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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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 途端、ティリーの周囲に重力場が発生した。中にいた魔物達は地面に叩きつけられ、平たく押し潰される。範囲外にいた魔物も足を止められず、重力場に飛び込んで同じ末路をたどった。
「まだいますわね」
 その言葉通り過重力の洗礼を逃れた魔物が数匹、ティリーの前に残っている。それに向かって、今度はいくつもの火球を放った。火球は魔物を捕え、真っ黒に焼き尽くす。
「これでよろしくて?」
 容赦なく魔物を始末したティリーは、相変わらず笑みを浮かべてそう言ったのだった。



「ところで、リゼは誰に魔術を習ったんですの?」
 野営の準備をした後、ティリーはもはや恒例となった質問タイムに入った。今まで何度も無視されたり拒否されたりしているというのに、ある意味感服する粘り強さである。リゼはまたかといった顔をしたが、とりあえず質問に答えることにしたようだった。
「祖父よ」
「お祖父様は魔術師だったんですの? では悪魔祓いの術も、お祖父様に?」
「ティリー、悪魔祓いの術のことなら、私に聞くだけ無駄よ」
「あら、どうしてですの?」
「私にも分からないから」
 リゼはあっさりとそう言い放った。
「簡単に言うと、『やってみたらできちゃった』のよ。魔術みたいに理論を知って使っているんじゃない。何でこんなことが出来るのかも分からない。だから、私に聞くだけ無駄」
 リゼのは冷たく言ったが、それで諦めるティリーではない。彼女はリゼに詰め寄ると、いつものごとく両手を握りしめ、
「じゃあ、わたくしが貴女の力の謎を解明して差し上げますわ。貴女も自分の正体が分かった方がよろしいでしょう?」
「・・・・・どうかしらね。知らない方が幸せなこともあるかもしれないわよ」
 そう言うと、リゼは立ち上がった。
「ちょっとそのあたりを歩いて来る」
「あ、ちょっとお待ちになって!」
 ティリーは止めようとするが、リゼは完全に無視である。よっぽど追及を逃れたいのか、足早に木立の向こうに消えていった。
「また逃げられてしまいましたわ・・・・でもわたくしは諦めませんわよ」
「もう少し仲良くなってから聞いた方がいいんじゃないか?」
「待つなんて無理ですわ。研究対象を目の前にして何も聞かないなんて、わたくしのポリシーに反します」
 ポリシーだったのか。拳を握って力説するティリーの姿を見つつ、アルベルトはこれは何かしら突っ込みを入れるべきなのかと、割とどうでもいいことを考えてしまったのだった。
 それからしばらくの間、辺りは非常に静かになった。基本的にティリーが一番よくしゃべるので、彼女がしゃべらないと静かになるのである。その状態がしばしの間続いた後、アルベルトはふと思い立って口を開いた。
「ところでティリー」
「はい?」
「魔術というのは一体どうやって使うものなんだ?」
 アルベルトとしてもずっと聞こうと思っていたのだが、なかなかタイミングがつかめずにいた質問だった。なにしろティリーは大抵リゼと(一方的に)話し込んでいたからである。しかし、唐突な質問にティリーは若干面食らったらしく、一瞬間をおいてから答えた。
「簡単ですわよ。大自然の力を借りるだけですわ」
「それだけか?」
「悪魔祓い師は天使の力を借りて術を使うのでしょう? それと同じですわ」
 ティリーは笑みを浮かべて、しかしそれ以上の追究を許さぬかのように断言する。まあ、魔術の奥義を部外者、それも悪魔祓い師に話す気はないだろう。悪魔祓い師とて、他者に術のことを教えるのは禁じられている。
「魔術のことを知りたいなら、まず貴方が手の内を明かすべきだと思いますけど? そうですわね。どうせ悪魔祓い師の術のことを聞いても話すことは禁止されている、とか言うのでしょうから、貴方の」
 ティリーはアルベルトを指さし、
「その“眼”のこと、教えていただきたいですわね」
「・・・・と言われても、俺もよく分かっていないんだが」
 実際、新学校に通っていたころ、位の高い悪魔祓い師に何度も呼び出されて調べられたりしたのだが、先天的なものということ以外何一つ分からなかったのだ。一時は悪魔に起因する力ではないかと疑われたこともあったが、そうである証拠もないので結局うやむやになったのだが。
「貴方達、そんなのばかりですわね。自分の力の正体が分からないって。ほんと、これはもう・・・・」
 少しばかり沈んだ声で言うので、さすがのティリーも聞き込み作業の難航ぶりが嫌になってきたのか。そう思ってアルベルトはなにか慰めの言葉を掛けようとしたが、
「これはもう、がぜん燃えてきましたわ!」
「テ、ティリー?」
「やはり何事も障害がある方が盛り上がりますものね! これは何としてでも突き止めて見せますわ!」
 一人情熱の炎を燃やすティリー。さすがのアルベルトもティリーの盛り上がりように少々呆れたのだった。



 目に見えないものを視通す眼。
 他の人々には見えないものを、アルベルトは物心ついた時からあって当たり前のものとして視てきた。そして当たり前であったからこそ、自分は人とは違うことに、しばらく気付かなかったのだ。
 家がとても貧しかったため、両親はよく赤ん坊のアルベルトを置いて働きに出かけていた。そういう時はたいてい隣家の老婦人が世話をしてくれていたのだが、アルベルトが三歳の時に老婦人が亡くなってからは、一人で留守番するようになった。しかし寂しいと感じたことは一度もなかった。家にいるときはいつも決まって誰かが傍にいたからだ。
 誰か、というのは色々だった。どこか母に似た中年の女性とか、老人とか、若い男性とか小さな男の子とか。妙な格好をした人もいれば、犬や猫がいたこともあった。彼らは幼いアルベルトの面倒を見、遊び相手になり、決まって両親が帰って来る前にいなくなるのだった。
 しかし、アルベルトが成長するにつれ、その人達は一人ずつ姿を見せなくなっていった。別れを告げてからいなくなる人もいれば、ある日を境にぱったり姿を見せなくなった人もいた。なぜ彼らはいなくなってしまうのか理解できなくて、両親に尋ねてみたりしたのだが、両親は「そんな人達知らない」という。しかしそう言われて納得できるはずもない。一番最初に会って、一番長く一緒にいた八歳くらいの男の子までもがいなくなったある日、アルベルトは両親に訴えかけた。両親はやはり知らないといったが、あきらめずに話をし続けた。最初は相手にされなかったが、男の子の容姿を詳しく説明すると、両親の顔色が変わった。
 両親が言うには、その男の子は八歳で亡くなったアルベルトの兄だというのである。亡くなったのはアルベルトが生まれる前だから、会える訳がなければ、会ったことなどあるはずもない。しかし、アルベルトが七歳になるまで、その男の子はずっと傍にいたのだ。数年間、全く変わらぬ容姿で。
 そこでアルベルトはようやく彼らが生きた人間ではないことを知った。アルベルト以外誰も姿を見たことがなく、いつもどこからともなく現れて、どこかへと去っていく。お前は幽霊を視ていたのかもしれない。アルベルトの話を聞いた後、父はそう言った。あれは生きた人ではない幻なのだから、視えない方がいいんだよ、とも。