「舞台裏の仲間たち」 49~50
北投温泉は、台湾における三大温泉の一つです。
1979年に公娼制度が廃止されたために、すでに当時の置屋などは
完全に姿を消してしまいました。
しかし多くの街並みの中にはいまだに、
当時の日本家屋とその面影などがとても色濃く残っていました。
日本軍の占領時代から始まり、台湾を代表する一大歓楽街として
おおいに栄えてきた長い歴史が此処には眠っています。
またここには、公娼制度による100年ちかい歴史も刻まれています。
台北の中心からでも、電車で30分。
道路を走っても小1時間ほどいけるところなので、
貞園の運転するスクーターの後ろに乗って、半分ピクニック気分で
出かけることになりました。
貞園は今日も、薄いTシャツに同系色のホットパンツと言ういでたちです。
肩に手を置いて、両側の景色に見とれているうちに刺激的な
光景を発見しました。
大型のトラックの脇で、貞園よりもはるかに挑発的で、
ほとんど水着に近い衣装だけをまとって運転席をのぞきこんでいる女の子たちを見つけました。
すぐ近くに建っているガラスの温室のような建物内にも、ほとんど裸に近い
わずかな衣装だけの女の子たちが座っていました。
貞園が少し通り過ぎてから、道端にスクーターを止めてくれました。
「若い女の子を見ると反応が早いわね、順平は。
あれは、台湾名物のびんろう売りの少女たちよ。
セクシーでしょう。
ああやって大勢のお客たちの目を引くの。
見た目の保養になるでしょう」
「びんろう?
なんだい、それ 」
「煙草の代用品というところかな。
台湾をはじめ、東南アジアの特産品でここでは『びんらん』と呼ぶの。
覚醒作用があるので、ああしてトラックの運転手なんかには
とても人気があるみたい。
びんろう売りは、台湾女性の独特の職業なの。
露出度の高いセクシーな女性が、道端でびんろうを売るの。
抜群のスタイルと、大胆な服装がびんろう売りの
トレードマークなのよ。
高収入になるから、最近ではびんろう売りは人気がある。
最近は売り子も急増しているし、
台湾の道路の風物詩にもなっているわ」
「なるほどね。
それにしても、みんな大胆な衣装だ。
まるで今朝の貞園みたいだ・・・・」
「ば~か。
彼女たちはみんな、びんろう売りプロなのよ。
たしかにお色気で客寄せをする方法は、台湾社会でも
批判の対象にはなってるわ。
でも、国際的なモデルさんたちやスターたちをはじめ、
イベント会場のコンパニオンたちなどは、
どんなに過激なスタイルをしても、それにはみんな文句などは言わないわ。
びんろうで高い利益をあげるためには、
競争が激しくなりすぎて、それが悪循環にもなってるの。
お客の目を引こうとして、
わざと露出度をあげている経営者たちもいるけれど、
大半は、一家の生計を支えるために、
学校を中退したり女子学生たちが働いている。
彼女たちもまた、学歴や年齢が原因で
まともな企業での勤め先が見つからない人たちよ。
びんろう売りのあの子たちも、
ある意味、台湾社会の貧しさの象徴かな・・・・
どう思う、順平は。」
「うん、たしかにナイスバディだなぁ・・・・
貞園よりも、はるかに刺激的な光景だ。
買ってこようかな、びんろう 」
「馬鹿言わないの。
あんたみたいなスケベな男が多いから、
びんろう売りが、のさばるの。
一般的には、8~9粒が50ニュー香港ドルなのに、
彼女たちが売るのは、1粒が100ニュー台湾ドルもなるのよ。
高収入の裏側には、
特別サービスとして裸を露出したり、
お客に体を触らせたり、
なかには性行為まで提供する人たちまでいる始末なの。
びんろうを買うのは、びんろうを咬むだけじゃない、という
台湾男性たち、特有の言いまわし方もある。
やだぁ、、順平ったら、
目つきが悪くなってきたわよ、
この、どスケベ~」
作品名:「舞台裏の仲間たち」 49~50 作家名:落合順平