ACT ARME3 失くしたものと落としたもの
「そう聞かれたら、YESと答えるしかないね。もし、そちらの面々が、権力に塗れた汚い手で街を汚すというなら、住人は嫌がるのが普通でしょ?」
それを聞いた係長は、やれやれと小さなため息をつき、部下に命令を下した。
「ここに居る物を全員捕まえろ。生死は問わん。全力でかかれ。」
その言葉で、後ろにいた部下が一斉に構えを取った。
「生死問わずとは、随分と穏やかじゃないね。」
「その穏やかではない選択を選ばせたのは、自分自身だということを自覚して欲しいんだがな。」
また溜息をつく。
「お前の言うとおり、これは治安部隊の組織内ですら規制がかかっているほどのトップシークレットの案件だ。だから、ここで実働部隊が動いていることも市民は知らない。ここでお前らが死んだ場合も、市民には知らされない。行方不明で片付けられるだけだ。悪く思わないでくれ。」
話が終わると同時に一人の部隊員が襲いかかった。普段鍛えられているだけあり、やはり動きが洗礼されている。
だが、攻撃が当たるよりも早く、ルインが刀を抜き、防御した。
ガキィ!と鈍い音が響く。
「なるほど。それは確かに道理だ。でもそれってつまり、ひっくり返して考えたら、そっちにも同じことが言えるんじゃないかな?」
と、突然ルインが身を引いた。力の押し合いになっていたところに、突如支えがなくなった部隊員は、バランスを崩す。
その隙にルインは刀を振るった。
うめき声を上げて倒れる隊員を前に、恐怖を感じる凄みを加えた笑みでまっすぐ睨んだ。
「仮に、ここで全員死んだとしても、同じく上でもみ消されるってことだよね。」
そこから放たれる言葉、視線、威圧。泣き止む程度では済まない恐ろしさがある。
相手を見据えたまま、ルインは後ろの三人にお願いする。
「皆、そこで寝てるレックと行き倒れを連れてどっかに逃げて。僕も後で追うから。」
「わかった。」
「しゃーねーな。」
「了解です。」
そして、グロウが二人を抱え、裏から脱出。残ったのはルイン一人となった。
「一人で全員倒すつもりか。蛮勇は褒め言葉ではないぞ?」
相手の忠告ともとれる挑発に、ルインも負けじと言い返す。
「一応勝算はあるんだけどな。気付いていないのなら戦う仕事についている身としては致命的だよ?」
そして、再び襲いかかってくる部隊員。だが、難なくルインに倒される。
続けざま攻撃が来たが、同じようにルインに倒された。
「複数でこれたらよかったのにね。」
そう、ここは室内である。故に一人ずつしか襲いかかれる広さしかない。
「さて、そろそろ僕もずらかろうかな。みんなに追いつけなくなるし。」
それを聞いた残りの隊員は、そうはさせないと銃を抜く。
だが、引き金を引く前に、ボンッ!という音と共に、一瞬にしてルインの体が煙に包まれた。
全くのノーモーションで起きた出来事であったため、部隊の対応が遅れた。
煙が晴れた時には既にルインの姿はなかった。
「なるほど。そういうことになっていたんだ。」
復活し、これまでの事情を聞いたレックが、若干落ち込み気味に納得した。
「結局、彼がどのような罪を犯したのかはわからずじまいでした。ですが、状況からして並大抵のことではないのでしょう。」
「うん、確かにそうだね・・・。」
どんどん声が小さくなっていくレックを見たグロウが、チッと舌打ちを鳴らす。
「おいコラ、何一人勝手に沈んでんだよ?」
「い、いや。別に落ち込んでるわけじゃ。」
レックの反論には耳を貸さず、一人言いたいことをまくしたてる。
「テメェが何で沈んでんのかは知ったこっちゃねーが、自分が今の事態を招いたなんて考え持ってんならとっとと捨てろ。目障りなんだよ。」
どうやら図星だったようだ。レックがグッと言葉に詰まっている。
「てめぇがその考えを持ってたところで事態が良くなるわけでもねえ。むしろこっちがそんなことでテメェを恨んでいる小さい奴だって、レッテル貼りつけてるようなもんだ。」
レックは俯いたまま黙っている。
「周りを気にしてんなら、そんな面倒くせえ迷惑かけんな。わかったな?」
そんなグロウの話が終わっても、暫くは俯いたままだったが、やがて顔を上げ、
「ありがとう、グロウ。励ましてくれて。」
とさっきまでよりも晴れやかな笑顔を見せた。
それを見て聞いたグロウの背中に虫唾が走る。
「気色悪ぃ。こちとら加害妄想者を見るのに腹を立ててるだけだ。ざーとらしく礼なんか言ってんじゃねえよ。」
と、グロウはそっぽを向いたが、周りの連中がそれを許さず、暫しグロウはいじられ続けた。
治安部隊の眼を忍んで逃げている身だというのに、呑気なことである。
「でも、なんであたしたち逃げてきたの?この人が犯罪者だったなら、庇いだてする必要なんてないじゃない?」
と、素朴な疑問を漏らすアコだったが、周囲の反応は若干呆れ気味だった。
「やっぱ分かってねえのか。」
「まあ、初めから会話に参加することを放棄して、お茶係になっていましたからね。いいですか、アコさん。理屈を話し出すと理解できない恐れがあるので、結論だけ言いますが・・・。」
真剣な眼差しのツェリライに、つられて真剣な表情になるアコ。
「彼は、犯罪者ではない可能性が十分に考えられるのです。」
「な、なんですってーー!?」
素直で良いリアクションに、満足げな表情を浮かべるツェリライ。気分も良くなったのか、そのまま説明を続ける。
「今回の事件は、実動係の頭が自ら動くような事態でありながら、一般市民には詳細どころか、事件の存在すら知らされていません。これは余りにも妙な事であるということは、わかりますよね?」
これには、アコもすぐに頷いた。
「うん。確かに、普通のことじゃないわね。」
「では何故、そのような普通ではないことが、起こっているのだと思いますか?」
この質問に、アコは笑顔のまま黙って両手を肩の位置まで上げ、その状態のまま首を左右に振った。
それを見て、はぁ・・・と深く小さな溜息をついたツェリライは、根気強く話す。
「アコさんは、何か隠し事をしていますか?」
「うえっ!?べ、べべ別に何も隠していないわよ。」
わかり安すぎるリアクション。ニヤニヤ笑いをしそうになるのをこらえ、話を続ける。
「そうですか。それは残念です。では、アコさんは何か僕たちに隠し事をしていると想像してください。アコさんは、なぜそれを隠そうとしているのですか?」
「え、えっと・・・。やっぱり、知られたくないから・・・。」
「そうですよね。基本、何かを隠している理由とは、周りに知られたくないからです。そして、なぜ知られたくないのか。個人なら基本的に羞恥心が入り込んでしまうからというような理由が最も多いと考えられますが、それが組織単位となると、考えられる可能性は・・・。」
「自分たちにとって都合が悪いことをもみ消そうとしているから。そのためにその人を犯罪者という生贄に仕立て上げ、全て有耶無耶にして誤魔化そうと画策しているということだよ。」
突然上から声が聞こえ、見ると、ルインが建物の屋根から飛び降りてくるところだった。
「よっと。 わかった?つまり、この生き倒れは、犯罪者じゃなく、被害者である可能性すらあるんだよ。」
作品名:ACT ARME3 失くしたものと落としたもの 作家名:平内 丈