「舞台裏の仲間たち」51~52
「こういうのを、日本庭園というかしら。
落ち着いた雰囲気は素敵だわ
ねえ、そんなにさっさと歩いていかないで、もう少し
何というか、情緒を持って、
美女をいたわりながら、綺麗なお庭をしゃなりと歩きましょうよ。
もう・・・・雰囲気も何もありゃしない! 」
後ろから追いついてきた貞園が長い両手を思い切り
腰に巻きつけて、耳元で甘えています。
内部は折りに触れて、何度か改装をされていました。
障子だったと思われる部分は、すべて洋館風のドアに取りかえられています。
それでも各部屋の和室とその洋館風のインテリアが、なんともうまくミックスしていて
高級感にさらに華を添えているのには、正直、驚嘆をしました。
普通の温泉旅館とはことなり、ほとんどが政府の要人や常連客などで
賑わっていたと言う昔にも納得がいきました。
「星の湯」という表示がみえてきました。
大正の末期から昭和初期にかけて、日本統治時代に北投温泉を代表した温泉です。
裕福な商人や日本からの湯治客、軍人、そして芸者達で、
日夜にわたってにぎわっていたといわれています。
現在でも風格ある玄関や、広々とした離れの間がその面影を色濃く残しています。
露天風呂の入浴料、800元を払うと、貞園は1時間後にあいましょうと
元気な足取りで奥へ消えて行きます。
石造りのゆったりとした湯船には、
乳白色のかなりぬるめお湯がたっぷりと満たされていました。
たしかにこの温度では、カラスの行水と言う訳にはいきません・・・・
水面に浮かぶ、ラジウムの白い結晶を手でかき混ぜながら、結局1時間あまりを
湯船で過ごしはめになりました。
ちなみに、この結晶が星のようにきらきらと輝くところから
「星の湯」という温泉の名前もつけられたそうです。
「ねぇ順平。
従軍慰安婦というのは知っている?
昨日、なんとなく口走っていたけど・・・・」
「一応、知識としては把握しているよ。
どうしたんだい、藪から棒に」
「台湾から従軍慰安婦として、日本軍に徴用されて、
東南アジアに連れて行かれた人たちがいるって
お風呂場で一緒になった、おばあちゃんからそんな話を聞いてきた。
生まれは台湾だけど、長く日本で暮らしてきて
なんでも、30数年ぶりに里帰りをしたんだって。
女性問題にも、とても詳しそうなくちぶりだったわ。
日本のどこかの大学で講師をしている人だって言ってた。
ねぇ、公娼制度と、
慰安婦の問題は、また別のはなしになるのかなぁ・・・・」
作品名:「舞台裏の仲間たち」51~52 作家名:落合順平