「舞台裏の仲間たち」 49~50
「ねえ、答えてよ。
あなたもやっぱり、女を道具や物として扱う?」
「ストレートな質問だね。
日本人は、そういう事がらを面と向かって質問されてしまうと、
答えに困ってしまうナイ―ブな民族だ。
気恥ずかしいと言うか、答えにくい質問でもある。
少なくとも私は、女性の人格をちゃんと認めているつもりだし、
大切にすべきだと思ってる」
「うん、順平なら、そうなるか。
だからこそ、昨夜も何も起らなかったんだ。
本物のエコノミック・アニマルなら、さっきの農協さん達みたいに、
『値段はいくらだ!』って言いながら、札束をちらつかせて、
私のことを、血眼になって口説くもの。
よかった、あなたが紳士で」
「今日は解らないぜ。
昨日は呑みすぎて正体不明で寝てしまったが、
今日はそれほど酔ってない。
試してみるかい?」
「あら、
今日は本気で口説いてくれると言う意味なの。
それなら私も本気で考えてみる。
ねぇ、それよりもさぁ、
台北の公娼制度に興味はないの?
すぐ近くに有る歓楽街の北投温泉には、
公娼の置屋が、とても古くから存在をしたの。
公娼制度の歴史が、いまでも色濃く残っている町なのよ。
79年に廃止されてしまったけど
公娼制度の100年近い歴史を、
目の当たりに、見ることのできる貴重な資料が眠っているの。
是非一度、行ってみたいと思っているんだけど、
私ひとりでは心細いんだ」
「いいよ、
明日の午前中は、金型工場の見学が有るけど、
午後からなら空いてるよ。
100年も続いた公娼制度か・・・・
明日が楽しみだ」
「あら、今夜の楽しみは?」
「まだ、口説くとは言ってないぜ」
「でも泊りには行くわよ、今夜も。
かまわないでしよ、別にそれでも・・・・」
「ああ、一向にかまわないよ。
でもさぁ、人間行動学を専攻している学生の君が
売春婦の巣窟で仕事しているのは、どう考えても不自然だ。
君には他の女性たちのように、
いかにも売春婦ですと言う雰囲気が見当たらないもの。
そのあたリにも、何か訳が有りそうだね
よかったら、その理由を教えてくれないか。
実は・・・・
本気で売春なんか
するつもりはないんだろう、君は」
踏み込んだ質問をした瞬間に、貞園がチロリと長い舌を出しました。
悪戯を見つけられた時の子供のように、目を大きく見開いた後、
あっさりと白状をします。
「ああ、ついにばれたか・・・・ごめんね。
実は只の学生で、
売春婦のふりをしているだけなの。
それも潜入してきて、あなたが最初のお客様。
現場での取材のつもりで、潜り込んだのはいいけれど、
もう、毎日毎日ドキドキのしっぱなし。
ほんとに迫ってこられたら、どうやって逃げ出そうかと
そればっかりを考えてるの。
でも、どうしてわかったの?
私はまだ、何も言っていないわよ・・・・」
「簡単さ。
君からは、亀田社長に寄り添っている
あのパートナーのような『娼婦』特有の匂いがしないもの、
違和感なら、最初から感じていたさ。
ということは、
自分の研究のために、あえて歓楽街に身を置いて、
公娼制度の実態をレポート中というところかな。
そうすると君は、将来においては
台湾における女性問題の研究家にでもなるわけだ。
ということは、君の研究において、
私は、男の見本として研究対象の一人目にされたということになる。
危ないところだった・・・・と、言うべきかな?」
「ごめんなさい。
そんなつもりではなかったけど、
でも、今私がやっていることは、
おおむね今あなたが指摘をした通りだわ。
あらぁ・・・・
でも、もしかしたら、
順平が台湾に来た目的のひとつを、
私が邪魔をしてしまったかもしれないわねぇ。
いいわよ、責任なら取ってあげる。
よろこんで」
貞園が悪戯っぽく笑いながら
タイトスカートからのぞく長い脚を、ゆっくりと組み換えました。
その姿を真近に見せられては、こちらもただ苦笑する他はありません。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 49~50 作家名:落合順平