小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

とある王国の物語1

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 


「―――いままで無事、健康に育ってこれたことを、父、母、恩師、そして女王陛下に感謝し、これからは社会に貢献できるように生きていきたいと思います。
 平世24年3月7日 卒業生代表、高瀬綾                    」
答辞を畳み、演台の右端に置く。そこには既にいくつもの原稿が置いてあった。
降壇し、自分の席に着く。深い深呼吸をするとやっと緊張が取れた。
「以上をもちまして、第18回王立中央学院の卒業式を終わります」
アナウンスが掛かり、卒業生退場、の合図でぞろぞろと卒業生が行動から退出していく。
高瀬(たかせ)綾(りょう)も、その列の流れに従って歩いていた。


平世24年。かつて存在した平成という時代から1000年あまり。
古くは47に分かれていた都道府県は、北海道、東北県、関東県、近畿県、西国県、九州県の6つに合併され、東京・千代田区にあった各省庁はすべて解散し、県ごとに独自の法律が制定され、日本国には完全なる地方自治が成り立っていた。
そんな中、つい200年ほど前に東北県に属するある地域が独立を宣言、神崎家を王家とする一つの王国が出来ていた。旧新潟県長岡市中之島、と呼ばれていた地域である。国際的にも承認されたその国の正式名称は「中之島王国」と言った。
 国の南部は主に国を運営するための施設、それに王家一家が住む城が建っていた。完全なるゴシック建築で、いくつもの尖塔をもつ美しい城だ。城下町は綺麗に整備されていて、純洋風の家々が建ち並んでいる。
 北部は主に農村地帯が広がっている。田畑が広がり、秋には一面が黄金色に輝く。食料自給率100%を誇る中之島王国では最も重要な地域で、多額の税金を掛け整備が整えられていた。
 西部、東部は住宅街となっている。一般に、東部には新興住宅街が広がり、西部は昔からある民家が密集していた。

その中、南部の城下町に建つ王立中央学院は、国中の子供たちが6歳になると入学することになっている全寮制の学校だ。従来の「日本国」の学校制度とは違い、初等教育(小学校での課程)を4年、中等教育を2年、高等教育を2年、そして専門課程(大学での課程)を4年で終了し、18歳での卒業となる。無論、途中での脱落者も多く、毎年卒業できるのは入学者の40%に満たない。だからか、卒業式はかなり派手だ。

3月に卒業した栄誉ある生徒たちは、そのまま4月から城への勤務が始まる。それも、単なる下っ端ではなく立派な上官としてだ。生徒たちは王立学校で中・高等教育を受ける際、その後城で勤務する時にどこの部署に配属するかを見極めるために、数回にわたって適性検査を受けさせられる。その時の評価を基準に、情報部隊、直属軍隊、側近、使用人、財政部、調理部など様々な部門の中から配属される部署を決定されるのだ。
綾もその中の一人で、今回卒業式で答辞を読む羽目になったのは、運悪く卒業試験を一番の成績で合格してしまったからだ。人前に出ることが苦手、という訳ではないものの、何かとそう言った大役を面倒臭く思う綾的には、あまり進んでやりたいものではなかった。
そして、やりたくない理由はこれだけでは無い。教室に入った瞬間に待ち受ける野次がうるさ―――――

「りょーおっ!!!」
「ぶっ・・・・」

背後からのいきなりの衝撃。それに伴う重力の増加。がくん、と視界がぶれ、眼鏡がずり落ちそうになる。
うるさい。この声の主は、間違いなく、
「圭輔・・・・・」
後ろから飛びついて来たのは栗橋圭輔(くりはしけいすけ)だ。友人と言えば友人だし、違うといえば違う少々小柄な男で、利口、ときどきウザい、という性格をしている。学年一の秀才にとうとう成り損ねた彼だが数学に関しては無敵で、最後の試験でもとうとうその科目だけ勝てなかった相手である。今日も前髪が寝ぐせでによってセットされている。
「すごかったなぁ、あの答辞!よくもあんなにすらすらと言えるよな~!俺無理!」
「重い」
「いいじゃ・・・ぐはっ」
すると、圭輔の奇妙な呻き声と共に、ふと背中が軽くなった。
「よかったよ、答辞。・・・すんごい緊張してたのバレバレだったけどね」
不意打ちの言葉に、つい背筋が伸びた。・・・大方予想は付いているのだが。
「・・・嫌味なヤツ」
「ふふっ」
言葉の細かい棘にめげそうになりながらも振り向くと、やはり後ろに立っていたのは幼馴染の小牧(こまき)庵(いおり)だった。
容姿はとりあえず自分よりも遥かに良くて、普通にイケメンと言っても過言ではない。瞳は色素の薄い茶色で、同じ色の髪は割と長めのくせっ毛だ。ただ、身長だけは綾とさほど変わらない(要は、そこまで高くない、ということだ)。最近、数ミリ抜かれてしまった。
先程自分の背中から圭輔を引き剥がしてくれたのもきっと彼だろう。が、相変わらず容赦という言葉を知らないようで、床には圭輔の干物が横たわっていた。
「・・・・」
思わず絶句して床の干物を見つめる。
「あぁ、重かったでしょ。剥がしてちょっといろいろして置いといた」
「・・・ありがとう。・・・いろいろの内容はあえて聞かないでおくことにする」
見た目に反して、恐ろしい事を事も無げに言ってのける親友は、普段無口なせいもあってクラスの中でも微妙な扱いをされていた。・・・本人がそれに気が付いているかどうかは神のみぞ知る、のだが。
むくり、と圭輔が起き上がり庵に文句を言うが、それさえも庵の独特な笑顔で圧殺された。さすがに可哀そうなのでフォローという名の救援を入れることにした。
「庵、やめてやれよ」
「別に?何もしてないよ」
「してるしてるしてるでしょ!めっちゃしてっ・・・・ギャ――――ッ!」
「してない」
・・・という庵は圭輔がうるさくなったようで、現在彼の背筋を、限界を超えたイナバウアー状態に反らしている。こうなると、自分が身代わりになるしか圭輔を助ける方法が無いのだが、そこまでして助ける価値があるか、と言われれば微妙だ。という事で、放置して話を進める。
「うん、緊張してたのは確かだ」
「あと、眠そうだった。・・・また、あの夢のせい?」
「・・・分かんない」
あのよくわからない夢が、フラッシュバックする。思わず顔をしかめると、庵がこちらを覗き込んでいた。ふより、とした茶髪の毛先が揺れている。
「すごいダメージ」
「まぁ、な」
いつも騒がしい場面から始まるあの夢は、必ず同じ場所で目が覚める。「殺してしまえ」という叫びと共に、吊るされるあの黒い物体。そして、それを攻撃する民衆。到底現代の様子とは思えない野蛮すぎるこの状況を、夢に見るのは何故なのか。
 あまり人には話していないこの事だが、庵にだけは話してある。確かに、うなされた後の精神的なダメージはかなり大きい。それを地味に、酷く分かりづらくでも慰めてくれる友がいるのはありがたいことだ。
いきなり、背後のドアが開く。
「おーし、最後のHR始めるぞー」
最後までむさくるしかったこの教師とももうお別れだ。今日くらいは、とおとなしく席に着いた。

作品名:とある王国の物語1 作家名:黒官