Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ
「もう。秘密主義ですわねー」
「秘密にしてないわ。あなたに見せるのが嫌なだけ」
「まあ。何故ですの?」
「見せたら見せたでうるさいだろうから」
「そんなことはありませんわよ。わたくしぐらい魔術を使える人間なら、術に関しては見るだけで大体のことは分かりますもの」
ティリーは胸を張ってそう言うが、研究のために見せろ見せろとうるさい奴が見せたら黙るとは毛ほどにも思わない。全く騒々しいのは好きじゃない。
「ともかく、あなたの希望には沿えない」
一際強い風が屋根の上を駆け抜ける。その中で、リゼは屋根の上から一歩踏み出した。
風を切って目の前の建物の屋根に降り立つ。建物と建物を飛び移りながら、目的の場所へ進んでいく。メリエ・リドスで最も悪魔の気配が強い場所。悪魔憑きが大勢いるところへ。
一週間でやることはたくさんある。
麻薬の密売人探しはアルベルトに任せておけばいい。
「魔術師には見せるな、ね。賢明な判断かもしれませんわ」
走っていくリゼの後姿を見ながら、ティリーはそう呟いた。本当は追いかけてでも悪魔祓いを見たいのだが、さすがにそれはやめた。追いかけたって追いつけるわけがないし、あの分だとついてったって見せてくれそうにないからである。抜け道を通った後遺症で筋肉痛が酷くて激しい運動が出来ないとかそんなことは関係ない。
「魔術師にとって未知の魔術は解明せずにいられないものですものね。彼女のような能力は特に」
見れば大体分かるというのは、その術が既存の魔術を土台としたものである場合だけだ。もし今あるどんな魔術にも当てはまらないものだったら、その正体を探るべく、大勢の魔術師や悪魔研究家がリゼのことを研究しようとするだろう。勿論、自分もその一人だ。
「うーん。やっぱり仲良くなってからの方がいいのかしら」
先日アルベルトに言われたことを思い出してその案を採用するべきか考える。研究対象を目の前にして何も聞かないなんてことはポリシーに反するが、より効率よく研究できる方法があるのにそれを実行しないのはもっとポリシーに反する。「仲良くなることを当面の目的にする」ことは、今出来得る最良の手段、だろうか。
「下手に聞くよりも見れる機会が巡ってくるのを待った方が意外と速いかもしれませんわね」
千年前から、悪魔はこの世に蔓延り続けている。
悪魔を生み出しているのは人の罪科。それが巡り巡って弱い立場の人々を苦しめている。それを少しでも軽減するためには、悪魔を生み出すような人の罪も減らさなくてはならない。
それも、悪魔祓い師の役目の一つだ。
「来てくれたのですね、アルベルト」
役所を抜け出して向かった先、例の裏路地で待っていたアンジェラはそう言ってほほ笑んだ。
作品名:Savior 第一部 救世主と魔女Ⅱ 作家名:紫苑