ACT ARME3 失くしたものと落としたもの
相手は止めの一撃とばかりに大岩を抱えているため、反応することはできない。
「紅蓮鉤爪(レッドニードル)!!」
高速移動からの火炎斬り。一閃した炎は、さながら鉤爪で抉ったかのような弧を描いた。
「やれやれ、なんとか勝てた。」
「ごめんね、レック。一応楽させようと思って一人相手をさせたんだけど、まさかそいつもアトリネーターだったとはねぇ。手間かけさせたね。全く、一人新ジャンルが出てきたら、こぞって色んな同じような奴が出てくるっていうのはストーリー的によくある話で困るよね。」
と、ルインのごちゃごちゃ五月蝿い謝罪に大丈夫と伝え、それよりもと、自分たちの手で倒した敵のことを心配する。
そんなレックに、残りの二人はやれやれと溜息をつき、さっきの止めは明らかに力抜いてただろと突っ込む。
そして、唯一話せる状態にある土のアトリネーターに近づき、拷問、じゃなくて尋問を始めた。
「さて、とりあえず質問。どうして僕たちを襲ったのかな?やっぱあそこにいる男が目当てなのかな?」
相手はそっぽを向いて答えない。
「答えて欲しいんだけどなあ。」
もう一度要求してもやはり答えるつもりはないようだ。
そんな相手の様子に、ルインがハァ…とため息をついた。と思った次の瞬間、その一瞬で相手の首のすぐ真横に刀を突き立てた。
「仏の三度目。僕結構短気でね。今の状態じゃあ孔で防御することもできないでしょ?頭と体が分離されたくなかったらとっとと答えて。」
ルインはやるときはやる人種である。それはすなわち、容赦しないときは一切の容赦をしないのだ。恐らく、ここでもう一度回答を拒否すれば、ルインは本気で刀を動かすだろう。有無を言わさずそう確信が持てる説得力がある。
ルインがそう言う奴であるということを理解している三人は割と平然としていたが(でもアコは結構動揺していた)、レックは驚き、言葉に詰まった。
「ちょ・・・・」
続けてなにか言おうとするレックを遮る。
「ああ、そっか。レックはこう言う教育によろしくない描写は嫌いなんだっけ。でも悪いね。レックにこだわりがあるように、僕にも、こだわりじゃないけど、似たようなものがあるんだよね。」
そして再び視線を下ろす。
「というわけで、僕は僕や僕の仲間を襲ってくるような奴らに容赦できる寛容な器は持ってないし、有言実行をモットーにしてるんだよね。でも殺生は好きじゃないから、答えてくれることを祈るよ。」
その目は、誰が見ても冷酷そのものである。
それを理解した相手は、悔しそうな表情をしながらも切り出した。
「お前らは、その連れている相手が誰なのかを理解しているのか?」
その言葉にルインは、答えてくれたからなのか、やっと行き倒れの身元がわかると思ったからか、表情を崩した。
「あ、あの人ね。あの人は今朝、お前を倒した彼が道端で倒れていたのを拾ってきてね。記憶喪失起こしてたから困ってたんだよ。で?この人は一体何者なのかな?」
ルインの話に、相手は少し驚き、それから喉の奥で笑った。
「なるほど。道理でそんな間抜けな面をしているわけだ。」
「一人納得して笑ってないで、とっとと教える。」
強引に促す。今度は素直に話しだした。
「その男はな、どこにも所属していない、金の契約で依頼をこなすデータ泥棒。早い話が、フリーのスパイだ。」
「・・・マジで?」
普通に驚く。
「嘘じゃないさ。俺たちが依頼したんだからな。この町のある情報を盗めとな。」
それを聞いたルインが、恐る恐る周囲に聞いた。
「てことは、僕たちは正真正銘の犯罪者を擁護していたってことになるってことでおk?・・・」
「・・・・・・そう、なりますね。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・ヤバくねぇか?」
うん、やばい。めっちゃヤバイ。多分このままいけばルインたちはこの町の第一級犯罪者として、世間に知られることなく葬られることになる。
全員が青ざめる。いや、一人だけ青ざめながらもなんとかポジティブに考えようとするものがいた。
「で、でもっ。大ジョブよ。こいつら突き出して、ちゃんと謝ればら許してもらえるんじゃないの?」
うん、いいポジティブシンキングだ。
だが、悲しいほど的外れだ。
「アコさん。この一件は、大きな事件であるのに住民には知らされていないということは、覚えていますよね?」
「うん。」
「昨今において情報とは、武力などとはとても比較できないほど大きな力を持つケースがあるんです。それこそ、この町を一瞬にして壊滅させてしまうほどの力をね。」
「・・・・そうなの?」
情報の重さを知らない人間の問いかけに、その重さを知っている面子は頷く。
「一般市民には知らされないほどの情報。それどころか、ヒネギム係長は、部隊内ですらごく一部しか知らされていないトップシークレットの情報です。彼が盗んだ情報は、それほどの重さがあるということになります。」
「で、それをあたし達が庇っちゃったと。」
「そういうことになります。」
ようやく、事の重さが理解できたようだ。
「どーすんのよルイン!!!あんたが変な勘違いしたおかげで、ドえらいことになっちゃったじゃないの!!!!」
全くもってその通りである。
ルインは激しく揺さぶられながらも、一筋の希望を示す。
「オアオウ・・・お、落ち着いて。まだ助かる道はあるよ。」
「ほんと!?何?」
解放され、息を整えた後、答えた。
「簡単な話だよ。行き倒れに記憶を思い出してもらえばいいんだよ。そして、盗んだ情報をどこにやったのか吐かせればいい。」
「そして、その情報を返却すれば・・・!」
「助かることができる・・・!おお、ルイン冴えてる!」
と、アコは手放しに褒め称えるが、アコ以外は全員が思いついていた。
「じゃあ、なんとか記憶思い出させて・・・・」
と、振り返った先に、行き倒れがいない。
「・・・・・・・」
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」
一同パニック。
「いない、いないっ!前後上下左右どこ見渡してもどこにもいない!!!」
「どどどどどっどーすんのよ!?」
そう聞かれるが、そんなの決まっている。
「探す!全力で!!!」
「時間的に、まだそんなに遠くへは行ってねえはずだ!」
グロウが激を飛ばす。
「でも何で逃げたのさ!?」
レックが最もな疑問を漏らす。
「今の話を聞いて記憶が戻ったのか、殺されるという恐怖に怯えたのか、色々考えられますね。」
冷静に推測するツェリライに、グロウがキレる。
「んなこたァどーだっていいんだよ!とっとと探すぞ!!」
「グロウとアコちゃんはこいつらを束ねといて!!残りは大至急全力全開で捜索!!」
「ラジャー!!!」
自分が国際級の犯罪者だと知ったとき、男は恐怖を覚えた。
自分の命が狙われると思ったからではない。記憶を失う前の自分のしてきた所業に恐怖したのだ。
以前の自分は、どういう気持ちで罪を犯していたのだろう?罪悪感は感じていなかったのだろうか?金のためならなんでもする人間だったのだろうか?
自分のことであるはずなのに、全くわからない。まるで前世の自分に無理やり問いかけようとしているようだった。
それなら、いっそ追いかけられていた時に殺されておけばよかった。きっとそれは、今からでも遅くない。
作品名:ACT ARME3 失くしたものと落としたもの 作家名:平内 丈