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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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 アルヴィアの7つの神聖都市は大街道によって結ばれている。大都市を繋ぎ、首都へ続く街道だけあって、大街道の人通りは非常に多い。人が多いということは情報収集に最適だということ。街道を行きかう人々、特にスミルナから戻る人にそれとなくスミルナの話を聞いてみる。
「へえ。メリエ・リドスに行かれるんですか」
「ええ。親戚が住んでいるのでスミルナに行くついでに顔を見せておこうかと。そうしないと、後で何かと面倒ですから」
「ああ、分かります。親戚付き合いって大変ですよね。うちも何かにつけて口出しされて・・・向こうは親切心でやっているんでしょうけど、こちらとしては迷惑です」
「かといって、断ることもできませんし」
「そうですよね」
 そう言って、聖地巡礼を終え、故郷へ帰る途中だという女性は笑った。敬虔な信者なのだろう。旅の途中にもかかわらず、首から下げた聖印は汚れもなくきれいに磨かれている。
「ところで、スミルナはどうでした?」
「素晴らしいところでしたよ。教会は荘厳で美しくて、礼拝すると心まで清められるようです」
「やはり巡礼の方は多かったですか?」
「ええ。それといつもより警備が厳しかったように思います。街に入るのに少し時間がかかりましたから」
「まあ、そうなんですの?」
「ペルガモンから来たならご存知だと思いますけど、この前、教会からおふれが出たんですよ。魔女が現れたって」
「ええ。聞いていますわ。ではそのせいかしら」
「きっとそうでしょうね。仕方のないことです。魔女なんて邪悪で危険な輩はすぐにでも捕まえてもらわないと」
 巡礼者の女性は憂い顔でそう話す。どうやら、あの手配書はスミルナまで届いているようだ。リゼとアルベルトを連れてこなくて正解だった。
「でも親戚に会うためとはいえ、メリエ・リドスに行かなくてはならないなんて災難ですね」
「ええ、まあ。でも旅には慣れたので、大したことは・・・」
「でもメリエ・リドスでしょう? 異教徒が大勢いるところじゃありませんか。治安も良くないという話ですし、私なら行きたくないですね」
 女性は当然という顔でそう述べる。そして励ますつもりなのか、こんなことも言った。
「でもスミルナ教会なら、異教徒の街でついた穢れも浄化してくれると思いますよ」
「ええ、そうですね。それは有り難いですわ」
 にこやかな笑みを浮かべてそういうと、巡礼者の女性もにっこりと笑った。
「では私はこれで。お気をつけて」
「ええ、貴女も」
 巡礼者の女性はすたすたと街道を北へ歩いていく。ティリー・ローゼンはそれとは逆、街道の南の方へ歩き出しながら、今まで浮かべていた営業スマイルを一瞬で消した。
「はあ、これだから生粋のマラーク教徒は嫌なんですわ。毎日ご飯が食べられるのは一体どうしてなのか分かっているのかしら」



 マリークレージュを出て南下すること二週間。目指すはアルヴィア唯一にして最大の貿易港メリエ・リドスである。
 アルヴィア帝国とミガー王国は別々の大陸にあり、二つの国は海によって隔てられている。国家間の往来は船によるしかなく、しかも海は著しく気候が不安定でいつも荒れているので、安全な航海ルートというのは非常に少ない。メリエ・リドスから船に乗る以外にミガーに行く方法は存在しないのだ。
 故にメリエ・リドスは、アルヴィアにやってくるミガー人の商人や、商品の買い付けをするアルヴィア人の商人。その他貿易に携わる様々な人間が集まる場所である。そして、ミガーからメリエ・リドスへ持ち込まれるのは商品だけではない。人、思想、そして魔術。アルヴィアの法に、何より神の教えに反したものが流布しないよう、街を出入りする人・物は徹底的に調べられ、管理されている。そこでどんな言い掛かりをつけられようと、法外な関税を吹っ掛けられようと、ミガーの商人達は黙って従うしかない。
 表向きは。
「メリエ・リドスは商人達の街。アルヴィアもミガーも干渉出来るのは表層だけ。だからこそ一度中に入ってしまえば、教会の権勢も及ばない、というわけですわ」
「なるほどね。でもそれは中に入れればの話でしょう」
「そう! それが問題なんですのよ。なにせ街の出入り、つまり出入国管理はとっても厳しいですからね。ま、だからこそ裏道が作られたんですけど」
 悪魔研究家、魔術師、マラーク教以外の宗教。アルヴィア・・・・というより教会にとって都合の悪いものはたくさんあって、その全てを規制しているのだろうけど、厳しくなれば厳しくなるほど抜け道が作られていく。そういうものだ。
「ところでその裏道というのはどんなものなんだ?」
 そう質問したのはアルベルトだ。ティリーから裏道があることは聞かされていたが、それがどんなものかはいまだに教えてもらっていない。しかし、ティリーはと言えば、話す気はないようだった。
「ひ・み・つ、ですわ。どうせこれから行くんですから、嫌でも分かりますわよ」



 街の外を歩いていると魔物に襲われることが少なくない。街や村というのは大体があまり魔物に現れない場所にあるものだし、街道は教会が定期的に魔除けをしているので、そこを外れない限り魔物に襲われることはまずない。
 魔物というのは死した生物に悪魔が憑依し、他の生物を襲うようになったものを指す。元が死骸なので大体が半分腐乱した状態であるし、悪魔憑依の影響で巨大化したり奇妙な形態になったりすることが多い。元の生物が何であったのかすら分からない状態になることもある。魔物は新鮮な血肉を求めて、生き物であれば見境なく襲って来るので、特に街道以外の場所を旅するうえで魔物から身を守ることは非常に大切なのだった。
 ちなみに、悪魔を倒すことは悪魔祓い師にしかできないが、魔物を倒すことは悪魔祓い師でなくても可能である。魔物を倒すというのは、要するに悪魔が憑依した身体を活動できないように破壊するということなのだ。動かせられないと分かれば悪魔は身体を離れ、魔物はただの死骸に戻る。故に魔物を倒すことは悪魔祓い師でなくとも可能なのだ。最も、簡単なことではないが。
「はあっ!」
 繰り出した剣が魔物の首を捕え、斬り飛ばす。そのまま剣を翻し、左から襲ってきた一匹の喉を貫く。背後から襲いかかってきた二匹を身をかがめてかわし、その背に向けて剣を一閃させた。
「お見事ですわ」
 そう言って、ティリーは小さく拍手をする。観戦でもしているような気軽さだが、実際彼女はただ見物しているだけだった。魔物の一団に遭遇してからというもの、いち早く戦線を離れてぼーっと突っ立っているだけなのである。その様子を見て、別の魔物と戦っていたリゼは不機嫌そうに言った。
「あのね。あなたも戦いなさいよ」
「と言われましても、わたくし刃物の扱いには慣れていませんし、魔物を本で殴るのはちょっと・・・」
「魔術を使えばいいでしょう」
「あら、誰も見てないと思っても、実は誰かが見ているものですわよ。そうやって悪事は露見して・・・」
「ティリー?」
「分かりました。やりますわよ」
 さすがに観念したのか、ティリーは一歩前に出た。それを待っていたかのように魔物達がさっそく襲い掛かる。ティリーはその場で立ち止まり、両手を横に広げると、数語、何かを呟いた。