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シンクロニシティ

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<君たちの感想を聴きたいところだけど、言葉もないか。余裕があれば、頭で叫んでくれれば聞こえるよ。でもまぁ、元々は、俺がシンギュラリティ世界を作ったんだ。その世界から作られたモンストラス世界の住民も、最後にはここに来るんだよ。君たちの言うところの、天国だから>



 人類の墓場か、人類の天国か、EARTHによって創造されたデータ人類が共通して、死を迎えた最後に辿り着く世界。それが本当の地球。全ての生命の始まりの惑星。

 運命というものを左右する自分で決めて行動できる世界が終わると、運命というものが存在しなくなる世界。その地球に、人類が滅亡してから、初めて肉体を持って現れた田村と桜。



<そろそろ、春日としての俺の姿も終わるみたいだよ。そして春日くんは、この世界を照らす灯台として、ここにいるみんなを輝かせてもらおうかな>



 Sシンギュラリティの春日の姿をまとっていたEARTHの体の一片一片が剥がれ始める。その剥がれた部位は光を放ち、少しずつ、形を失っていく。同時にRの田村の体も剥がれ始める。そして、パフォームとして器を借りていた本体の姿が見えてくる。

 田村の顔は剥がれ、そこから見えてくる本体の目、口、鼻、それは風間咲の表情。



<さ、咲……>



「ゆう……じ」<やっと雄二に逢えた>



 咲が無意識に念じた言葉はEARTHに響く。頭で念じた言葉。それは紛れもない真実の気持ち。

 田村の体は完全に剥がれ落ち、田村はEARTHの世界のコンチュウとして姿を変える。



<苦しいよね、咲。すぐに苦しみは無くなるよ。咲はどんな姿になりたい?>



<お花……かな……薔薇よりも、カルミアの花が好きかも。ここって、緑ばかりだから、色が足りないわ。ここが、雄二が連れてきたかった場所なのね。素敵……よ。桜もいる。寂しく、ないわ>



 そして、苦しみの絶頂を迎える前に、EARTHは咲と桜の体から意識を取り出す。それはたんぽぽほどの大きさ程で弱い光を放つ意識。



<しばらくお花もいいかもね、咲。そして水谷桜。お前には、咲が寂しくならないように、ここで見守っていてもらうよ>



 咲と桜の体が消滅する。そして、咲はカルミアの花と変化する。そして今まで緑の草だった者の意識を変化させ、白、赤、ピンク、茶と、カルミアが惑星に咲き乱れた。

 カルミアの花を見守るように大きな桜の木が現れた。それは肉体が消滅した桜の意識。



<俺も綺麗なお花になったよ>



<雄二、とても綺麗ね。私はどう?>



<咲も綺麗だよ>



<ずっと綺麗でいらる永遠の世界ね>



<私は、恭介に逢いたい>



     ◆◆◆



 シンギュラリティ世界。地下施設。

 モンストラス世界から弥生とリンクした町田。その広大な施設に二人。モニターを眺めていた。



「もうモンストラス世界とは完全に切り離されたなあ! モニターに映らないや! でも、間に合って良かった! な、弥生ちゃん!」



「何が弥生ちゃんよ! 仁! あなたなんて不精者なカッコしてんの!? 髭剃りなさい! 髪切りなさい! 服が変!」



「しょ、しょうがないだろ、孤独な研究者なんだから!」



「いい!? これからはここで私と医療の研究も充実させて、衛生面もしっかりさせてもらいますからね!」



「はいはい、よろしくね、弥生!」



 シンギュラリティ世界。支所屋上。

 ドームを眺める鈴村の姿をした加藤は、風を感じられない屋上から世界の未来を呟く。



「人が飽和した世界。海で遊べない子供。ANYに判断される未来。まずは、ANYには眠ってもらおう。人間の世界は、人間で創る」



「あ! ここにいたんですか! 管轄!」



 振り向く加藤。それは本部から鈴村の安否を捜索していた本部のチーフ『広金ひろかね』。



「本部でチーフをしております広金です! 管轄が無事で良かったです!! 本部の職員総動員で探しておりました! あなたは我々にとって必要な存在です!! いなくなっては困るんです!」



――鈴村。いい人間を育てたな。「心配を掛けた! 本部へもどるぞ! そして、管轄室は封鎖する! これからは人間の力で! 人間を救うぞ!」



     ◆◆◆



 すでに数週間は経ったモンストラス世界。本部跡。



 世界の認識が変化したと訴える者、世界の終わりを唱える者。様々な想いで鈴村の前に集まるモンストラス世界の住人。小さな丘の真ん中に立つ鈴村を見上げる。暗闇の世界。そこに松明たいまつを上げながら叫ぶ魂の声。



「火を絶やすな! この世界は今から造られる! お前たちは、孫の世代から誇られる伝説の世代となるひとりだ! 世界の良識は! ここから造られる! お前たちは! そんを世界に伝える語りべ達となる! この惑星はもう、モンストラス世界ではない! 宇宙で唯一となる人類の星! 地球だ! ここにいる者で人々を守るぞ!」



 不安な者に力強く響く言葉。電気もない、ガスもない世界で、第二のLIFE YOUR SAFEの立ち上げが始まる。

 シンギュラリティ世界を守ってきた鈴村は、自分の作り上げたモンストラス世界の住民を平和へ導く。

 指導者へ向けた止まない歓声。その鈴村は歓声に背中を向けて丘を下だる。その鈴村の眼下に映る香山弥生の姿。拍手をしながら鈴村へ話しかける。



「管轄、素晴らしいですわ!」



「香山。シンギュラリティ世界での技術を知る俺たち二人で、人が生きられる世界を造るぞ。この世界に、機械は必要ない。そして、その必要以上の技術は、俺たちの中で封印する」



 笑顔で答える弥生。そして振り向けば焚き火で暖をとる人々。その輪の中でかがり火に笑顔が揺らめく表情が絶えない風間咲。咲の隣りで笑顔を浮かべる春日雄二。その笑顔の二人を見ながら鈴村は弥生へ話す。



「風間咲はもう大丈夫か?」



「町田さんが間に合って良かったわ。あの子の心に私は必要ないわ。一番会いたかった人と出会えたんだから」



 町田に伝えた最後の言葉、それは、Rの春日を再び作り出すこと。



「そうだな……あの二人はどうしているかな」



 山道を歩く二人。松葉杖をつく女。それを支える男。

 モンストラス世界で育った水谷桜。

 シンギュラリティ世界で育った刈谷恭介。

 二人は暗闇の中生い茂る山道の頂を目指して歩き続ける。



「桜、どうしてこの頂上に行きたいんだ?」



 モンストラス世界に存在していたほとんどは作られたもの。その中で、確実に残っていた山岳。それはデータではなく、確実に存在していた本当の自然。世界の神の可能性を感じた桜。自分がオリジナルであることにこだわった世界。全ては最初の地球から始まった第三世界での住人。それを全て理解した桜の根本。最初の場所が真実であるかどうかの確認。



「私の育った場所。この頂にある孤児院よ」


作品名:シンクロニシティ 作家名:ェゼ