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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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 彼女は本来、首都の教会に所属しているが、今は任務でスミルナに来ているらしい。その任務のための準備があって早く戻らなくてはならないそうなのだ。
「いや、任務なら仕方ない。・・・頑張ってくれ」
「ありがとう。では失礼します」
 そう言って、アンジェラは去って行った。



 マリークレージュの東部は、今は使われていない倉庫がいくつも建ち並んでいる地区だった。深夜ともなれば人の気配もなく静寂に満ちている。
「この辺りだな」
 地図を確認し、アルベルトはあたりを見回した。
 アンジェラが戻ったあと、少し時間があったためアルベルトは密売人のアジトがあると予想した場所に訪れていた。少しでも情報を手に入れておきたかったからだ。
 夜の倉庫街に当然人はいない。それでも何か手がかりになるものはないか、周囲に気を配りながら倉庫街の奥の方へ足を進めた。
 そうして、しばらくした頃。ふと、前方に人影が見えた。
 誰かいる。
 夜中に何をしているのだろう、と思ったものの、自分もその『夜中に何をしているのか』と言われる立場なのに気付いて、アルベルトは苦笑した。
(俺も相当不審人物だな)
 少なくとも毎晩出歩いているのだ。アンジェラも昼間は教会の方で仕事があるらしく夜でないと来られないというのもあるが、昼間はやはり役場の外に出してもらえないのだ。万が一のことを考えてなのはわかっているし、資料を貸してくれたことは感謝しているが、やはり外に出ないと本格的な調査はできない。
 前方の人物に注意を払いながら、アルベルトはゆっくり近づいた。その気配に気づいたのか前方の人物は振り返った。とっさに建物の陰に隠れたが、その人物はこちらに向かって歩いて来る。その人物が明かりの届く範囲に足を踏み入れる前に、アルベルトは相手が誰か気付いた。
「ストップ」
 こちらに気付いた相手が剣の柄に手をかけたので、アルベルトは前に出て両手を上げた。そういえば前にもこんなことがあった気がする。あの時は抜身の剣を突き付けられたが。
「アルベルト? なにしてるの?」
 そう言ったのは剣の柄に手をかけたまま、怪訝そうな顔をしたリゼだった。
「君こそ何してるんだ? こんな夜中に」
「メリエ・リドスの悪魔憑きを全部癒した。今のところ、だけどね。それで暇になったから私も麻薬の密売人を探しに来たのよ」
 ようやく剣の柄から手を離し、リゼは世間話でもするかのように答える。その口調にアルベルトは呆れて言った。
「暇になったって・・・それに麻薬のことはゴールトン市長に任せておくんじゃなかったのか?」
「他にやることがあったから。それが思ったよりも早く終わったってだけ」
やること、か。確かに悪魔祓いは彼女にしかできないことだ。リゼがそちらを優先するのは当然か。
「それで君は一人で何を」
「そんなことないですわよ」
 案の定、どこからともなくティリーがやってきてリゼの横に並ぶ。
「あっちの方には特に何もありませんでしたわよ」
 西の方を指さしてティリーは言った。そうして、彼女はアルベルトの方を向くと、
「こんばんはアルベルト。毎晩無断で外出していたなんて知りませんでしたわ」
「それは・・・悪かった」
「全く、密売人を探すのはいいですけど勝手に外に出られては困りますわ」
「私も毎晩出歩いてたしあなたはそれを止めなかったけど」
「それはわたくしが許可を出したからいいんですの」
 リゼの突っ込みにティリーはすぐさま言い返したが、さすがに無茶な理屈だったと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。
「それで麻薬の密売人のことは何か分かったの?」
 リゼは腕を組み、アルベルトに尋ねた。
「・・・おそらくこの辺りにアジトか何かがあるんじゃないかと思っている」
 そう答えると、リゼは腕を組み、
「ゴールトンもそう言ってた」
 あっさりと言い放った。
「・・・そうなのか?」
「だからここに来たのよ」
 資料を見ただけで分かったのだから、ゴールトンが気付いていないはずがないと思ったのだが、やはり知っていたらしい。知っているなら教えてくれればいいのに。そう思ったが、今更言っても仕方のないことであった。
 結局、リゼ達と一緒に密売人のアジトを探すことになった。というより、ティリーがアルベルトのことをゴールトンに報告したところ、一人で出歩かれるのは困るからせめて一緒に行けと言われたのだとか。
 少し前を歩くリゼの姿を見ながら、アルベルトはアンジェラに言われたことを反芻していた。
アンジェラにはリゼに会わせてほしいと言われたが、なんと言って会わせるべきだろうか。アンジェラに会わせようと思ったら彼女が何者か聞かれるだろうし、悪魔祓い師だと答えれば確実に警戒するだろう。絶対会おうとしないに違いない。しかし、ミガーに行くまであと三日ほどしかないのだからそれまでに会わせるとなると――
(ミガーに行く、か)
「リゼ、一つ聞いていいか?」
「何」
 リゼは振り返ると、静かにアルベルトを見た。その彼女に、アルベルトは問いかける。
「リゼはミガーへ行った後どうするんだ?」
「何よいきなり。別に今までと変わらない。ミガーでも悪魔祓いをするだけ」
 考えることもなく即答するリゼ。こういう点で彼女が悩むことはないような気がする。割り切るのが早いというか、自分がやることをちゃんと決めているというか。
「そう言うあなたはミガーへ行ってどうするつもりなの」
 リゼはアルベルトの方を見ると逆に問いかけてきた。数時間前に考えていたことだ。ミガーへ行ってどうするのか。
「ひょっとして今更行くか行かないかで悩んでるんですの? 追手がいて手配書まで出回ってるのに何を好き好んでこんな国にいるんです?」
 呆れたようにティリーが言う。それに対してアルベルトは、
「そうは言っても、俺はこの国の人間だから。それに、逃げていたら誤解を解くことも出来なくなる」
「逃げていたら誤解は解けない、ね。私にこの国を出ろと言ったのはあなただけど」
「君はね。それに、あの時の教会の様子を見ていたらまず逃げるべきだと思ったからな」
 ラオディキアの教会は魔女の逃亡に大騒ぎになり、なおかつ怒り狂っていた。あれでは説得も、話すらできる状況ではない。だからまず逃げるべきだと思ったのだ。
「でもラオディキアであんなことがあった上、嘘を書かれた手配書まで回っている。ミガーに行くとしても、この状況を放ったままにしておけない」
 そう言うと、リゼはじいっとアルベルトを見てから、彼にぐいっと詰め寄った。いきなり距離を詰めてきたのでアルベルトは思わず半歩身を引く。しかしリゼの方は気にした様子もなく、アルベルトを見据えたまま口を開いた。
「結局、あなたはミガーに行くの? 行かないの?」
「・・・・・・」
「私はいまさら誤解を解けるとは思ってない。いや、誤解じゃないわね。『市民を虐殺する邪悪な魔女』という嘘の方が教会にとって都合の良いんでしょう。事実が何であってもあいつらは訂正しないわ。だとしたら、付き合うだけ無駄」
「でもあれでは君が極悪人みたいじゃないか。関係ない人たちにも誤解されたままでいいのか?」