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シンクロニシティ

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【はい……自殺しようとする気持ちわかるんですよ……何かが違うこの世界に】



「わかった! お前の言うことは間違ってないわ! だから、今は止めろ! 私がお前達の話をちゃんと聴く!」



【ありがとうございます……目覚めましたら……どこかで】



 何かを思い込んだ口調、桜の言葉も聞き入れない雰囲気。はっきりしない理由は、何かを悟ったような口ぶり。

 少しでも意識を変えたい町田は携帯電話に叫ぶように止めに入る。



「おい田村! 町田だ! 電話を切るなよ! 今すぐその場で腰を下ろすんだ! 補佐のお前が下がれば皆従うはずだ! 職員の命を護るんだ!」



【お世話になりました】



 田村から切られる電話。

 そして田村は鳥のように両手を広げ、職員も田村を真似る。まるで何か神々しい存在にでも向かうように。

 先に動きを見せたのは田村。続いて左右の職員が後戻りできない角度まで体を傾ける。建物と接点がある最後のつま先を蹴り、自分の信じる世界へと飛ぶ。



「ば!! ばかやろう!」



「いかがなされましたか。所長」



「ん、どうかしたか? 何か聞こうとしたのかな? じゃあ俺は本部へ暴走したトラックの報告にまわるから! お疲れ様?!」



「お疲れ様です! 後ほど報告書を提出致します」

 

 桜に問いかけられる町田。目線はどこを見ているわけでもなく、桜の問いかけにも、何について聞かれているのかわからない様子。二人の視界に入る支所建物は、一見だれの気配も感じず、時間の経過と共に時折、窓の奥に廊下や階段を職員が通過する気配が見れる程度であった。



 直前まで田村を相手にやりとりをしていた光景は痕跡も気配のかけらもなく、一日中晴天だったこの日の夕方は今日一日に起きた事件の数々が、確実にあった事となかった事の区別は誰にとってもはっきりしていた。『なかった事』の証拠は文字通り、何もなかった。何かあったと感じられる者がいるとするば、それは連行された刈谷のように虚偽な記憶と感じるものなのかもしれない。

 町田と桜は何もなかったその場で別れる。

 桜は夕日が支所の屋上に隠れる景色を見て深呼吸した。



「ふぅ」



 桜の地面に映る影が建物の影で消えたと同時に、桜は何かを考え、軽くうなずき、目線を支所の裏口に向けると、その方向に歩いていった。

 その歩みが、町田と直前まで話していた事とすれば、専任補佐の田村へ昇格を伝えることだった。田村に影響力を感じる取り巻きは、恒例のように職員研修室で田村を中心に熱弁を語っていた。

作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ