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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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 引き出しの一つを開けて、ティリーは不思議そうに言った。鍵穴が付いているのに鍵がかかっていなかったらしい。これ幸いとティリーは中の書類をあさり始める。
「それよりも本人を探して締め上げた方が速いんじゃないの」
「リゼ。それはさすがに・・・」
 その時、部屋の隅から誰何の声がした。
「何してるんですか? リゼさんにティリーさん」
 暗闇から現れたのはゴールトンの秘書官の一人・レーナだった。どこからやってきたのか、全く気付かなかった。
「というか速いお帰りですね。もっと時間がかかると思ってました」
 以前、牢屋の爆発騒ぎの報告をした時と同じ緊張感のない口調だ。何をしているのかと聞いたときも、世間話でもするような言い方だった。知っている相手とはいえ、夜中執務室に侵入した人間にこうも親しげでいいのだろうか。そんなことはどうでもいいが。
「ゴールトンはどこ?」
「市長なら出かけてますよ?」
「出かけた? こんな時間にどこへ?」
「さあ。分かりません。ところでティリーさん。それ、戻していただけます? 勝手に持ち出されたら困ります」
 レーナの視線はティリーが引出しから取り出した書類の束に向いている。それを見たリゼはティリーの手から書類の束をひったくると、
「緊急時よ。見せいてもらうわ」
「だめです! 勝手に見られたら困りますってば! 他に漏洩しちゃいけない重要な機密が乗ってるんですから!」
「ゴールトンが麻薬密売してる証拠とか?」
 レーナの表情が変わった。あっけにとられたようなポカンとした表情に。
「そんなこと、誰が言ったんです?」
「こいつですわ」
 ティリーはそう言って簀巻きになった商人を指す。少しぐったりしているのはここまで半ば引きずっていたからだ。その商人の頭を気付け代わりに蹴っ飛ばし、胸ぐらをつかんで締め上げる。
「もう一度聞きますけど、市長が裏で麻薬の密売の手引きをしてるんですのね?」
「そ、そうだ。少なくとも私はそう聞いた」
「誰に」
「フードをかぶってたから顔は分からない。ただ男の声だった」
 おどおどしながら語る商人をレーナは胡散臭そうに見つめている。やがてやれやれと言わんばかりに首を振ると、呆れたように、
「なるほど。そういうことですか。信憑性のない発言ですね。名乗るだけなら市長の名代なんて誰でも出来ますよ。全く、市長が麻薬密売に関わってるなんてそんなことあるわけないでしょう。治安が悪くなって困るのは市長ですよ? 大体市長が黒幕ならアルベルトさんに密売人探しをさせるわけないじゃないですか」
「そりゃあわたくしもそう思ってるんですけど、市長に言われてアジトに乗り込んだら変な魔物に襲われるし」
「だから市長じゃありませんってば。麻薬の密売をしてるのは――」



 静かな倉庫の中で、アルベルトは一人思案していた。
 リゼとティリーは真偽を確かめるため、役場へ戻っていった。一方、アルベルトは証拠品である麻薬の木箱を見張るため、ここに一人残っている。麻薬密売の真犯人が誰であろうと、証拠隠滅のためにこの倉庫にやってこないとは限らないからだ。一人で考え事をしたいということもあったが。
(ロドニー審査官が密売に関わってるなら、速くアンジェラに教えないと・・・)
 審査官を捕えるとなれば――まだ密売に関わっていると確定したわけではないが――アンジェラの協力は不可欠だ。確たる証拠を掴むことができれば、たとえ高位の審査官であっても言い逃れは出来ないはずだ。問題は少なくとも明日、いや今日の昼頃になるまでアンジェラに会えないことだが。彼女の居場所が分からない以上スミルナに行くわけにはいかないから、出向いてきてくれるのを待つしかない。
 アルベルトは懐から覚書を取り出し、ぱらぱらとめくった。実際に東の倉庫街に密売人のアジトはあった。しかしここは本拠地ではなく、本来の用途通り倉庫としてしか使っていないだろう。妙な魔物がいたとはいえ警備が薄すぎるし、ここには麻薬しかない。どこかに本拠地があるはずだ。ここではない、どこかに・・・
(そういえばこれは・・・)
 隣の部屋でゴロツキ達が伸びているはずだが、まだ目を覚ましていないのかそこからは物音一つ聞こえない。
 アルベルトは錆びた鉄骨がむき出しの天井を見上げた。普通なら暗くてよく見えないだろうが、あいにくアルベルトの眼は普通とは違う。目を凝らして鉄骨の向こうを見つめていると、闇の中に動く影を見つけた。あれは・・・
 その時、真後ろの窓のガラスがけたたましい音を立てて割れた。振り返ると月光を背に黒ずくめの男が飛び込んでくるところだった。その手にはギラリと光る刃がある。襲って来る短剣を躱し、アルベルトは剣を抜いた。間髪入れず男が投げたナイフを弾き返し、後ろに下がって距離を取る。続いて投擲されたナイフも全て叩き落とし、あるいは避けた。
 すると男は剣を構えて突進してきた。鋭い切っ先を剣の腹で受けると、倉庫の中に高い金属音が鳴り響く。
「一体お前は何者、だ!」
 少し力を込めて剣を振り、男の短剣を弾き返す。そのままの勢いで剣を振り抜いて、背後から襲ってきた一本の矢を斬り落とした。続く矢も全て斬り捨て、床に落ちているナイフを蹴りあげる。左手に収まったそれを、天井――矢の飛んでくる方向へ投げつけた。
 呻き声。倒れる音。しかしその正体を確認する間もなく、男が再び向かって来る。繰り出される斬撃が服をかすめる。そのスピードは恐ろしく速い。だが、
 振り下ろされた短剣を受け止め、滑らせて受け流した。そのまま剣を翻し、男の手から短剣を吹き飛ばす。武器を失った男が投擲ナイフを取り出そうとしたところへ、袈裟懸けに斬りつける。利き腕を斬り裂かれ、ひるんだ男の鳩尾にさらに剣の柄を沈めた。そいつは肺の中の空気を吐き出して苦しげな呻き声を上げる。
「お前は何者だ? なぜ俺を襲ったんだ?」
 しかし、男は答える気はないらしい。黙ったままじっとしていたかと思うと、ふいに腕を動かした。
男の袖から転がり出たのは握り拳ほどの球体だった。
 轟音と閃光が迸り、衝撃が倉庫全体に響き渡る。さらに炎が噴き上げて麻薬が詰まった木箱を飲み込み、さらに部屋全体へと回っていく。
 爆弾が炸裂する直前に窓から脱出したアルベルトは、路地に立って燃える倉庫を見上げた。
 なんだ、あいつは。爆弾を使って捨て身の攻撃をしてくるなんて。
「いやあ派手なことしてくれるな。あいつは」
 その時、背後で聞き知った声がした。振り返ると、そこには何人もの人間が武装して集まっていた。よく見ると、商人風のひげ面の男と他にも何人かが縛り上げられている。どうやら連行している途中らしい。
「無事みたいだな。アルベルト」
 武装した自警団を率いていたのは、ゴールトンその人だった。