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シンクロニシティ

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 まるで加藤からバトンを渡されたように、反応を見るように下村の返事を待った。

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「どうしてそう思うんですか? 確かに色んな死に方考えましたが、どれも何故か失敗する気がして」



「いゃぁ、なんとなくねぇ」――はぁ~……なんだょ、加藤の言うことに真実味が出て来たなぁ



「今回は崖からジャンプを試みたんですが、車が墜ちてくるリアルな幻覚が見え、駄目でした」



――幻覚? 「じゃあ、また自殺繰り返すのかぃ?」



---*---

 刈谷と違う光景を見てきた下村。刈谷の中で幻覚と考えられる事があるとすれば、自分の肉体が春日となり、別の自分がいた現象。人によって見て感じたものが違う発見。自殺を繰り返してきた者から聞ける類似現象。もし多発している自殺未遂者が、全て同じような所感を受けているのであれば、何か大きな力が働いているように感じた刈谷。

 刈谷から質問を続ける話の流れ。その話に食いつく下村は、期待に応えたい性格が強かった。人に話して信じてくれたり、会話が続いた事が半年間なかった。聞いてくれる人が現れて嬉しかった。そして、この流れを止めたくなかった。止めないために、話を具体的にしたいために、刈谷が望まない行動を始める。

---*---



 下村は布団のカバーを細く絞り、ベッドを静かに立て、パイプに布で輪をつくる。刈谷から見えない下村の行動。若干、声が遠くなったり、引きずる気配があったり、次に聞こえた言葉の終わりに、刈谷は立ち上がり声を大きくする。



「実はもうこの収容室で昼間に何度か試しました! そうすると、記憶の中では四回死んでます。でも戻っちゃうんですよね……例えばこんな風に」



「おい!! 何してる!? こっちから見えねえ!! 馬鹿な事すんなよ!?」



「すぐ……です……ぐ……ぅ」



「おい!! 守衛ー!!」



 刈谷は大声を上げる。そして声に気付いた守衛が駆け付ける足音がする。一瞬、下村の部屋に目をそらしただけだった。もう駆けつけたのかと正面を見ると、先ほど連行してきた職員三名が目の前に現れた。そして刈谷自身、収容室の外に立って、これから入室する瞬間だった。



「じゃあ室内の配給口から両手の手錠を廊下側にお願いします。外からはずしますね」



「は!?」



「春日さん! お願いします! ちゃんとご飯の件は言っておきますから」



 18:06 廊下のデジタル時計をちら見した刈谷は配給口より両手を出して、手錠は外される。



「では、失礼致します」



 刈谷は職員が見えなくなる事を確認して、時計を再確認した。そして理解したことを伝える。



「わかったょ……確かに死ねない。そして昼間に何度も時間が戻った気になったのは、あんたの仕業だったんだなぁ……仕事に集中できなくて運動してたよ」



「どうですか? わかっていただけました?」



 間近で実演されたデジャヴュ。疑いようのない現象。死に躊躇のない下村。言葉に気を付けなければならない猪突猛進な性格。好奇心をあおるのは危険だとも判断できた刈谷。下村は刈谷に見えない隣の部屋で、自分の見えている世界観を共感できた喜びで血色よく声にも張りがあった。



「デジャヴュなんて生易しい現象じゃないなぁ」



「はい! 俺は、何とかしてこの世界を抜け出します!」



「でもよぉ……その先は何が待ってるんだ? 変わんない世界ならこっちの方が都合いいんじゃなぃ?」



「都合が良すぎるんです! この世界は! まるで造られたような」



「造られた、か」



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 今まで生きてきた世界。刈谷にとって都合も環境も悪くなかった世界。せめて自分の存在さえ認識されるのであれば、それで良かった。ただ、それは刈谷だけの希望だった。渇望する、存在すらわからない別世界。死を実感できない者にとって、答えを探したかった。知らない世界を知りたかった。その欲求は、死をも乗り越えていた。

 それは刈谷にとって、異常な感覚に思えた。死を乗り越えるには、相応な理由が必要だと感じた。ただ世界を追いかけるだけでは、何かを超越したものになるような、逃げにも思えるような、どの世界があっても同じもどかしさの繰り返しになるものではないのかと。

---*---



 落ち着いて考えてみたい刈谷。興奮した下村は、何かまだ考えがあるかのように話し始めた。





「専任さんは名前が存在しなくなった! ほかの全ての事は何もなかったように、綺麗に痕跡を残さない! 人の頭の中まで! けれど本人に限ってはつじつまの合わない違和感に襲われる! こんな気持ちの悪い世界は自然と抜け出したくなります!」



「まぁ、気持ちは悪いけどなぁ……気持ち悪い程度で死んでたらキリないぞ?」



---*---

 一般論で収めたい刈谷。軽はずみな行動はさせたくなかった。深い理由がないのなら、一旦落ち着いて、もっと情報を集めたいと。この階には二人しかいない。軽度な症状と思われれば、地下一階に上げられ、もっと情報を集められると。

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 熱が上がらない刈谷に、下村は自分の理由を話し出した。



「俺が心中しようとした女性……妻は……俺の認識では娘です」



「そ……そうか」



「娘に夜の営みを求められる気分わかりますか? 俺の中ではまだ小さい、愛してやまない大事な存在……その娘の名前と成長した顔で! 俺の妻という存在となっている! そして、本来の妻の存在がない……子供もいない。悪い夢を見てるようです!」



 自分の小さな会社を倒産させた下村、借金に追われる理由をつくり、娘と認識する妻に、どんな世界でも愛しているという気持ちを何度も伝え、自殺願望を語り、心中の道を選択させた。 



「目を覚まさなければ!」



 後に引けなくなった下村。理由を聞いてしまった刈谷。目標の再認識をした者を、無下に止めることはできなかった。せめて心にたまったものを吐き出させたかった。下村の考えを聞いて、同調して、慎重さを吹き込みたい。

 刈谷は下村の考えを尋ねるしかなかった。



「理由はわかった……方法はあるのかぃ?」



「はい、今あなたの存在含めて考えた限り……二人で死を繰り返すんです!」



「死を繰り返す?」

 

---*---

 下村の話を聞き始めて後悔する刈谷。下村を止める事ができない空間。この階を仕切る守衛の距離はコの字に二度曲がる距離。奥から詰められた二人。問題が起きれば、即断で地下三階に連行される恐れ。地上が遠くなることは避けたい刈谷。

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 下村は、簡単には出来ない事を簡単に話し出す。



「はい! 俺が死ぬと少し前の世界に戻ります。そして今の状況になる前に専任さんが死にます。繰り返す事によって少しずつ過去に戻ります! 二人の方が早いです!」



「おいおぃ……そんなにタイミングよく死ねるか?」



「常に持っているもので死ななければなりません! 専任さんは拳銃を手に取るまで戻れば楽でしょう」



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作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ