ACT ARME3 失くしたものと落としたもの
その一歩を、踏み出そうとした。
「ストォォーーーーーーーーーップ!!」
ビルの屋上から飛び降りようとしている自分を、全力で止めようとする者の絶叫が響いた。いや・・・・
「セイヤッ!」
「ごフゥっ!!?」
強烈な一撃を入れられた。
「ぎ、ぎりぎりセーフ・・・」
ルインたちは、膝に手を付き、肩で息をする。そして開口一番
「何をしようとしてるんだね?あんたは。バカじゃないのかね?」
呆れた口調でそう罵られた。
「まさか自殺を図ろうとしていたとは、予想外でした・・・。」
見るからに体育会系ではないツェリライとアコは座り込んでいる。
「迷惑かけてすいません。」
「全くだよ、ほんともう。あー疲れた。」
「なんで、自殺なんかしようとしたのさ?」
訳を聞かれ、行き倒れは俯きつつ答える。
「自分が重罪人だと知った時、自分自身が怖くなったんです。」
「で?それで、罪滅しか現実逃避のつもりでここから落ちようとしていたわけですか。カンベンしてよ。死ぬくらいなら治安部隊に出頭してくれ。」
「でも・・・」
「でももクソもへったくりもない。記憶を失う前のあんたは、確かに極悪人だったんだろうね。まあ、そんなことをやっていた理由にもよるけどさ。」
「理由・・・?」
訳がわからないという風に聞き返す。
「あんたが記憶を失う前に受けていた依頼。この町のなんかとんでもない情報を盗んで来るっていうものだったみたいだけど、それって多分、かなり報酬弾んだんじゃないの?あんた、その金どうするつもりだったんだよ?」
「どうするつもり・・・?」
「その報酬使って何をするつもりだったのかってこと。」
未だ先の見えない話に、困惑顔が晴れない行き倒れに、なぜか少しがっかりそうな顔をして、ルインは続けた。
「うーん、せっかくスパイだって言うから、少し抽象的な言葉で会話してみたかったんだけどな。まあつまりは、いくら記憶を失くしたからって、そこまで性格は変わるものなのかなっていう疑問を感じているんだよ。」
「記憶をなくす前の、自分の性格。」
「まあ、記憶をなくした不安で、挙動不審になって大人しげな感じになるのはわかるとしても、自分の過去の所業を知ったからって、自殺しようなんて大それたことはしないと思うんだよね。普通なら、体に染み付いた本能的な感じで、どこかに逃げ隠れるものだと思うよ。それをしなかったっていうのは、あんた、記憶なくす前も結構生真面目な性格してたんじゃないの?」
「俺が・・・生真面目?」
「スパイやってた理由も、何かに追い詰められて泣く泣くとか。それにしてはやること大胆だけど。まあそこは色々と大げさにやってしまう性格だったということで。」
「でも、そうじゃないかもしれない。ただ記憶を失ったショックで、こんな人格になっただけで、本当は正真正銘の極悪犯罪者だったということも・・・」
「考えられるね。でもわかんないじゃん、そんなの。あんたが記憶戻さない限りさ。だから、そう言うのも含めて、治安部隊のお世話になったらどうかって提言してるんだよ。」
ルインの説得に、心を動かされつつあったが、それでもまだ俯き、悩んでいる行き倒れに、ルインがしびれを切らした。
「あーーーーっ、もう。なんでこんなのはスパッと割り切れないかね全く。とにかく、そんなに罪悪感を感じているんだったら、僕らのためにも大人しく捕まってくれ。でないと僕らの明日が真っ暗になるんだから。」
さっきまでの諭すような説得口調から、一気に砕けてズカズカした物言いに変わった。多分、いや、間違いなくこっちが地であり本音である。
あまりに豹変した物言いに、行き倒れは目を丸くする。やがて小さく吹き出した。
「わかりました。なら俺は、死ではなく、治安部隊に罪をさばいてもらいます。」
「うん。そうして。頼むから。」
そして、その数分後に駆けつけた治安部隊に行き倒れ、テンダルは五人と共に連行されていった。
その後、テンダルの服の中に例の情報が入っていると思われるデータチップを発見、厳重に破棄された。そしてテンダル自身の希望で、懲役を受けながら、精神病院による記憶の回復を目指している。
そして、今回派手にやらかしてしまった五人はというと・・・
「あ゛〜〜〜〜〜〜...やっと解放された・・・。」
「三日も拘束されたよ・・・。」
「あたし、当分字は書かないわよ。」
今の会話から推察されるとおり、たっぷりと絞られたようである。まあ当然だろう。いくら情状酌量の余地があった(のか?・・・いや、きっとあった)とはいえ、治安部隊の命令に思いっきり反抗し、勘違いで国際級犯罪者の庇い立て、逃走を図り、裏をてんやわんやさせてしまったのだ。
本来ならこの程度ですむ方が奇跡なのである。
ただ、そのことに気づき、奇跡を起こしたのはあの係長なのだろうなと思いを張り巡らしたのは、レックとツェリライだけだっただろうが。
ヒネギム係長。お疲れ様でした。
作品名:ACT ARME3 失くしたものと落としたもの 作家名:平内 丈