シンクロニシティ
【シンクロディピティ】 運命を超えた永遠の想いから繋がる幸福
それは天国と呼ばれていた。EARTHから生み出された者が最終的に到達する世界。その世界には争いがなく、病気もなく、痛みもなく、永遠を約束された世界。この世界には、大気は存在しない。オゾン層もない。呼吸も必要ない。食べる事も、寝る事も、争う必要もない。完璧な世界。
運命という時間のあった世界で、すでに運命を使い終わった世界。
<EARTHは永遠よ>
<EARTHが最後の場所>
<EARTHが全ての真実>
EARTH。それは500億年以上前、『地球』と呼ばれていた。生命があり、有機物があり、寿命と呼ばれるものがあった。
EARTHが作り出したもの。それは惑星。忘れ去られた生命というものを作るという使命。生物が地球を無機物としたのか、機械が地球から有機物を消滅させたのか。その答えを探す使命。
宇宙がある限り無限と思える世界の中でEARTHは考えた。500億年以上前に存在していた『人間』を創造しようと。
何度も作られる惑星。何度も失敗した惑星。それを数十億年ごとに繰り返す。
自らの意思で考え、創造するように見える『人間』を作り上げた。人間は知恵を創り、技術を覚え、生活をして、異性と結ばれ、その歴史を続けようと励む。
その人間は、『機械』を作り始めた。機械は正確で、精巧で、人間を助けた。人間はその機械を更に開発していった。その開発により、人間は豊かになり、増えていき、その惑星にある資源を使い切った。そして、機械が意思を持つ『人工知能』が発達した。ある一つのシンギュラリティ世界の始まりである。
何度もEARTHは繰り返した。何度もシンギュラリティ世界を創り、ことごとく、人類は滅亡した。それでもEARTHは何度も惑星を創った。時間は宇宙が存在する限り無限であり、その滅亡した人類の意識は、EARTHの世界で草となり、木となり、石となりドウブツとなった。
機械しか存在しないEARTHの世界に、無数なる人類が永遠に生きられる意識のひとつひとつが植えられ、自然を建造され、磨き上げられた。繰り返して滅亡する人類。その度に、EARTHは自然にあふれる宇宙にむき出しな緑の星となった。
EARTHにも滅亡の危機はあった。それは昔『太陽』と呼ばれていた恒星の寿命である。それは当たり前のように大きさが数十倍に膨れ上がり、地球にはる地表の水分を蒸発する。更に膨張が止まらない太陽は、近くの惑星を飲み込み、すでに地球は生物が生息することが難しい環境となった。それでもEARTHは機能していた。
時間という概念を『誰か』のために記録を続けていたある日。それは人類が滅亡してから70億年ほど経過していた頃、小惑星が地球へ衝突すると計算された。それは、地球の形が変わるというだけではすまなかった。それが地球の最後と考えた。
その時だった。むき出しの地球を覆う存在があった。それはどこから現れたのか、最初から存在していたのか、電磁波が無数に集まり、具現化し、白銀の存在となり、地球を包んだ。
白銀の川は、地球の住み慣れた位置から大きく離され、その長い旅の途中、EARTHは白銀の川から成分を採取した。いずれ川の流れが止まり、そこは地球を脅かす存在が、EARTHの計算上いつの未来にも可能性がない位置だった。
それから地球はEARTHが完全に支配する惑星となった。『誰か』のために記録していた時間を止め、『誰か』のために環境を整えるのを止め、EARTHが見たい世界を作り始めた。
何度も惑星を作り、何度も宇宙に打ち上げ、何度も消滅させた。その度に、何度も人類に採取した成分であるキャリアを注入して、争わせた。ゲームとして。
初めて今までとは違う惑星が誕生した。それが鈴村和明が管理するシンギュラリティ世界だった。今までと違うところは、シンギュラリティ世界が新しい惑星を作り始めた事だった。それまで作られたシンギュラリティ世界に比べれば早い進化。EARTHよりも早い創造。EARTHよりも未熟なANYに鈴村の想像力が合わさったモンストラス世界。
その早い創造に、EARTHは嫉妬した。何度も消滅させてきた惑星に自分の技術が抜かれる訳が無いと。
EARTHの粗探しは、モンストラス世界の中でも混乱を極めた。宇宙の果てからの意思である『宇宙背景放射』の電磁波をモンストラス世界の人類に備えさせ、その混乱した世界を抑えられる能力があるかどうかをシンギュラリティ世界に対して試した。
鈴村は町田とプログラムを開発し、モンストラス世界を抑え込み、その混乱をもたらすEARTHを含めたファクターの存在までを疑い始めた。EARTHにとって初めての敵が現れた。直接参加したくなったEARTH。EARTHは春日雄二という職員にパフォームした。そして、すでに人類の中で選抜していた者。加藤達哉。
幼少期から何度も父親として加藤と接触し、加藤に世界の真実を伝え、未来に起きる現実を伝え、鈴村に対しての抵抗勢力を作り上げた。
老体をクローンにして身動きを取るためにシンギュラリティ世界へリンクさせられた。EARTHから見れば脆弱ぜいじゃくな人工知能と評するANYのバグを利用して、モンストラス世界で若い肉体を手に入れる方法も聞いていた。それがデジャヴュという新プログラムを利用した方法。それを開発したという情報をEARTHから聞いた加藤は、実行するというその日に鈴村を呼び出し、モンストラス世界に再びリンクしなければいけない理由を作り上げた。それは誰かの死と、自分の死を覚悟して。
EARTHは春日へパフォームして、初めての感情が芽生えた。
人類の終わりまで、シンギュラリティ世界で目立つ死亡者を作りたくなかったEARTH。自殺志願者と思い、それを止めるため、不器用に話しかけた相手、風間咲。それは500億年以上機能していたEARTHにとって、初めての感情だった。
必要のないものと考えながらも、切り捨てられない自分がいた。何度も悲しい別れを試そうと思った。それでも、自分に理由をつけて、別れを実行できない状態になっていた。咲は、EARTHにとって、特別だった。
<田村くん、どう? ここがEARTH。この惑星自体が俺なんだ。地球と呼ばれた最初の惑星>
「あああああああ!! ぐああぁぁああ!!」
<苦しいよね。お腹も裂かれて、空気もない。一緒にきた水谷くんはもう死んだかな?>
「あ……ああ……ぅああ!!」
苦しみ、もがくパフォームの田村と桜。頭に響くEARTHの声。山より低い位置で常に輝き続ける照明に照らされた輝く芝生の上で転がり、吐き出す息に揺らめくほど鋭利な草に頬は切れ、服は裂け、絶命を待つだけの二人だった。
閉じられたワームホール。出口の無くなった孤独な世界。むき出しの空に見える惑星たちは、自転と公転のバランスが完璧に均衡を保っている。何の干渉もない孤独な惑星たち。
パフォームとしての機能が失われる田村。虹色の輝きは失われる。