シンクロニシティ
宇宙の果て、それは誰もが見ることもできない神秘。常に宇宙に漂う電磁波。宇宙の誕生から、影響を受けずに宇宙の中を漂う電磁波。それは宇宙の果てから常に放射され続ける。
いくつもの銀河の先、無数にある銀河を超えてもたどり着くことのできない宇宙の果て。
宇宙に出現する惑星は、全てが奇跡であり、全てが限りなく可能性ゼロという確率で星々は誕生する。その誕生の確率は、『宇宙にとって』残す価値がある存在は残されるという『完璧を創造する宇宙の意思』。その一部を保有する者を、EARTHはキャリアと呼んでいた。それは人の体ではなく、モンストラス世界が保有した。
シンギュラリティ世界に集まる意思であるキャリアの塊。それは無数の銀河から集められる。形と成し、そしてLIFE YOUR SAFEの本部、地下、惑星管理室へそれらは潜る。
輝く白銀の意思の塊。シンギュラリティ世界とモンストラス世界を切り離し、持ち上げ、未完成な惑星も二つ包み込み、宇宙に向かって引き寄せる。
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◆◆◆
同じ時間。モンストラス世界。世界の外壁。
引き寄せられながら、その惑星の壁はひとつひとつ剥ぎ取られ、見せかけの月は消え、見せかけの輝く星々も消え、モンストラス世界の住人が初めて目にする宇宙の星が顔をのぞかせる。
宇宙に伝えた情報。光の速さで何億年宇宙の果てを目指しても届かない宇宙の果てへのメッセージ。それはモンストラス世界に存在した分身からのメッセージ。護られた宇宙の意思の一部が伝え、同調する宇宙のシンクロニシティ。新しい惑星として『YES』という意思が宇宙中に広がった。
「俺は、お前たちに感謝する。再び、宇宙の意思と遭えた。やはり、存在したんだよ。宇宙には意思が……」
「【これは……なんだ!? モンストラス世界が、独立したのか!?】」
すでにEARTHを削除する目的を失っている町田。R人類から見れば、今まで信じていた空の景色は、全てシンギュラリティ世界から作られた壁のある空。剥がれていく外壁は白銀の宇宙の意思により引っ張られ、シンギュラリティ世界のANYからの命令は届かなくなった。中止される500億年の未来。宇宙の意思、それは、この世界は、『宇宙に必要』だと判断された。
「もう、俺は、満足だよ。自分の世界に戻る。でも、君たちは知りすぎた。この奇跡の意味を知る者は、俺以外、本当は居てはいけないんだよ」
空に目を奪われるモンストラス世界の住人。桜、鈴村、加藤、町田、そこにいる全ての者が空を眺める中、田村に向かって降下するEARTHは自分を中心に磁場を発生させる。それは磁力がぶつかり合うEARTH独自のリンクワームホール。危険を察知して飛ぶように離れる田村。常に10秒後の自分の未来を眺めながら自分が無事にいられる立ち位置を測る。
「【EARTH!!】」
そこにいる全ての者がEARTHへ振り返る。引き込む引力。見えないワームホールの先。拡大していく大きさに地面に伏せる者。木々に掴まる者。
「お前たち!! 続きはこの中だ!! お前たちがいる限り、この惑星にも未来はないぞ!! お前たちの知識や技術は! この惑星をダメにする!! そして、この先に、お前たちが知りたかった真実がある!!」
「くっ!! これ、は、もう……無理よ」
Rの桜のあきらめ。右腕と右足だけで体を支える限界。
台風が外から内側へと吸い込まれるような引力。ブラックホール。その先に待つEARTHの真実。それを知りたい者は、ここにはいなかった。
木々が引っ張られる。刈谷を支える桜に激突してくる樹木。それは再会できたばかりの温もりが遠ざかる。地面に爪を立てながらブラックホールへ引きずられる桜。
「恭介ぇ―!!」
耳に響いた大切な者の声。嵐のような現象でも樹木に叩きつけられても気づかない刈谷の耳に響いた桜の声。それはまぶたを開かせた。
桜の耳に聴こえてくるEARTHの声。それは、決別への運命を語る。
「お前が刈谷と!! 間違いのない運命を築いていたのなら!! いずれ会うことができるだろうね!! けれど、それがないなら!! お前たち二人には!! シンクロニシティは起こらない!!」
謎めいた言葉を桜へ投げるEARTH。それはEARTHにとって確実に存在する現象。桜にとって、二人以外に決められたくない運命。
「お前に……お前に運命を左右されてたまるか!!」
ブラックホールの横に立つEARTHに向かって地面を蹴り出す桜。拳銃を握り、EARTHに向かって発砲する。
「がああああぁぁあああ!!!!」
EARTHの背中に向かって地面を蹴り出す田村。
「ぐるらあぁぁああああ!!!!」
最初にブラックホールへ吸い込まれたのは、鈴村だった。
「くぅ!! あああ!!」
「【シンクロ! 管轄!!】」
ブラックホールから見えなくなりそうだった鈴村は、影と同化したパフォームの町田に支えられ、支所の屋上へシンクロする。その屋上では、真下に見えるブラックホールへ向かって体を落とそうとする鈴村の姿をした加藤がいた。
「加藤……」
「鈴村! 俺は世界をひとつにしたかった。シンギュラリティ世界でも、モンストラス世界でもない真実だけを!! だが! 全ては人間が考えるような代物ではないようだ! 俺は、奴の願いを叶えただけだ!!」
「加藤!! お前はまともな世界を作りたいか!!」
「まともな世界なんて存在しない!! 平和は!! ただのまやかしだ!!」
世界をひとつにしたかった加藤。それはまやかしの無い真実の世界。裏切られた世界で暴走したフェムによるモンスターの世界で育った加藤には、平和は遠い存在だった。
「シンギュラリティ世界にリンクしろ!! 今なら間に合う!! そして、お前がシンギュラリティ世界を!! お前の思う平和を作れ!!」
足が止まる加藤。その言葉の意味を一瞬理解が出来なかった。鈴村は続けて言葉を投げる。
「この惑星では!! 俺の平和を作り上げる!! それがこの惑星を作り上げた俺の責任だ!! 加藤!! お前はこの世界で見た良い部分を!! 自分で作り上げてみろ!! 行くんだ!! お前の世界を作った世界で!!」
「仁!! どうしてここにいるの!?」
屋上の地割れ現場に上がってきていたRの弥生。恋人の町田を失い、轟音の止まないこの世界の終わりを眺めようとも考えた矢先、目の前にはすでに生き埋めとなったはずだった町田の姿。町田は、モニター画面でも、パフォームを利用してでも、自分のRの恋人が弥生であることは知っていた。その様子を鈴村は察する。
「町田。お前もリンクするんだ。お前がパフォームを利用出来ているということは、シンギュラリティ世界とはまだ繋がっている証拠だ!! 目の前にいる弥生も連れていけ!!」
「【で、でも管轄!! 向こうには本体の弥生さんが……】」