Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ
「てめえらやっぱりあれを探しに来たんだな? 悪いがここに入ってきた奴は全員始末しろと言われてるんでな。運が悪かったな」
「男一人に女二人だ。大したことねえ」
「どうせなら男ぶちのめしたあと女二人は頂いちまおう――」
ゴロツキはそれ以上喋ることは出来なかった。リゼの飛び蹴りがゴロツキの顔面に見事に命中したからである。ゴロツキは吹っ飛んで頭から床に落ち、気絶して動かなくなる。
「くだらない話してないでさっさとかかってきたらどう? 余計なこと言ってるから負けるんだと思うけど」
「な、なめやがって! 行くぞお前ら!」
威勢よく言ったゴロツキの一人も、アルベルトに一撃で昏倒させられる。街のゴロツキ程度がリゼ達の敵であったはずもなく、全員が床に伸びるまでさして時間はかからなかった。
「さて、次はあそこね」
ゴロツキ達の後ろにあったのは隣の部屋に続く扉であった。鍵はかかっていたが、耳を澄ませてみると中で物音がしている。誰かいるようだ。ゴロツキをぶちのめすのにもう大きな音を立ててしまったので、今度は遠慮なく扉を破壊することにした。
「わあああ!」
中に入ると扉の向こうにいた人物はリゼ達を見て驚きの声を上げた。格好からして商人だろうか。すっかり慌てふためいて逃げ出そうとする。逃げられそうな場所と言えば小さな窓しかないが、ドタバタされるのもうっとうしいので足止めをすることにした。
『凍れ』
逃げようとした商人の足が凍りつく。彼がもがいている間に、アルベルトが商人が抱えていたものを取り上げ、ティリーが近くの木箱をあけて中を見た。
「これは・・・司祭の聖衣だ」
「ビンゴですわ。これ、全部麻薬です」
他の木箱も開けて、ティリーは次々と中身を確認していく。確認した限り、その全てが麻薬だった。少なくとも麻薬の保管場所は実にあっけなく判明したのだ。
一方、アルベルトは聖衣を手にしたまま、商人に詰問にした。
「どうして聖衣を持っているんだ?」
「こ、これはもらったんだ・・・」
「誰に?」
「そりゃ知り合いの司祭様に・・・買い替えるからいらないかと・・・」
「聖衣は勝手に他人に譲渡していい物ではない。いらなくなったからと言って他人に渡すことはありえない」
「う、嘘じゃない! もらったのは本当・・・」
「本当のこと言わないなら氷漬けにしようかしら」
リゼがそう呟くと、商人がひきつった顔をした。さらにティリーが追い打ちをかけるように、
「氷漬けにしたら喋れなくなりますわ。それよりも重力魔術でちょっとずつ潰すのはどうです?」
と物騒なことを言い始める。さらに顔を青くした商人は、早口でしゃべりだした。
「ま、待ってくれ! 司祭にもらったのは本当なんだ! 免罪符を売るためには司祭の格好をしないといけないからと!」
「免罪符の名を借りた麻薬でしょう?」
「そ、それは・・・」
言いよどむ商人に、ティリーはにこっと笑ってから、
『潰れなさい』
一言、魔術を唱える。途端に商人へ過重力がかかり、彼はギャッと呻いた。
「わ、分かったそうだ麻薬なんだ! 麻薬で間違いない!」
「そう。それで? あなたが麻薬を売らせていたの?」
「違う。私はここの管理を任されているだけで・・・それも今日たまたま・・・」
「じゃあ管理を任せたのは誰だ?」
「それは・・・」
商人はしばし逡巡したが、リゼ達の目が据わっているのを見て恐れをなしたらしい。彼は意を決したのか、話し始めた。
「ロドニーだ。直接じゃなくて人づてだったけど確かにそう言っていた」
「ロドニーって・・・」
「――出入国審査官だ。それもかなり上級の」
リゼの疑問に答えたのはアルベルトだった。彼は厳しい表情のまま、悔しそうにつぶやいた。
「本当に教会関係者が関わっていたなんて・・・」
酷く落胆した様子のアルベルトの代わりに、リゼは商人の胸ぐらをつかんで質問を続けた。
「で、麻薬管理を命令したのはロドニーで間違いないのね。もしまだ隠していることがあったら――」
「ま、まだある! 実はもう一人いるんだ! ロドニーは司祭を連れてきた。でも麻薬の密輸は別の奴がやったんだ!」
「誰ですの? それは」
問いかけると、商人はしばし沈黙したが、やがて口を開いてある人物の名前をきっぱりと告げた。
「ゴールトン市長だ」
作品名:Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ 作家名:紫苑