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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ

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「では、ラオディキアの悪魔祓い師長や市民の殺害も・・・」
「それは違う! 俺も彼女も市民を殺していない! あれは・・・」
 本当のことを言うべきか、アルベルトはしばし迷った。果たして悪魔堕ちした自分の言葉を信じてくれるだろうか。けれど、
(嘘はつけない。それにアンジェラなら分かってくれるはずだ)
「ラオディキアの貧民街に火を放ったのは、悪魔祓い師長――ファーザー・セラフだ。『魔女』を崇めた住民達の魂を浄化すると言って」
「え・・・・?」
「でも彼女は『魔女』じゃない。むしろ貧民街の悪魔憑きを癒していたんだ。その力が悪魔祓い師のものでなかったというだけで、教会が魔女だと決めつけただけに過ぎない」
 アルベルトの返答に、アンジェラは驚きを見せた。アルベルトの話が嘘か本当か、判断に迷っているようだ。しかし、アンジェラが答えを出す前に、アルベルトは別のこと――しかし、今現在において非常に重要なことを告げた。
「それと俺のこととは関係ないことだが・・・メリエ・リドスで今、麻薬が出回っている。贖罪の薬と称して、免罪符とともに売り捌いているんだ。その上、密売人は司祭を名乗っているんだ。その人がその密売人の一人だ」
 アンジェラは倒れた密売人に目を移る。しばらくして、彼女ははっきりと言った。
「・・・・この方は間違いなくスミルナの司祭です」
「本当か?」
「数日前から行方が分からなくなっていました。それに、この方だけではありません。1ヶ月前にも同じように司祭が一人姿を消しました」
 アンジェラはそこで言葉を切り、再びアルベルトをまっすぐ見据えた。
「アルベルト。私もその密売人を探しています。ここで薬の拡散を食い止めなければ、他の街にも広がりかねません。手配書のことも含め、詳しく事情を話してください。密売人に関して知っていることも全て。その上で、どちらを優先させるべきか考えます」
「・・・・・分かった」



「悪魔を祓う力を持ち、悪魔憑きを癒している。だから魔女ではない・・・・そういうことですか?」
「ああ」
 人目のつかない路地の奥で、アルベルトは言われた通り詳しく事の次第を話した。ラオディキアの一件もリゼの能力のことも全て、である。
「その方は本当に悪魔祓い師ではないのですか?」
「俺が視た限り、悪魔祓い師の力とは違う、もっと純粋で強力なものだった」
「悪魔の力ということは?」
「いや、それはない。悪魔による邪悪なものであればすぐに分かる」
 とはいえ、神聖なものかと言われると少し違う。強いて言うなら魔術に近いのだが、ティリーが使うものとも違う。アルベルトの眼を持ってしても、その正体はよく分からないのだ。
「一人で、かつ我々よりもはるかに短い時間で悪魔を祓う能力。まるで聖典の言う救世主――神の子のように・・・・」
「なんにせよ、俺は彼女を魔女として処刑するのは間違っていると思う。彼女の力の正体を見極めてからでも遅くはないはずだ」
「それがあなたの考えなのですね」
 アンジェラは目を閉じ、じっと考えている。それをアルベルトは不安と期待が入り混じった思いを抱きながら、彼女の返答を待つ。
「私がこうして一人メリエ・リドスにいるのには理由があります」
 しばらくして、アンジェラは口を開いた。
「実は、スミルナ教会はメリエ・リドスで危険な麻薬が出回っていることをすでに知っています。しかし、教会は何の対策もしていません。薬の被害がメリエ・リドスの外まで広まらない限り、この街の住人がどうなろうと構わないからです。ここは異教徒の街。ここに住む人間は罪人ですから。ですが、今、教会は形式主義に陥って視野が狭くなっています。教えを守らない方々を一括りに罪人と称し、救済を拒むなどあってはならない事態。そのような方々を神の身元へ導くことこそ、我らの為すべきことであるはずです」
 アンジェラはきっぱりとそう言った。
「今の私は悪魔祓い師ではなくアンジェラ・アンドレアス一個人として薬の拡散を押さえたいと思っています。個人的な事情で動いている以上、悪魔祓い師としてあなたを捕えることはできません。その間に確かめさせてください。あなたの言葉が嘘ではないかを」
「アンジェラ・・・!」
「ごめんなさいアルベルト。あなたが嘘をつく方ではないのは分かっていますし、私はあなたを信頼しています。ですが、確証もなしにあなたを擁護することもできないのです。真実をきちんと確かめることはいつにおいても重要ですから」
「いや、それは当然のことだ。上辺だけ見て判断するなら、彼女を魔女だときめつける人達と同じになってしまうから」
 今は何より、アンジェラが理解してくれたのが嬉しい。彼女なら少なくとも話は聞いてくれるのではないかと思っていたから、こんな場所で会えたのは幸運だった。
「しかし、麻薬のことをおろそかにするつもりはありません。あなたも麻薬の真の密売人探しを手伝っていただけませんか? 一人では手が回らないことも多々ありますから」
「もちろんだ。こんなものを野放しにしていたら、被害はメリエ・リドスだけでは済まなくなる」
 アルベルトがそういうと、アンジェラは安堵した表情を見せる。そして彼女は、
「ではそうですね・・・・今は一度戻った方がいいでしょう。また今晩にでも、情報交換と今後の指針を立てませんか」
「それでいい。ありがとうアンジェラ」
 アルベルトが礼を言うと、アンジェラは微笑みを返した。



 深夜。
 昼間活気に満ちていたメリエ・リドスも、真夜中ともなれば静かだ。一部はまだ明かりが灯り、賑やかな場所もあるようだが、居住区はほとんど真っ暗で人の気配はない。
 そんな街の様子をリゼは屋根の上から眺めていた。吹き抜ける夜風は冷たく、ゆっくりと体温を奪っていくが、そんなことは気にも留めず、じっと街の様子を観察している。しばらくの間リゼはそうしていたが、やがて何かを見つけたのか一歩前に踏み出した。
「どこへ行くんですの?」
 いつの間にやってきたのか、声をかけてきたのはティリーだった。
「建物を出るなって市長に言われたじゃありませんの」
「教会に見つからないように、でしょう。だから夜中に出ることにしたのよ」
 振り返らずにそう答えると、ティリーは言い返してきた。
「夜中でも見つかる時は見つかりますわよ。大体こんな時間に何をしに行くんですの?」
「さあ」
「さあって・・・・あ、ひょっとして悪魔祓いに行くんじゃありませんの!?」
「なんでもいいでしょう。別に」
「やっぱり行くんですのね? うふふ。探したかいがありましたわ」
 嬉しそうに笑うティリーに、リゼは振り返って呆れたように言った。
「あなたに見せるために悪魔祓いをする訳じゃないわよ」
「あら。何も見せろとは言ってませんわよ?」
 白々しくのたまうティリー。全く嘘っぽいにもほどがある。
「にしても、何でわたくしたちに悪魔祓いの術を見せてくれないんですの?」
「見世物になるのはごめんだから。それに、祖父に言われてるの。この力を使うのは構わないが、興味本位で寄ってくる連中には出来る限り見せるな。特に魔術師には。だから、興味本位で見る奴には見せない。これを何時使うかは私が決める」