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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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「私が怒ってないとでも思ってる? 機会があればいくらでも殴り込みに行くわ。でもそれより前にやらなければならないことがあるから」
 リゼはそこで言葉を切り、一呼吸おいてから続けた。
「私は悪魔祓いを続ける。そのために一度ミガーに行く。そしてそうね。手配書騒ぎが落ち着いたらまた戻るわ。いつになるかはわからないけど」
 リゼはそこで一歩後ろに下がると、再びアルベルトに問いかけた。
「で、あなたはどうしたいの? あなたにもとんでもない“誤解”がかかってるんだから、それを解きたいなら残ればいい」
 そうだ。アルベルト自身にも“誤解”がかけられている。アルベルトもそのことについて怒っている・・・というより残念でならないのだが、それ以上にリゼにかけられている“誤解”の方がよほど問題だった。
 彼女の能力があれば、それを教会が認めれば、多くの人を救うことが可能なのに。それをしないばかりか、彼女を処刑するだなんて。
「俺は・・・」
 アルベルトが口を開いた時だった。
「あのですわね。そういう込み入った話は後にしてくれます? お忘れのようですけど今は夜中でここは密売人のアジトの近くですわよ?」
 そう言いつつ、ティリーが二人の間に割って入った。ティリーの言葉にはっとなったアルベルトは目を閉じて息を吐くと、
「・・・変なことを言い出して悪かった。先に密売人の方を片付けよう」
 そう言うと、ティリーはため息をついてから、倉庫街の奥の方へ歩いていく。アルベルトもティリーの後に続いた。リゼはそれを黙ったまま見てから、アルベルトを追い越してティリーの横に並んだ。
(結局、答えを先延ばしにしただけだな)
 俺は。その先に何を言おうと思ったのか。
 情けないことに自分でも正直どうしたいのか分からないのだ。



(私は何であんなにむきになっていたんだか)
 先ほどのアルベルトとも会話を思い出してリゼは内心ため息をついた。アルベルトがミガーに行くか行かないかなんてどうでもいいのに。
(というよりあれか。煮え切らないのは好きじゃない)
 うだうだ悩んでないではっきりさせればいいのだ。身の安全が大事ならミガーへ行けばいいし、誤解を解きたいなら行かなければいい。何を迷う必要があるというのか。
(それにしても、あいつ自分のよりも私の方の“誤解”を解きたいみたいね)
『魔女の逃亡及び悪魔祓い師長殺害及び市民大量殺戮の幇助』。手配書には確かそんなことが書かれていたのに、アルベルトが言及したのはリゼのことだった。アルベルトだって人のことなんて気にしている場合ではないだろうに。
 そんなことを考えながら密売人のアジトを探していた時だった。
「アルベルトさん!」
 突如、脇道から青年が一人現れた。髪の毛はぼさぼさだし擦り切れた服を着ているところを見ると、あまり経済状況は良くなさそうな人物である。その青年に名前を呼ばれたアルベルトは、彼の方を見ると、
「ジェフ、まだここにいたのか。・・・それと、悪いが静かにしてくれないか?」
「あ、すみません! つい・・・」
「誰?」
「ジェフだ。この辺りに住んでるらしい。一昨日の晩、ここに来た時に会って、情報を提供してもらったんだ」
 速い話が東の倉庫街を宿代わりに使っているという浮浪者だという。アルベルトが密売人の逃げたルートを調べておこうと思ってここに来た時に会ったとのことだ。
「いや〜夜中に一人でこんなところに来る人なんてほとんどいないから、金をいただくチャンスだと思ったら、アルベルトさんは気前よく金をくれて・・・」
「ついでにこの辺りで密売人らしき人物を見かけなかったか訊いてみたんだ」
 さらっと言っているが、ひょっとしてジェフは強盗でもする気でアルベルトに近付いたのではないだろうか。無謀な話だし実際未遂に終わったようだが。
「そう。それで不審人物の話なんですけどね。オレ今朝・・・いや昨日の朝に、あそこの倉庫に入っていく不審人物を見たんですよ」
 ジェフが指す先は他の倉庫に埋もれるようにして建っている比較的小さな倉庫である。
「で、気になって見ていたら、数時間おきに人相の悪いおっさんとか商人の格好をした奴とかが入って行ったんですよ。一回、大きな木箱持った人も入っていったし」
「なるほど・・・ありがとう」
「いやいやお役にたてたなら嬉しいっす!」
「そうだ。礼にこれを」
 アルベルトは財布から金貨を数枚取り出して、ジェフに手渡した。ジェフはそれこそ飛び上がらんばかりに喜んで、「何か手伝えることがあったらいつでも呼んでください!」と言って去って行った。
「確かかわからない情報に金貨を支払うなんて気前良いですわね。カモにされますわよ?」
 一連の様子を見ていたティリーがそう言うと、アルベルトは首を傾げた。
「別に情報を買うつもりで支払ったんじゃないんだが・・・ジェフは金に困っているみたいだったから、せめて仕事が見つかるまでの当面の生活費になるようにと思って」
 そういえば、教会の教えに『富める者は貧しい者に施しなさい』というものがあった気がする。おそらくアルベルトはそれに従ったのだろう。
(・・・本当にカモにされそうね)
 全くお人好しな人間だ。ジェフに言われた倉庫に向かいつつ、リゼはそう思った。
ジェフが言っていた倉庫は、本当に小さくてボロい建物だった。外から見る限りは何の変哲もない倉庫である。しかし、倉庫前の石畳を見ていたアルベルトは、あるものを見つけてこう言った。
「・・・何かを引きずった跡がある。かなり重いものだろう。それにかなり新しい」
「そうなんですの?」
 そう言ってティリーが首をかしげる。暗くてよく見えないが、夜目の効くというアルベルトの言うことだから間違いではないのだろう。
「ここの倉庫、使われていないのよね」
「ええ。位置的に使いにくくなったとかで」
 使われてない倉庫の前に重いものを引きずった跡。ということは。
「当たりかもね」
 倉庫の扉には鍵がかかっている。壊せなくはないが、もし誰かがいた場合、大きな音を立てて気付かれてもまずい。幸いにも上の方の窓が割れていたのでそこから侵入することにした。
 倉庫の中は暗い。足場を確認しながら、リゼ達は倉庫の中を進んだ。
「誰かいる?」
 二階には特に人影は見当たらない。ここからでは一階の様子も良く分からないので、すぐそこにあった梯子から下に降りることにした。
 果たして、一階にはそれなりの人数の人がたむろしていた。
「おい、てめえら。こんなところに忍び込みやがって何してんだ?」
 そう言ったのは、いかにもゴロツキといった風の大男だった。後ろには同じく人相の悪い男たちが並んでいる。
「ちょうどよかった。そこの貴方、この倉庫にあるものが何か教えていただけると嬉しいのですけど」
 臆することなくそう言ったのはティリーである。勿論、ゴロツキ風の男が答えてくれるはずもなく、むしろますます険しい顔つきになってティリーを睨んだ。
「偉そうな態度取りやがって。てめえらに教えるわけないだろうが」
「じゃあ、ここに何かあるのは確かなんだな」
 アルベルトがそう言うと、ゴロツキ風の男は一瞬沈黙し、墓穴を掘ったことに気付いたのかドスの効いた声をだした。