めて避けるのか。焦る田村には狙いを定める余裕もなくなっていた。

 拳銃は狙って簡単に命中はしない代物。10mも離れれば、素人には命中も困難なもの。だが、桜に次いで射撃の名手でもあった田村。その自信が失われる獲物。発砲するほど混乱する田村。自信が削り取られる前に、拳銃は投げる武器へと変わった。

 その動きを見た刈谷。頭に浮かんだのは、刈谷が味わったスローモーション現象が起きたのではないかと思った。刈谷には今は感じられなかったその現象。ただ、その鈴村の動きに理由が見つからなかった。

---*---



 拳銃を投げながら自分の身で戦う田村。鈴村にとって、その投げた拳銃で隙を見せるほどでもなかった。繰り出す拳は空振る。そして田村は思う。勝てる気がしないと。赤い色は吐息。
作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ