シンクロニシティ
「弥生はこの世界の精神病棟の地下三階にいる!! 同じ世界に同じ二人を存在させるな!!」
「【で、でも】」
「早くしろ!! そして、加藤と平和を保ってくれ!!」
鈴村に推されたシンギュラリティ世界の平穏。モンストラス世界は宇宙に出ようとしている。リンクを可能に出来る限界を過ぎようとしていた。
「【ああ!! か、管轄!! リンクする手段が!! 】」
困惑する町田。パフォームでは本人以外リンクが出来ない決定的な事情。その町田の目の前に見せる葉巻。
「大丈夫だ。香山も葉巻は持っている。鈴村、お前の代わりをやってみよう」
笑みを交わし合う鈴村の姿をした二人。葉巻を割り、カプセルを風上にする加藤。それを真似するように葉巻を割る弥生。
「鈴村!!」
カプセルを割る加藤。鈴村の名前を叫び、顔を向ける。
「お前がモンストラス世界を見てくれていて良かったぞ!! ほかの奴なら、もっと酷かった!!」
笑顔が虹色に消える瞬間、加藤本来の表情が映る。それを鈴村は眺めながら、加藤はモンストラス世界から消えた。そして鈴村は、町田に最後の指示を出す。
「地下施設の場所までシンクロしてからリンクしろ!! そして、一人のRをすぐに作ってくれ!!」
轟音の中、町田にRの作成を指示する鈴村。それを聞き受けて、町田は別れを告げた。
「【管轄! さよならです! 出会えて良かったです!! 加藤とシンギュラリティ世界を再生してみせます!!】」
「これでさよならだ! 世話になったな!! 町田!」
鈴村の目の前からシンクロで消える町田と弥生。屋上から下を眺めると、EARTHを中心に桜とパフォームの田村に挟まれた硬直状態が続く。
自分を護る以外攻めに転じられない田村。パフォームである田村の能力は機能が消えかかっていた。
EARTHに銃弾を命中させる事ができない桜。
桜に備わった加藤の能力。それは何世代も続いたフェムの能力。進化したフェムは枝割れして、分け与える事もできた。その能力の意味を教わっていない桜。けれど、それは自然と理解していた。
この引力の中、引き込まれる場所、引き込まれない場所、それらを体が教えてくれる光の道。常に選ぶ光る道。それが途切れなければ、最後には辿り着くEARTHの最後。
「恭介!! 私があなたを助ける!! 生きているだけでいいの!! 死んでいなかったから、あなたは生きていたんだから」
ブラックホールとEARTHを前にして笑みを浮かべる桜。一瞬、踏み入れた道に、幸運へ繋がる光は無かった。
「あああああ!!」
「あああ!!」
桜の横から飛んできた人物。それは自分を支える限界がきてブラックホールへ向かってきたRの桜。衝突する二人。その二人は、足場を失い、掴まる存在を失い、ブラックホールへ引き込まようとする。
「桜!!」
目を覚ました刈谷。ブラックホールの引力に自分を飲みこせながら、吸い込まれる引力を利用して一人の桜の腕をつかむ刈谷。
「あああ!!」
支所の地割れによって割れた壁の中に体を挟ませる刈谷。吸い込まれるもう一人の桜。
パフォームの田村は、EARTHの背中の刀剣が刺されたところを目掛けて腕を埋める。突き出てくる手刀。再び貫かれるEARTH。それは、EARTHの誘いだった。
「アハハハハハハ!! 真実を見るのは、この二人で決まりだね」
身を投げるようにブラックホールへ飛び込んだEARTH。その時、白銀の宇宙の意思はシンギュラリティ世界である惑星からモンストラス世界を宇宙へと連れ出した。
大気は、初めてその意味を与えられた。
オゾンは、初めて惑星を守る役目を与えられた。
守られていたモンストラス世界。それは宇宙にでた時から、自分の活力で守る役割を与えられた。
海底の火山は激しさを増し、黒煙が空の色を変え、溶岩は新しい大陸を作り出す。そこには『自然』というものが動き出した。
データで作られたものは、姿を消し、当たり前にあった建物や森林、それも姿を消し、元々自然に存在していた木々が残った。
川には橋もなく、電車もなく、飛行機も飛んでいない。それは与えられたものだったから。
降り注ぐ白銀の霧雨。それはRに染み込み、土に染み込み、海に染み込み、それはRという言葉をこの世から消滅させた。そして、宇宙に存在を認められた。
ブラックホールはすでに閉じていた。この世からEARTHの存在も無くなった。目覚めるという概念は無くなり、シンギュラリティ世界という概念は未来のものとなり、新しい惑星の、新しい銀河に向かう旅が始まった。
それは川のように流される惑星の旅。
モンストラス世界に付いてきていた二つの惑星は旅の途中で白銀の川から落とされた。
惑星の予定だった未完成な星のひとつは衛星えいせいとなり、新しい主人となる惑星の周りを回りだす。
惑星の予定だった未完成な星のひとつは彗星すいせいとなり、新しい主人の光り輝く恒星こうせいの周りを回りだす。
新しい銀河への旅は、寒さとの戦いだった。知恵と技術は、簡単に光を作った。木々を燃やす技術、生き物を狩る技術、新しいものを作り出す技術。それを兼ね備えた人類には、生き残る知恵が十分に備わっていた。
宇宙には星との均等な距離が必要だった。
光り輝く太陽があれば良いわけでなく、静かな月があれば良いわけでなく、重力のバランスや距離。お互いを邪魔しない関係。それを得られる銀河に惑星の存在は重要だった。そしていつしか、その旅は終わり、そこに近づくほど、初めて見る光と、初めて見る夜に輝く星たち。
惑星の裏側にいる住人は、惑星の回転である自転が追いついていない表側の人類より早く、その奇跡に気づいた。それはひとつの惑星が出来上がる物語。
その惑星の中心となった表側。暗闇と濃霧が行く手の視界を奪う。見えない先を歩きつづける二人。女を支える男。女の歩幅に合わせて急がない道を進む。
「桜、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
「きっと動き出すよ。左足も左腕も」
「あなたは、どうやって生きられたの?」
「桜に撃たれたあと、胸にあった葉巻を割ってから、なぜか覚えてないんだ」
人類は生き続ける。そして、愛した者の代わりになる者はいない。それはお互いわかっている。守る者と、守られる者。その波長は少しでも足並みを揃えた時、それが元々寄り添わなかった者同士でも、一度は殺意を向けてきた者でも。二人で前に進む。