セレンディピティ
セレンディピティ
あなたは第六感が欲しいですか?
特殊能力の導く先は 幸運になるはずだった惨劇路
幸福への道を発見する最中
偶然な出来事を知識や経験から感覚により閃き
更なる幸福とする
偶然を察する力
偶察力
偶然の幸運「Luck」な現象ではない
きっと誰もが自分の幸福のために常に道の選択をする
その選択の幸運はただのLuckと思うか
それとも自分で導き出した自負(能力)か
そんな能力を特殊な形で突然持ち合わせた時
オカルトなミステリーが始まる
――戦争、和平、平穏。 誰かが志と信じて、誰かが勝手に怒って、誰かが妥協を見計らって、相手との共存を選ぶ。 それなら最初から共存を選べばいい。 言ってもわからない人が多すぎるから、我儘を突き通したいから、強行する。 少ない犠牲の上に、大勢の平和があると言いながら、お互いが脅威になる武器を奪い合う……そんな事を授業で言ってたかな。 けれど僕には関係ない。 いや、正直に言えばわからない。 特に秀でた能力もない。目立つ事もない。まず、関わる事がない。この物騒なニュースの裏にある、見えない事情なんて、知らなくていい。 普通の平凡な毎日を、誰かに見られてる訳でもないから。新しい朝。変わらない朝。寒い……雨、降ってたんだ……大学休みたい。
いつもと同じ時間に眺める朝のニュース。窓からかざす手には雨を感じない。 部屋の外からドアノブの冷たさに季節を感じ、濡れたサドルを手の甲で拭い、アパートから自転車をこぎ、大学に通う途中の山間。 時折目に映る白い息。それでも目覚めに風を感じられる、お気に入りの長い下り坂。 いつもと同じ速度で軽快にくだる「水谷遼ミズタニリョウ」。 昨夜の雨で路面はまだ濡れていた。
『いってぇ~』
右肩を軽く打ち、大事に至ってないか確認しながら起き上がる。 無意識に振り返ると見慣れない風景。
――あれ? こんな横道あったかな?
帰りは登りになることで、この坂を避けていた。 逆の方向から眺めたことはほとんどなかった。
――きっと気付かなかったんだな
頭をかきながら横道を眺めると、目立たない看板。木彫りでお店らしき屋号。
「偶明堂 ~未来に繋がる先人の書物~」。
――古本屋か? まだ大学の授業まで充分時間あるな……どうせ学食でサークル仲間と雑談する予定だったし。
身近なところで知らない店を見付けたことで湧く興味。 横道を進む。
周りは森林に囲まれた三階建ての大きな建物。遼の町に似つかわしくないまだ新しいその館は、本屋と言うよりもどこかの富豪邸。建物の前に手を後ろにくんで凜と立ち、少し笑みを浮かべた、館に似つかわしくも感じる「老人」が見える。
『あっ こんにちわぁ……ここは……あの……本屋? ですか?』
自分の言葉に自信なく尋ねる。期待する接客。答えの代わりに返る言葉。「転ばなければ」聞けない言葉。
『待ってましたよ』
待っていた。明らかに知っている、遼の存在。必然性を匂わせる、一方通行な面識。
『えっ……僕初めてですよ』
自然に戸惑う言葉に、用意された笑み。
『そうじゃな……でも君がくるじゃろうと思っておったよ』
自信ありげに言う老人。理由を聞かないと進まない会話。
『どういうことですか? 僕を知ってるんですか?』
可能性。小さな町。どんな時に、不確実な約束をしたか。
『初めて会話するが、君がうちを見付けると思っておった』
確証ない言葉。無数に浮かぶ、否定な言葉。
『そんなぁ……ハハ、僕は自転車で転んでここを見つけたんですよ? 僕も知らない出来事ですよ』
正直な言葉に、嘘を臭わす違和感なら、背を向ける理由。
『そうじゃな……君があの坂をほぼ毎日、自転車で気持ち良く下る姿はよくみとった。年寄りの戯れ事だと思って聞いてもらえればよい』
戯れ事。聞き流してもいい。聞かなければ、忘れる会話。理由がないのは、聞かない理由。
『いつもスピード出してそこのマンホールの上を必ず通ったじゃろ。そのうち転ぶと思っとった。今日はもしかして見れるかと。雨は偶然じゃが、今日転ぶのは わしの読みじゃな。転ばずにこの場所を見つける理由も中々見当たらんもんでなぁ。小さい子供のいる母親は自分の子供の行動先読みして、危険がないように考 えるじゃろ? ハッハッハッ』
難しい解釈。疑いたくなる神経。まだ返す言葉は浮かばない。
――なんだか僕が転ぶのを願ったようだな……。
願われた転倒。願われた出会い。
『わしは君を待っとった。わしにとっての幸運の始まりじゃ』
おかしな事を言う老人。けれどその真意も気になる。いつでも振り返って去る事も出来る間合い。遼は生唾を飲み込み、耳を傾ける。
『どうぞ』
館のすぐ前には丸いテーブル。読書を外で楽しめる為か、自然を愉しめる空間。テーブルにはお茶の用意。湯気の上がるポット。痛めて冷えた身体に、温かさは自然な欲求。
『あっ……じゃあ、いただきます』
軽く会釈し、不安が多少ありながらも、席に座った。老人は立ったまま話し出す。
『君は運命とは何だと思う?』
老人の長話か、繋ぐ言葉に深さはない。
『あ~運命の出会いとか偶然とかですか?』
老人は軟らかい笑み。レモンティーは口に合う。
『偶然は一つの閃きで自分のものに出来るけれど、普通は気付かず、結果的に運命と言う人は沢山いるんじゃ』
『はぁ……』
唐突な結論に言葉が出ない。普段の軽い会話なら、会話を避けられる深さ。
『運とは結果のかたより。そのかたよりを自分で掴んだ時、運命は自分に転がる』
『はぁ……』
零す相槌には、白さの増す吐息。考え方が複雑。疲れてくる解釈。永い人生の結論。永い人生をこれから見る者。軽く返したい。その場しのぎが調度いい。理解しているつもりで。
『つまり運命って自分でつくるっていう……精神論ですか?』
『偶然で思いがけず幸運が訪れると人は「LUCKY」と言う。君にはこれから「LUCK」ではなく「セレンディピティ」が始まるであろう』
真面目過ぎる講釈。聞き慣れない言葉。決め付ける言葉は、自然な拒否反応。
『あの……何かの宗教とかの勧誘ですか? そういうのはちょっと』
テーブルに寄る老人。歪む表情は、叱られる覚悟。次の瞬間は、体調の気遣い。軽くよろける体。間に合わない心配な言葉。先に言われた意味深。
『もぅ……君に譲った』
立ち去りたい。会話が合わない。素っ気なさは、願う無関心。
『あの、もぅ意味がわからないんで……もぅいいですか?』
尋ねたい。角も立たない立ち去る許可を。理解出来ない。その意味も。
『わしはもう「能力」のないただのじじいじゃわぃ! ハッハッハ……一階は古本屋として利用していたがの、ほとんど客もこんからもぅ閉めようと考えとったわぃ』
老人はゆっくり振り返る。老人の深い息は、罪悪感を感じる。来ては行けなかったのか。話し相手に相応しくなかったのか。館に向かった老人の背中。再会の予感はしなかった。腑に落ちない気分。引きずりながらも公道へ。遼の背中から、静かに聴こえる声。
『ありがとう』
ごちそうになったレモンティー。軽い会釈が精一杯。明日から気になるのは、看板の無くなる日。
あなたは第六感が欲しいですか?
特殊能力の導く先は 幸運になるはずだった惨劇路
幸福への道を発見する最中
偶然な出来事を知識や経験から感覚により閃き
更なる幸福とする
偶然を察する力
偶察力
偶然の幸運「Luck」な現象ではない
きっと誰もが自分の幸福のために常に道の選択をする
その選択の幸運はただのLuckと思うか
それとも自分で導き出した自負(能力)か
そんな能力を特殊な形で突然持ち合わせた時
オカルトなミステリーが始まる
――戦争、和平、平穏。 誰かが志と信じて、誰かが勝手に怒って、誰かが妥協を見計らって、相手との共存を選ぶ。 それなら最初から共存を選べばいい。 言ってもわからない人が多すぎるから、我儘を突き通したいから、強行する。 少ない犠牲の上に、大勢の平和があると言いながら、お互いが脅威になる武器を奪い合う……そんな事を授業で言ってたかな。 けれど僕には関係ない。 いや、正直に言えばわからない。 特に秀でた能力もない。目立つ事もない。まず、関わる事がない。この物騒なニュースの裏にある、見えない事情なんて、知らなくていい。 普通の平凡な毎日を、誰かに見られてる訳でもないから。新しい朝。変わらない朝。寒い……雨、降ってたんだ……大学休みたい。
いつもと同じ時間に眺める朝のニュース。窓からかざす手には雨を感じない。 部屋の外からドアノブの冷たさに季節を感じ、濡れたサドルを手の甲で拭い、アパートから自転車をこぎ、大学に通う途中の山間。 時折目に映る白い息。それでも目覚めに風を感じられる、お気に入りの長い下り坂。 いつもと同じ速度で軽快にくだる「水谷遼ミズタニリョウ」。 昨夜の雨で路面はまだ濡れていた。
『いってぇ~』
右肩を軽く打ち、大事に至ってないか確認しながら起き上がる。 無意識に振り返ると見慣れない風景。
――あれ? こんな横道あったかな?
帰りは登りになることで、この坂を避けていた。 逆の方向から眺めたことはほとんどなかった。
――きっと気付かなかったんだな
頭をかきながら横道を眺めると、目立たない看板。木彫りでお店らしき屋号。
「偶明堂 ~未来に繋がる先人の書物~」。
――古本屋か? まだ大学の授業まで充分時間あるな……どうせ学食でサークル仲間と雑談する予定だったし。
身近なところで知らない店を見付けたことで湧く興味。 横道を進む。
周りは森林に囲まれた三階建ての大きな建物。遼の町に似つかわしくないまだ新しいその館は、本屋と言うよりもどこかの富豪邸。建物の前に手を後ろにくんで凜と立ち、少し笑みを浮かべた、館に似つかわしくも感じる「老人」が見える。
『あっ こんにちわぁ……ここは……あの……本屋? ですか?』
自分の言葉に自信なく尋ねる。期待する接客。答えの代わりに返る言葉。「転ばなければ」聞けない言葉。
『待ってましたよ』
待っていた。明らかに知っている、遼の存在。必然性を匂わせる、一方通行な面識。
『えっ……僕初めてですよ』
自然に戸惑う言葉に、用意された笑み。
『そうじゃな……でも君がくるじゃろうと思っておったよ』
自信ありげに言う老人。理由を聞かないと進まない会話。
『どういうことですか? 僕を知ってるんですか?』
可能性。小さな町。どんな時に、不確実な約束をしたか。
『初めて会話するが、君がうちを見付けると思っておった』
確証ない言葉。無数に浮かぶ、否定な言葉。
『そんなぁ……ハハ、僕は自転車で転んでここを見つけたんですよ? 僕も知らない出来事ですよ』
正直な言葉に、嘘を臭わす違和感なら、背を向ける理由。
『そうじゃな……君があの坂をほぼ毎日、自転車で気持ち良く下る姿はよくみとった。年寄りの戯れ事だと思って聞いてもらえればよい』
戯れ事。聞き流してもいい。聞かなければ、忘れる会話。理由がないのは、聞かない理由。
『いつもスピード出してそこのマンホールの上を必ず通ったじゃろ。そのうち転ぶと思っとった。今日はもしかして見れるかと。雨は偶然じゃが、今日転ぶのは わしの読みじゃな。転ばずにこの場所を見つける理由も中々見当たらんもんでなぁ。小さい子供のいる母親は自分の子供の行動先読みして、危険がないように考 えるじゃろ? ハッハッハッ』
難しい解釈。疑いたくなる神経。まだ返す言葉は浮かばない。
――なんだか僕が転ぶのを願ったようだな……。
願われた転倒。願われた出会い。
『わしは君を待っとった。わしにとっての幸運の始まりじゃ』
おかしな事を言う老人。けれどその真意も気になる。いつでも振り返って去る事も出来る間合い。遼は生唾を飲み込み、耳を傾ける。
『どうぞ』
館のすぐ前には丸いテーブル。読書を外で楽しめる為か、自然を愉しめる空間。テーブルにはお茶の用意。湯気の上がるポット。痛めて冷えた身体に、温かさは自然な欲求。
『あっ……じゃあ、いただきます』
軽く会釈し、不安が多少ありながらも、席に座った。老人は立ったまま話し出す。
『君は運命とは何だと思う?』
老人の長話か、繋ぐ言葉に深さはない。
『あ~運命の出会いとか偶然とかですか?』
老人は軟らかい笑み。レモンティーは口に合う。
『偶然は一つの閃きで自分のものに出来るけれど、普通は気付かず、結果的に運命と言う人は沢山いるんじゃ』
『はぁ……』
唐突な結論に言葉が出ない。普段の軽い会話なら、会話を避けられる深さ。
『運とは結果のかたより。そのかたよりを自分で掴んだ時、運命は自分に転がる』
『はぁ……』
零す相槌には、白さの増す吐息。考え方が複雑。疲れてくる解釈。永い人生の結論。永い人生をこれから見る者。軽く返したい。その場しのぎが調度いい。理解しているつもりで。
『つまり運命って自分でつくるっていう……精神論ですか?』
『偶然で思いがけず幸運が訪れると人は「LUCKY」と言う。君にはこれから「LUCK」ではなく「セレンディピティ」が始まるであろう』
真面目過ぎる講釈。聞き慣れない言葉。決め付ける言葉は、自然な拒否反応。
『あの……何かの宗教とかの勧誘ですか? そういうのはちょっと』
テーブルに寄る老人。歪む表情は、叱られる覚悟。次の瞬間は、体調の気遣い。軽くよろける体。間に合わない心配な言葉。先に言われた意味深。
『もぅ……君に譲った』
立ち去りたい。会話が合わない。素っ気なさは、願う無関心。
『あの、もぅ意味がわからないんで……もぅいいですか?』
尋ねたい。角も立たない立ち去る許可を。理解出来ない。その意味も。
『わしはもう「能力」のないただのじじいじゃわぃ! ハッハッハ……一階は古本屋として利用していたがの、ほとんど客もこんからもぅ閉めようと考えとったわぃ』
老人はゆっくり振り返る。老人の深い息は、罪悪感を感じる。来ては行けなかったのか。話し相手に相応しくなかったのか。館に向かった老人の背中。再会の予感はしなかった。腑に落ちない気分。引きずりながらも公道へ。遼の背中から、静かに聴こえる声。
『ありがとう』
ごちそうになったレモンティー。軽い会釈が精一杯。明日から気になるのは、看板の無くなる日。