「舞台裏の仲間たち」 49~50
機嫌の悪い貞園に引きずられて、
そんな屋台の間をあちらこちらと、ずいぶん歩き回りました。
もうこの辺でいいだろうということで目の前の鉄板焼きの店に決めて
カウンター席に座りこみました。
座るとほどなくして、ライスとスープが出てきました。
台湾の言葉はわからないために、オーダーの全ては貞園に任せました。
オーダー票を手にした貞園は、凄い勢いでなにやら書きこんでから、
目の前に置いてあった私のビールを、一気にあおって飲み干してしまいました。
黙ったまま二杯目のビールを注いでやると、
やっと貞園がこちらに目線を向けてくれました。
運ばれてきた食材を鉄板に広げると、器用に箸を使って焼き始めます。
鉄板からの放射熱があるために、昼間見たときよりも、
貞園の頬には、しっかりとした紅がさしています。
焼けたばかりの魚介をつまみあげた貞園が、
口を開けろと、目を細めて大きくゼスチャーをしています。
この屋台には取り皿の用意がありません。
小さく口を開けた瞬間に、エビを無理やり突っ込まれてしまいました。
「日本人が、みんな悪いわけではないけれど、
いくら売春婦とはいえ、人格も有るし誇りもある。
あなたは亀田社長たちとは別の人種だとは思うけど・・・・
それでもやっぱり、エコノミック・アニマルの日本人の一人だわ。
ねぇ、あなたもやっぱり
女を人間ではなく『物』として扱うの?」
「働き過ぎると言う意味ならば、
私も、そういう部類の日本人の一人かな。
でもさっき、君が使っていたエコノミック・アニマルという言葉は
働き過ぎと言う意味とは、まったく別の意味に聞こえたよ。
どんな意味で君が言ったのか、興味が有るな。
良かったら教えてよ」
「目的のためには、手段を選ばない卑劣な人種たち、という意味。
そう言う意味で、人らしい理性が欠けた人たちのことを
私は、アニマルと呼ぶの。
自分の女を、商取引の営利のために差し出すなんて
私には、到底理解ができない世界だわ。
日本人というのはもっと教養があって、『いさぎ』も良くて
義理や情にも厚いと思っていたのに、
情婦を、物のように扱う日本人なんて、最低だ。
軽蔑にもあたいする」
「なるほどね。
それでさっきから、貞園が腹を立てたわけだ 」
はい、と貞園がまた魚介を目の前に突き出します。
今度は大きく口を開けて、しっかりと受け止めることにしました。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 49~50 作家名:落合順平