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ACT ARME3  失くしたものと落としたもの

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「そう、ですね。最良の選択が選べない以上、それしか手段がありませんか。」
「そうだね。まあ、安心してよ。この人の世話はボクがするから。」
「それだったら安心だけど、大丈夫?今でさえ大変なのに。」
「んー。まあ、この人を連れてきたのはボクだし、何とかするよ。」
アコの心配に、レックは困った笑顔を浮かべつつも、しっかりと答えた。
「決まりだな。オイ、そこの半スクラップ。こいつはてめぇん家に預けることになったからな。」
半スクラップは、何も答えない。
話の中心人物であるはずの行き倒れは、一切会話に入り込む隙を与えられなかった。


こうして、ルイン達五人に、また新たな仲間が加わったのでした。
めでたしめでたし。












と、言いたいところだが、まだ話は終わらない。
突然、ドアが激しく開け放たれ、そこからわらわらと治安部隊の面々が押し入ってきたのだ。
「ちょ、ちょっと!なんなのよあんたたち!」
「一般人の家に訪問するにしては、随分と騒がしいですね。」
「てめぇら何の用だ?」
半スクラップは、何も話せない。
「騒がしくて申し訳ないな。だが、お前たちには用はないんだ。」
そういって姿を現したのは、第一話のラストあたりで登場したキブ治安部隊実働係係長、ヒネギム係長だった。
「ああ、お久しぶりですね。先日の件はどうもお世話になりました。」
「ん?ああ、まあ気にするな。あの程度なら書類だけでどうにでもできる。」
と、漢らしいことを言ってくれるヒネギムだが、グロウはあまりお気に召さないらしい。
「その書類の量が半端じゃなかったけどな。てめぇ、モブのくせにまた出てくんのかよ。」
実にいやなところを突いてくる奴である。
「モブいうな。ヒネギムというれっきとした名前がある。」
言い返すヒネギムに、アコが太い刺を指す。
「でも、そのれっきとした名前を思い出すために、作者は一話を読み返したそうだけど?」
言っておくが、アコは相手を傷つけようとしてこんな発言をしているわけではない。
ただたんに、その場の空気を読む読解力が著しく劣っているだけである。
アコの無邪気な茨付きの刺を喰らい、しばし黙り込んでいたヒネギム係長だったが、気を取り直して続ける。
「まあ、俺がモブかどうかは今はどうでもいいんだ。用があるのは・・・」
そういって、視線を行き倒れの方に向ける。係長と行き倒れの視線がぶつかる。すると、ついさっきやっと平静を取り戻した行き倒れが、再び錯乱しだしたのだ。
「ああ!もう!せっかく収まったのにまたぶり返しちゃったじゃないの!」
と、もう一度なだめようとするアコだったが、
「うわあああああ!こ、こいつがぁぁ!」
完全に我をなくしている行き倒れには全く効果がなかった。
「ああ、うるせえ。」
とグロウが鳩尾に一発。今度は誰も怪我せずに終わった。
レック以外はね。



「なるほど、記憶喪失か。それで俺たちを見て錯乱したのか。騒がせてすまなかったな。」
「まあ、知らなかったんだし、しょうがなかったということでいいよ。」
やっと、半スクラップ状態というステータス異常から回復したルインが、係長に尋ねる。
「それで?さっきの状況を見る限り、双方ともお初にお目にかかったわけじゃなさそうだったけど、お二人はどういう関係でいらっしゃるのかな?」
だが、係長は非常に言いにくそうにしている。
「やはり、彼はお尋ね者なのですか?」
というツェリライの質問には答えてくれた。
「ん、まあ。そういったところだ。」
「ま、そんなところだろうとは思ってたけどね。で?なんの罪を犯してるのかな?」
だが、このルインの質問には答えず、代わりに警告をしてきた。
「お前たちがこの男と関わりを持ってしまった以上、最低限のことは話した。これ以上は首を突っ込むな。」
その口調は、あの時とは違い、底知れなさを感じる。
だが、ルインも負けない。
「この記憶喪失の行き倒れが犯罪者だったという情報だけで最低限とはねえ。少し不親切すぎないかな?」
「これ以上、話せることはない。あの男はウチでしょっぴく。」
「それはまあ構わないんだけど。どうも納得いかないんだよねえ。」

ルインの怪しげな目に、係長も真っ向から応じる。
「ほう。何が納得いかない?話してみろ。」
「僕ってこう見えても結構勤勉家でね。毎朝のニュースは見てるし、暇なときは新聞も読んでいるんだよ。」
「なかなか感心なことだな。つまり、お前はその新聞記事にこの件が掲載されていなかったことが気にかかっていると言いたいのか?」
「さすがヒネギム係長。敏腕中間管理職だけあって察しいいね。」
話が二人だけで進んでいく中、グロウが待ったをかける。
「別に不思議なことじゃねえんじゃねえのか?この町で起こる事件の全部がニュースに出るわけじゃねえだろ。」
意外とまともだった突っ込みである。

「ま、普通ならそうだね。何でもかんでも新聞に載るわけじゃない。でもさ、一人の男のためにこうやって実働係のトップが直々に訪ねてきてるわけだよ?それって、普通の事件じゃないよね。」
このキブは、あまり治安部隊の隊員数が多くない。故に、誰かを何かを捜索するときには、決まって住民に情報が渡るようになっているのである。
そのこともルインの疑問の後押しをしていた。
「実働係の頭が出張るようなヤマだが、市民には伝えられてねえ事件ってことか。確かに臭うな。」
「という結論に至っているわけだけど、どうかな?」
にらみ合う両者。やがて係長の方がため息をついた。
「全く、カンが鋭い奴らを相手にするのは骨が折れるな。」
「係長!」
驚く部下を制する。
「こいつらに半端な嘘言ったところで解決はしない。」
「さすが、よくわかってるね。」
「一応貶したつもりなんだが。とにかく、お前らがいくら駄々こねようと、こちらは答えるつもりはない。これ以上抵抗するようなら、お前らも公務執行妨害で捕らえる必要性が出てくる。大人しく引き渡せ。」
まるで説得しているようである。それだけルイン達のことを知っているのだ。
「まあ、治安部隊の仕事の邪魔をするつもりはないからね。これ以上余計な詮索はするつもりはないんだけどさ・・・。」
また、ルインの目が鋭くなった。
「あの人がここに運び込まれてきた時、孔技(孔を用いた技のこと)を受けた痕が結構な数あったんだよね。それもだいぶ新しいやつが。つまり、追跡中に攻撃したって事だよね。」
係長は反論しない。
「痕があった場所は、一歩違えば死んでいてもおかしくないところだった。問答無用で、おそらく逃走しかしていない相手に対して殺しても厭わない。でも市民には知らせない。おかしくない?」
係長は依然何も言わず、話についていくことを諦めてお茶係になったアコが出したコーヒーを静かに飲む。
「死体回収でもOKな程手段を選ばないぐらい危険な犯罪者なら、どうして住民に警告を出さないのかな?」



「・・・・・・。」
話を最後まで聞いた係長は、丁寧にコーヒーを最後まで飲むと、淹れてくれたアコにお礼を言って、最後にあと一回だけ尋ねる。
「それは、こちらの要求に対してNOと言うつもりか?」